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今夜、雨鳴りにつき。

深夜2時30分。
私は雨の音で目が覚めた。

ベランダのコンクリート濡れ、ぽたんぽたんと手すりに落ちた水滴が甲高く鳴っている。
薄い窓一枚の向こう側から聞こえるその音が、何もない真っ暗で空虚なこの部屋に反響している。
まるで鍾乳洞の中にいるような、そんな錯覚さえ覚えた。

雨のせいか、部屋はひどく冷え込んでおり、すぐに眠ることができず、睡魔の誘いが来るのを待ちながら、私はじっと天井を見つめていた。

今日は色んなことがあった。
靴の紐が解け、転びかけたこと。
お昼のランチで行ったお店が美味しかったこと。
商談でテンパって失敗したこと。
帰りに買おうとしていたスイーツが売り切れていたこと。

そんな1日は、もう過去のこと。
この暗い部屋で雨鳴りの音を聞いていると、過ぎ去った1日に想いを馳せてしまい、少しだけ感傷的になってしまう。
笑ったこと、意気込んだこと、緊張したこと、落ち込んだこと。
そんな感情の起伏たちが、天井にぼんやりと映し出され、私はそれを見て「あぁ、今日が終わった」と思うのだ。

ぽたんぽたんと雨が鳴る。
心地よい、雨の音。

「さよなら今日の私。待っててね、明日の私」

私は雨鳴りに抱かれながら、ゆっくりと眠りについた。

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静 霧一/小説
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