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なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか? 『裸心』を読みました


大塚咲 その冷たい瞳には何が映ってるんですか?

 この本を手に取った理由は、大塚咲が出ているから。私の大好きなAV女優だった。
 ――このブログでは、こういう話を避けてきた。でも今回、あえて取り扱う。
 あくまで、立派な職業としての『AV女優』を掘り下げる。

 私が彼女に興味を持った理由は、独特の冷たい表情だった。その目は、辛い体験を経てきた人生を表している気がした。だが、作中で彼女は「こういうインタビューで不幸な話をしろって言われるけど、全然ない!」という趣旨を答える。
 不幸な理由があってAV女優になったのではなく、自己表現の場として、アダルトビデオを選んだ。「エロは自分のテーマ」と語る彼女は、高校生のとき既に6Pを済ましていたのだという。
 また、小学生の時には痴漢もされていたと告白する。それは母娘で買い物している時だったらしく、被害を母親に相談しても、返ってきた言葉は、「あんた、エロいのよ」だったそうだ。
 あまつさえ、高校時代のあだ名は「AV女優」で、はやくデビューしろとからかわれていた。そういった辛い過去が、やっぱりあったのだ。
 前回の記事でもちょっと紹介したけど、性産業に従事する女性は、幼少期に性犯罪の被害に遭っている事が多い。

 そして、その性的トラウマを乗り越える為に、自ら望んで性産業へと足を踏み入れるのだそうだ。

 しかし、彼女がそう語ったわけではないし、あくまで私が理解している知識の範囲で判断した事である事は留意してもらいたい。
 経緯はどうであれ、この章の最後で彼女は、「今、本当に幸せ」と言っている。

 因みに、「不幸な過去はない」とこのインタビューで彼女は言っているが、AV女優引退後の著書で、性犯罪の被害に遭っていた事を告白している。

  その著書に関するインタビューを引用する。

――大塚さんがAV女優を目指したきっかけを教えてください。


たぶんその当時は、そうするしかなかった。そういうことをしないと、立っていられないような精神状態になっていました。高校1年の時に性犯罪に遭い、そこから性に対して奔放になってしまった自分がいます。レイプされた時の恐怖感は、今でも忘れられない。そんな中AV女優という仕事を選んだ自分は、心の奥底で「性行為なんか、なんでもないことなんだ」と、思いたかったんだと思うんです。



――無意識的に、良い記憶や体験に塗り替えたいという強い衝動だったのかもしれないですね。


当時はわからなかったんですけど、後から勉強したら、強い恐怖を感じるものに対して何度も飛び込もうとするのは心理学的にもよくあることだそうで、はたから見たらおかしいかもしれないですけど、当人としてはすごく全うな現象なんだそうです。だから、当時の自分の中では、AVという仕事は「せざるを得ないこと」だったんですよね。

AV女優は“第二の人生”を歩めないのか? 元AV女優が業界の悪習や性的画像問題を語る

かすみ果穂 セックスが変わった理由を教えて下さい

 高校生の時、姉が働いているキャバクラへ遊びに行ったそうだ。そこで知り合った男性にラブホテルへ連れ込まれ、部屋の中で逃げ回るも、無理矢理犯されたのだそう。
 「気持ち悪い」と思いながらも、その体験を経て、自分はドMだと気付いた。そう彼女は語る。
 ――「気付いた」というより、「なった」と表現した方が正しいかもしれない。私はそう思った。
 また、AV女優になるまでに付き合ってきた9人の彼氏達にも、セックスの下手さを怒られる事があったそうだ。それが劣等感を増幅させ、勉強という意味でAV女優に興味を持つようになった。
 そして、自らスカウトマンに声を掛け、面接に至ったという。そしてその帰り道、痴漢に遭遇したと告白する。
 そして、何やかんやあって撮影に繋がるも、デビュー作は男優の勃ち待ちになり、あまりの情けなさに大泣きしたと語られる。
 私は読みながら思った。きっと彼女は、このインタビューでは語れない過去があるのだろう、と。
 ――彼女はAVについて、「自分を認めてもらえる場所」と語った。そう言う彼女は、今まで自分の居場所を追い求めながら生きてきたという事になる。
 彼女の言葉には、何か秘密があると推察してしまう。

「頭のおかしい女のコが出るものだと思いますよ、アダルトビデオって。

自分が出ているからって肯定はしません。

私がもしもAV女優でなかったらそういう認識だと思うし。

世間一般の考え方を失ったら、それを正当化してしまったら、

歯止めがなくなって、もう元の世界には戻れないだろうし。

善悪を判断できない世界に飲み込まれちゃうと思う。

(中略)

でも、だけど全否定して欲しくないんですね。

だってカメラの前で脱いで、セックスして、観てる人を確実に悦ばせ、

興奮させるなんて芸当は誰にでもできるわけじゃないと、

5年やってはっきり思えましたから。

(中略)

AV女優だって

みんなと同じ血が流れている人間なんですよ

かすみ果穂

藤井シェリー 探しものはなんですか?

