⑤
宰相は苦笑した。
「兎も角、この井戸を調べて見なくては」
そういって彼は石壁の中を覗き込んだ。
私もそれに倣った。
中は砂で埋まっていた
大司教が、
「水を汲めますか?」
と聞いた。
「砂で埋まっている」
というと
「では何かの種を植えて、その根から水をくみ上げるのがよいでしょう」
との答えが来た。
随分と水にこだわるな、と思ったが、水の存在を考えると喉が渇いてくるのも事実であった。
私は頷き、影たちは自らの衣を探り始めた。
大司教は、ホーミンバオシュウの種が一番なんだが、種を持っていないと弁解した。
宰相が種を取り出して、ユィンスィンの種だと説明した。
輔弼大官も種を取り出し、此方のユィンファの種のほうが良いと主張した。
面倒くさくなりそうだったので私も自分自身の服を探ってみた
そして、黒っぽい豆のような種を見つけた
宰相はこれを見て、ファイの種だと言った。
聞きなれない名前だったが響きがよかったので、私はこれを植えることにした。
公爵が、
「両足で百回植えるところを踏めば成長が早くなるかもしれません」
というので、その言葉に従って植えた。
なるほど、植えたとたんに人の背丈十倍ほどの高さの木が生えた。
大司教が、刀で幹に一筋の傷をつけるよう言った。
木はかなり硬く、全身の力を入れて刀を押し当てるような形で、どうにか筋を入れることが出来た。
今度はその傷に口をあて、吸うようにしろと言われた。
その通りにすると、確かに口の中に水が流れ込んできた。
一通り飲み終わて井戸の上から降りると、輔弼大官が大司教を問い詰めていた。
「私に理解しがたいのは」
輔弼大官はあくまで冷静に切り出した。
「何故ピングォもしくはそれに近縁の木でなくとも水が湧いたかということだ」
「まあ、それは、彼の権能ともいうべきもののなせる業でしょうな」
大司教は思慮深げに答えた
「大事なのは砂から分離した『生命的時間』とでもいうべきものを水として吸い上げることです。ホーミンバオシュウであればあの井戸の力によって、またピングォやユィンファなら女王がそれらに与えた力によってそれが可能になる。そこがあのファイという木の場合彼の権能に置き換わった、それだけなのでしょう」
輔弼大官は納得したようだった。
私が下りてきたのに気づくと、彼は「蛇を見なかったか」と尋ねた。
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