JW284 歌う少女
【疫病混乱編】エピソード36 歌う少女
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
紀元前88年、皇紀573年(崇神天皇10)9月某日、ヤマトで、四道将軍(しどうしょうぐん)出陣の準備が進められていた頃、丹波国(たにわ・のくに)というか、その隣に位置する多遅摩国(たじま・のくに)にて・・・。
多遅摩に気立(けた)という地があった。
兵庫県豊岡市(とよおかし)の周辺である。
気立を治めているのは、県主(あがたぬし)の櫛竜命(くしたつ・のみこと?)であった。
そんな彼の館(やかた)を狙う者がいた。
狂(くるい)の土蜘蛛(つちぐも)こと『くるっち』である。
くるっち「お初にお目にかかります。わえ(私)が『くるっち』だ! 狂(くるい)は、二千年後の兵庫県豊岡市城崎町来日(とよおかし・きのさきちょうくるひ)のことだ。根城は久流山(くるやま)こと来日岳(くるひだけ)だ! そういうことで、てめぇら、攻めかかれぇぇ!」
家来たち「おお!」×多数
櫛竜「ん? 外が、にがこいなぁ(にぎやかだな)。」
くるっち「汝(なびと)が『櫛竜』か?」
櫛竜「ええぇぇ(;゚Д゚)!! こ・・・これは、なんだいや(何だ)?」
くるっち「見て分からんか! 反乱だぁぁ!!」
櫛竜「ちょ・・・ちょっと、待ちにゃぁ(待ちなさい)! その前に、聞きたぁことが有る。」
くるっち「なんだいや?」
櫛竜「なんで、わえの名前の読み方のところに『?』が付いとるんだ?」
くるっち「作者曰く、読み方が分からんかったさあだ(そうだ)。そういうことで、覚悟ぉぉ!!」
櫛竜「いろんな意味で、悔しいです!・・・グフッ。」
くるっち「櫛竜、討ち取ったりぃぃ! 今日から、気立は、わえらのモンだぁぁ!」
家来たち「おお!」×多数
土蜘蛛襲撃事件は、すぐ近くの黄沼前県主(きぬさき・の・あがたぬし)、穴目杵(あなめき)(以下、アナン)や多遅摩国造(たじま・の・くにのみやつこ)の多遅摩日楢杵(たじま・の・ひならき)(以下、ラッキー)の耳にも届いた。
アナン「ちょっと! ラッキーさん? 聞いたか?」
ラッキー「聞いたニダ! ビックリしたハセヨ!」
アナン「ん? なんで、半島のような言葉を?」
ラッキー「そげなことは、どうでもいいニダ。すぐ、ヤマトに報せるハセヨ!」
アナン「そ・・・そげだな。そんなら、息子の来日(くるひ)こと『クール』よ!」
クール「なんだいや? 父上?」
アナン「ヤマトの大王(おおきみ)まで報せに行ってこいっ!」
クール「分かった!」
指令を受けた「クール」は、急ぎ、ヤマトに向かった。
報せを聞いた、崇神天皇こと、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)は、驚愕の声を上げた。
ミマキ「なっ!? なんじゃと!? ま・・・まさか、多遅摩で反乱が起こるとは・・・。」
クール「だしけぇ(だから)、はよ来てくんさい(来てください)!」
ミマキ「あ・・・焦(あせ)るな。9月27日には出陣する手筈(てはず)となっておる。その折は、汝(いまし)も同行し、先導(せんどう:道案内のこと)せよ。」
クール「わ・・・分かりもうした。」
こうして、運命の9月27日を迎え、四道将軍が出陣した。
丹波方面を司るのは、丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)と、父親の彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)である。
一方、北陸方面を任された、大彦(おおひこ)は、和珥坂(わにのさか)を進軍していた。
同道するのは、ミマキの子、大入杵(おおいりき)(以下、リキ)であった。
大彦「和珥坂は、二千年後の奈良県天理市和爾町(てんりし・わにちょう)なんだな。」
リキ「せやけど、大伯父。山代(やましろ)の平坂(ひらさか)っちゅう説も有るみたいでっせ。二千年後の京都府木津川市市坂幣羅坂(きづがわし・いちさか・へらさか)ですわ!」
するとそこに、一人の少女が現れ、歌を詠(よ)み始めた。
少女A「御間城入彦(みまきいりひこ)はや 己(おの)が命(を)を 弑(し)せむと 窃(ぬす)まく知(し)らに 姫遊(ひめなそび)すもぉぉ♪」
大彦「歌の意は『大王(崇神天皇)よ。自分の命を奪おうと、時を窺(うかが)っていることも知らずに、若い娘と遊んでいるよ・・・』みたいなことだな。」
少女A「別の説も有るので、もう一句、詠みたいと思います。」
リキ「なんやて!?」
少女A「御間城入彦はや 大(おお)き戸(と)より窺(うかが)ひて 殺(ころ)さむと すらくを知(し)らに 姫遊すもぉぉ♪」
大彦「次の歌の意は『大王(崇神天皇)よ。大きな戸口より、窺って殺そうとしているのを知らずに、若い娘と遊んでいるよ・・・』みたいなことだな。」
リキ「せやけど、なにモンや?『おとん』のこと、呼び捨てにしてるで・・・。」
大彦「汝(いまし)が言っていることは、どういうことなのかな?」
少女A「別に意味は有りません。ただ歌っただけ・・・。」
リキ「別に意味が無い? そないなこと・・・。」
少女A「御間城入彦はや 己が命を 弑せむと 窃まく知らに 姫遊すもぉぉ♪ 御間城入彦はや 大き戸より窺ひて 殺さむと すらくを知らに 姫遊すもぉぉ♪」
もう一度、少女は歌い、そのまま姿を消してしまった・・・というのが『記紀(きき)』の記載であるが・・・。
大彦「ど・・・どうして消えないのかな?」
少女A「私・・・山代の平坂の方が、有力な説だと思うの。」
リキ「京都府木津川市の市坂幣羅坂やな? せやけど、なんでや?」
少女A「そこにはね。幣羅坂神社(へらさかじんじゃ)が有るの。私こと天津少女命(あまつおとめ・のみこと)が祀(まつ)られてるのよ。そこの『おじさん(大彦)』と一緒にね・・・(´;ω;`)ウッ…。」
大彦「な・・・泣かないでほしいんだな。誇(ほこ)りに思ってほしいんだな・・・。」
リキ「大伯父!? どういうことでっか? ちょっとした犯罪になってまっせ!」
とにもかくにも、大彦は、少女の一件を伝えるため、宮に戻ったのであった。
つづく
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