 「大家族のお母さんになりたい」
 意外な言葉から始まるインタビュー。
 藤井シェリーは取材の中で、親が共働きで性格が寂しがり屋だと告白する。なるほど、それが大家族になりたい理由か、と納得する。
 また、2歳の時に両親がセックスを見せつけてきたと語る。ソファに父と座っていても、母は自分を押しのけて父にキスしていたらしく、その記憶が脳裏に焼き付いているようだ。
 親から突き放される行為は、子供にとって辛い経験となる。本人に自覚がなくとも。彼女自身、その告白の後に「それがあってAV女優になったのかも」と笑っている。
 彼女はインタビューの最後にこう言った。
 「生まれてからずっとセックスに囲まれた人生だった」

範田紗々 生涯アダルトビデオで働く夢はどうなりましたか?

 「死ぬまでAV女優として生きたい」から始まる本章。しかし、彼女は引退している。
 なぜ、宣言とは裏腹に、AV女優を辞める決断をしたのだろうか。

 「親の仲は昔から悪かった」という重い言葉から始まるインタビュー。
 価値観が合わない同士で結婚すれば、喧嘩が耐えない事は容易に納得できる。
 範田紗々の両親は、できちゃった婚だったそうだ。それについて、「私がいなかったら結婚しなかった」と悲しそうに話す。
 あまつさえ、幼少期から、父親が母親に暴力を振るう様を見て育った。だが、その様子を語るにあたって、彼女は父親を擁護する発言をしている。
 『ストックホルム症候群』という病名が頭の中に浮かぶ。

ストックホルム症候群(Stockholm Syndrome)は、人質や被害者が自分を脅迫または虐待している人に対して共感や愛情を抱く心理的現象を指します。
この用語は、1973年にスウェーデンのストックホルムで起きた銀行強盗事件で、人質たちが犯人に同情的な態度を示したことから名付けられました。

この現象は、人質が自分の安全や生命を守るために、犯人との関係を改善しようとする心理的な防衛機制の一形態として理解されています。
ストックホルム症候群は、人質状況だけでなく、家庭内暴力や虐待的な関係など、他の状況でも見られることがあります。

この症候群には以下のような特徴があります:

1.人質や被害者が犯人に対して肯定的な感情を持つ。
2.被害者が犯人の行動を正当化しようとする。
3.被害者が自分の安全を犯人に依存していると感じる。
4.被害害者が自分の虐待者に対する同情や愛情を表現する。

ストックホルム症候群

 「アンタなんて産まなきゃ良かったわ!」と、母親に言われた事があるらしい。その話を聞くと、父を守って母を責める気持ちに同情する。
 「範田紗々は感情を相手に伝えるのが苦手?」という著者の問いかけに対し、「苦手では無いけど、無駄でしょ? 私が親に不満を言ったり、現状を変えようと努力しても、最終的には『お前なんか産まなければ良かった』って言われるだけだから」と返している。
 また、彼女が高校へ進学すると、そこの教師と交際する。11歳年上。範田紗々自信が、「お父さん的な部分を先生に求めて付き合っていたのかもしれない」と語っている。
 卒業と同時にその彼氏とは別れる。その後は短大へ入学するも、1ヶ月で自主退学し、家に引きこもるようになった。
 彼女の過去は、あまりにも壮絶過ぎる。
 それから彼女は一人暮らしをする決心をして、バイトを掛け持ちするようになる。そんなフリーター生活の最中、芸能事務所にスカウトされて、雑誌のグラビアを飾るようになる。
 それから映画でヌードを披露し、その後、AVのオファーも来る。それについて、彼女はこう語った。
 「戸惑ったりする以前にAV女優がいったいどんな仕事なのか紗々には本当にわからなかったのね。仕事の内容も想像すらできなかった」
 
それでも彼女は、AV女優になる道を選んだ。その理由については、こう言っている。
 「(プロデューサーが)『引退するまでキミの面倒を見る』と口説いてくれたのが大きいと思う」
 「家族みたいな存在だって紗々には思えた」

佐伯奈々 栄光を捨て、自分を壊すようにセックスするのはなぜですか?

