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戦地からの便り(3)

最後の日記


ただめいつだけの軽い気持である。

隣の室で「誰か故郷を想はざる」をオルガンで弾いてる者がある。

平和な南国の雰囲気である。

徒然つれづれなるままにれんげみに出かけたが、今はささげる人もなし。

梨の花とともにつつみ、わずかに思ひ出をしのぶ。

夕闇の中を入浴に行く。

隣の室では酒を飲んで騒いでゐるが、それもまたよし。

俺は死するまで静かな気持でゐたい。

人間は死するまで精進しつづけるべきだ。

ましてや大和魂を代表するわれわれ特攻隊員である。

その名にぢない行動を最後まで堅持けんじしたい。

俺は、自己の人生は、人間があゆる最も美しい道の一つを歩んできたと信じてゐる。

精神も肉体も父母から受けたままで美しく生き抜けたのは、神の大いなる愛と私を囲んでゐた人びとの美しい愛情のおかげであつた。

今かぎりなく美しい祖国に、わが清き生命をささることに大きなほこりと喜びをかんずる。


海軍大尉 市島保男命

神風特別攻撃隊第五昭和隊
昭和二十年(1945)4月29日
沖縄県東南方海上にて戦死
東京都出身
早稲田大学第二高等学院生 
二十三歳

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