JW494 弱い母
【垂仁天皇編】エピソード23 弱い母
第十一代天皇、垂仁天皇(すいにんてんのう)の御世。
年が明け、紀元前25年、皇紀636年(垂仁天皇5)となった。
そんなある日・・・。
大后(おおきさき)の狭穂姫(さほひめ)(以下、さっちん)の元に、垂仁天皇の姉、国方姫(くにかたひめ)(以下、ニカ)が来訪していた。
ニカ「何か、気がかりなことが有るのではありませぬか? 大王(おおきみ)と喧嘩(けんか)をしているとか?」
さっちん「えっ? そ・・・そのようなこと、有り得ませぬ。ま・・・まさか、大王と私が・・・。」
ニカ「心に留(とど)めず、口にした方が、スッキリしますよ? 姉の私に、何でも言いなさい。」
さっちん「で・・・では、申しまする。息子の誉津別(ほむつわけ)こと『ホームズ』が、未(いま)だ、言の葉を覚えぬのです。それが、気がかりで・・・。」
ニカ「そんなことだったのですか・・・。案ずるには、及びませぬよ。子の育ちは、その子、それぞれ・・・。急(せ)いてはなりませぬ。いずれは『ホームズ』も、言の葉を発しましょう。」
「さっちん」の悩みを聞き、「ニカ」は、安堵(あんど)した様子で帰っていった。
残された「さっちん」は、幼い息子「ホームズ」を抱きかかえ、語りかける。
さっちん「ホームズ? なにゆえ、言の葉を発してくれぬのです? 母が、隠し事をしているからなの? 悪い『かか』様じゃと、思うておられるのか?」
ホームズ「あう。あう。」
さっちん「そうですね。悪い『かか』様ですね。『ホームズ』にとって、大切な『とと』様を、お救いもせず、日々、心に秘(ひ)めて・・・。分かっているのですよ。早うせねば、兄上が兵を挙(あ)げてしまうこと・・・。多くの子が『とと』様を失ってしまうこと・・・。分かっているのです・・・(´;ω;`)ウッ…。分かっているのに『かか』は、どちらも失いとうないのです・・・。」
ホームズ「ああ。あわう。」
さっちん「そうじゃ。弱い『かか』様なのじゃ。まことを申せば、このまま、消えてしまいたい。されど『ホームズ』・・・。汝(なれ)を置いては逝(ゆ)けぬ・・・(´;ω;`)ウッ…。嗚呼、私は、一体、どうすれば・・・。どうして、このようなことに・・・。」
思い悩む「さっちん」。
地獄のような時が流れた。
そして、短剣を渡されてから、一年が経とうとしていた、ある日のこと・・・。
「さっちん」の元に、兄の狭穂彦王(さほひこ・のきみ)がやって来た。
狭穂彦「大后よ・・・。あれから、一年近くが経とうとしておる。未だ、腹は括(くく)れぬのか? 汝(なれ)が弱腰(よわごし)なのであれば、もはや、兵を挙げるほかないのじゃが?」
さっちん「あ・・・兄上! 早まってはなりませぬ!」
狭穂彦「早まるな? そう申すのなら、汝(なれ)がやることは、決まっておろう?」
暗殺を唆(そそのか)す、狭穂彦。
「さっちん」の苦悶(くもん)が続く中、運命の時が訪れた。
紀元前25年、皇紀636年(垂仁天皇5)10月1日。
垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊(いくめいりひこいさち・のみこと)(以下、イク)が、来目邑(くめ・のむら)に行幸(ぎょうこう:天皇の外出)したのである。
「さっちん」も同行しての行幸である。
そして、来目を治める、久米押志岐毘古(くめ・の・おしきびこ)(以下、オシキ)が歓迎するのであった。
オシキ「大王(おおきみ)! ようこそ、来目へ! ちなみに、来目邑っていうのは、奈良県橿原市(かしはらし)の久米町(くめちょう)のことっす。エピソード67で、俺の御先祖様、大久米命(おおくめ・のみこと)が、御初代様から、いただいたんすよ。すごいっすよね?」
イク「それより・・・。僕は、これまで、どこにも御幸(みゆき)してなかったのかな?」
次回、来目邑で事件が起こる。
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