 「正直、セックスって大嫌いなんですよ」
 衝撃的な言葉で、インタビューは始まる。
 両親にAV出演がバレた経緯と、それから何年も続く親とのいざこざに、胸が苦しくなった。
 彼女もまた、AV業界に居場所を求めた女性なんだ。この業界は汚いものとして扱われがちだけど、その中に居場所と幸福を見出す人もいる。アダルトビデオを否定する事は、彼女らの人生を否定する事に等しい。
 そして、AV女優を引退した佐伯奈々は、キャバ嬢をしているそうだ。そこで彼女は、夢を語る。

佐伯奈々ちゃんが、

自分はすごく結婚願望が強いんだけど、

結婚できるかどうか不安だって言ってて。

「だって、二千人の男に抱かれたAV女優なんて、重すぎるから。

でも、私生活の私は、本当は弱くて、泣き虫で、甘えん坊な女の子なんです。

今いる場所から私を連れ出してくれる男の人、

私のことを裏切らない最後の男の人が欲しい。

遊びの男とかもうどうでもいいんで、私だけの本当の家族が欲しい」

https://victoria.hatenablog.com/entry/20110618/1308400003

水野つかさ どうしてそんなに騎乗位がうまいんですか?

いろんな男の人とエッチするのは犯罪じゃないもん。その瞬間が楽しければいいんですよ。

『裸心』P297

 『望んで性産業に入る人がいる』という話があるけど、この子がそれだと思う。
 インタビューを読み始めた時は「キャラでこれやってんのかな? 話作ってるのかな?」と思ったけど、読み進めていくうちに「この子は根っからこういう性格なんだ」と理解する。
 思ってたAV女優の過去とは違った。
 この子の時だけ、AV女優になろうとした経緯と、なってからの周囲の反応などの掘り下げが薄い気がした。だからイマイチ感想が書きにくい。

滝沢優奈 フェロモン系ゴージャス美女はどこへ消えたんですか?

 著者の質問に対して、抽象的な表現を使って返事をする、滝沢優奈。いまいちつかみどころのない人だなぁと思った。
 そう思いながら読み進めていくと、彼女の過去を想像してしまうセリフをつかまえた。

本名の私は自分がやりたいこともなければ、誰にも必要とされてないわけですよ。空っぽの女だったんです。でも、滝沢優奈は必要とされている

『裸心』P341

 彼女もまた、居場所や承認を求めてAV女優になったのだろうか。
 後に彼女が語ったところによると、家庭の事情で東京から田舎に引っ越すと、東京生まれの彼女は虐めの標的となり、不登校になってしまう。そこで「親を恨んだ」というセリフが出てくるが、恐らく家庭の事情からきているものだ。私はその、『家庭の事情』に深く切り込んでほしかった。
 そこをもっと聞かないと、彼女の人となりが分からない。滝沢優奈がなぜAV女優になったのかを、深く知る事はできない。
 後に出てくる話としては、彼女の周囲はヘルスや援助交際で生計を立ててたらしく、そういった性産業に手を出す事に抵抗は無かったらしい。
 成程。環境や学生時代の経験が、彼女をAV女優にしたんだな。

星月まゆら 過酷であればあるほどAVに出た意味があるってどういうことですか?

 インタビューに応じた彼女の両腕には、無数の傷跡があったと記されている。リストカットをした証拠だ。
 彼女は言う。

いまが人生で最も輝いてますね。AVに出て心から良かった、と思っています。出演前の私は本当に輝いていなかったので
(中略)
苦痛が快感なんです。過酷であればあるほどAVに出た意味があるんで

『裸心』P366

 これを読んだ時点である程度察したが、その推察通りだった。
 部屋のカーテンを閉めた真っ暗な部屋で、心療内科で貰った薬をアルコールで流し込む生活をしていたらしい。彼女自身も「自暴自棄」という言葉で表現している。他にも、自傷行為や被害妄想、幻覚があったらしい。
 また、彼女は中絶を経験してから自殺を試みる。失敗に終わってからあてもなく徘徊し、コンビニの雑誌でAV女優募集の求人を見つけ、電話をかけたそうだ。

