マガジンのカバー画像

短編小説集

99
私の書き下ろした短編をまとめたものになります。
運営しているクリエイター

#小説

おじさんの書く描く鹿々

「あ、鹿おじさんだ」 とある少年が私を指差し笑った。 その隣にいる友達らしき少年は、首を…

30

暁を駆ける黒猫

黒猫のジジは嫌われていた。 ただただ、黒猫というだけで嫌われていた。 例えば、ふと昼間の…

28

eVA

23時55分。 私は意味もなく、踏切に寝そべっていた。 青色の蛍光灯が妖しく光り、備え付けられ…

21

黒山羊のハロウィン

「あ、死んだわ」 死ぬ直前の声というのは、もっと逼迫して、到底人間の出せるものではない断…

26

SS note杯 『神様カフェ』

「あのカフェにね、神様がいるんだって」 春菜の戯言を信じるつもりはなかった。 けれども、…

27

無限交差

「ねぇ、どうして私じゃないの?」 私は彼に必死に問いかけても、ただただ俯くばかりで、私の…

27

食生細胞(胎動)

人は愛を誓いたがる。 それは、互いの額に銃口を向けているのと同じだ。 愛ゆえに自由。愛ゆえに束縛。 なぜこんなにも愛というのは歪み切っているのだろうか。 私の愛はいつだって飢餓だった。 満たそうとするも、嘘をつかれ、裏切られ、逃げられて。 そんな私が行き着く先など、いつも決まって泥沼というものであった。 だが、今晩だけは、私は泥沼から這いだしたのだ。 私はおかげでひどく疲れ、青く冷えた脱衣所で蹲っていた。 やっとこそさ終えた作業は、私にとっては重労働であった。 彼との幸

今夜、雨鳴りにつき。

深夜2時30分。 私は雨の音で目が覚めた。 ベランダのコンクリート濡れ、ぽたんぽたんと手すり…

39

【短編小説】アザミの棘

教室に花が咲いた。 最初はほんの小さな、吹けば飛んでしまいそうな紫色の花だった。 花瓶に…

33

水仙と月の熱病

月の熱に魘され、喉がひたすらに渇く。 「あなたさえ、いなければ」 私は、夜中の2時45分に…

28

【短編小説】時織りの手紙

 祖父が亡くなった。  つい二週間前のことだ。  あまりの突然の訃報に暁人は驚き、納骨が…

29

【短編小説】んもれ

ったく、なんで俺がこんな目に合わなきゃいかんのだ。 つくづく不幸なことばかりじゃねぇか。 …

44

時織りの手紙(6)

令和3年9月1日 この日、暁人は珍しく朝7時に起床した。 夏休み中の大学生と言えば、お昼ごろ…

19

【短編小説】無拍子な春

僕には、人の波が視える。 見えるのではなく、視える。 感じるといったほうが近いのかもしれない。 僕が人を見る時、その人の仕草や言葉遣い、口の動きから指の動きまで、些細な部分に目がいってしまう。 そんな細かな情報の一つ一つが頭の中にインプットされると、それが一つの波となって表れる。 波の高さや間隔の幅によって、その人の感情が浮き出てくるのだ。 何を馬鹿なと思うかもしれないが、僕は物心ついた時からそうだ その波によって、人の感情を読み取れてしまう。 そして、僕の頭の中に浮かび上