性的なことで人殺しをしたわけですから、性的なことで自分自身の名前や、存在までをも消し去るくらいの罰を受け、それを背負いながら、償おうと思ったんですよ

『裸心』P385~386

 彼女は18歳と19歳の2回、中絶している。相手は同じ男で、1歳年下。同意のない中出しで出来てしまった子供らしい。
 彼女の過去は、あまりにも悲惨過ぎる。
 家庭環境はというと、彼女はよく泣く子で、押し入れによく閉じ込められたと語る。父親の方は精神的暴力で母親を沢山泣かせた末、"いなくなった"と表現されている。
 そういうトラウマが少なからず、彼女の人格形成に影響したのではないだろうか。
 現在、彼女は引退している。それは、過去の自分を許す選択をしたからではないだろうか。
 引退からかなりの年月が経った。もう自分を傷つけていない事を祈る。
 星月まゆらは、馬さんにでも乗りながら微笑んでいる方が似合っている。

読書感想文

 この本に登場する8人、みんな何かしら過去があった上で、AV女優になる事を選択している。
 まだまだ理解されない職業で、それによって周囲から嘲笑される。誹謗中傷は本人だけでなく、身内にまで及ぶ事もある。そうやって迷惑をかけてしまうと、彼女らも胸が苦しい事だろう。
 親バレした人もいるけど、だからといって、簡単に辞めなかった。むしろ、「もっと仕事を頑張らなくちゃ!」と思ったのではないだろうか。
 ――とある記事を引用する。

不特定多数の異性と過剰に性行為を繰り返すのも自傷の一種といわれ、カラダに自傷がある女性は、性行為の自傷も経験している可能性が高くなります。記憶にある限り、自傷がもっともひどかったのは、上京して間もなかった東北出身の18歳のAV女優でした。

長袖シャツを着て腕を隠していましたが、あまりに傷が多いのと、傷が新しかったのですぐに気づきました。会話をはじめる前に気づいたので、筆者は「腕の傷、すごいね」と声をかけました。 

「そうです。リスカ(リストカット)は、小学校4年生くらいからかな。それがリスカって知らないで、子どもの頃は腕じゃなくてお腹を切っていました。悪いことをすると怒られる、それと同じ。自分が悪いことをしたなって思ったとき、お腹を切った。最初はごめんなさいって気持ちかな。イジメられるってことは、私がなにかをしたんだろうなって」

(中略)

「横のリスカは甘えって誰かが言っていて、私は甘えでやっていたわけじゃないから縦に切りました。AV女優になってからリスカはしていません。本気というのは、死んじゃうかもってことかな。別に死にたくはなかったけど、死んでもいいかなって。甘えと思われたくなかった」

小4からリストカットを始めて18歳でAV女優に…心を閉ざした少女から本音を引き出した"大胆なひと言"

 この記事では深掘りされていないが、恐らく、彼女も壮絶な経験をしていると思う。でなければ、リストカットはしないからだ。
 ――辛い過去があった上で、行き着いたのが性産業
 未だに汚らわしい職業として扱われる節もあるが、この仕事に夢を見出したり、AV女優になる事で、人生を変えた人がいる事も事実だ。

世の中には、貧困で苦しむ女性がたくさんいます。貧困家庭出身だったり、何らかの理由で親と縁を切っていたりして学歴がなく、定職に就くことができない女性たちです。そういう女性が人生の一発逆転を狙いたいと思った場合、AVでチャンスをつかむことができるかもしれません。

たとえば、実際にAVでお金を貯めて、起業して成功した人もいます。また、貧困家庭出身で、親が学費を出せないから、進学を諦めていたけども、AVで稼いで大学に入ったという人もいます。

そこまで大きな転身ではなくても、ホームレス寸前だったところAVの出演料が手に入ったことで衣食住が足りて、人並みに社会に溶け込めた女の子たちもたくさん見てきました。彼女たちはみんな「AVと出会わなければ無理だった」と言っています。

元AV女優・川奈まり子さんが語る「引退後」の人生と待ち受ける困難<下>

 性産業は、セーフティネットとしての役割も果たしている
 話を読んでいると、「福祉で救われるべき人ばっかだな」と思ってしまった。インタビューで語られなかっただけで、本当は福祉を利用していたり、あるいは、利用したいけど突き返されたのか。もしくは、そもそも福祉が使えることを知らずにAV女優となったのか――
 また、一度AV女優になってしまうと、引退後もその事実が着いてくる。デジタルタトゥーとして残る以上、無かった事には出来ない。
 この本に出てきた8人は、もう全員引退している。彼女達は今、どうしているのだろうか。知る由もない。
 幸せに暮らしているのだろうか。


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