![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485268/rectangle_large_type_2_035724b5d9f439d4d417f3d1f7e7cf0b.png?width=1200)
ジャパンウォーズ9 安芸の怪煙
【神武東征編】エピソード9 安芸の怪煙
狭野尊(以下、サノ)ら天孫一行は安芸国に辿り着いた。
現在の広島県西部である。
ここで一行は空高く昇る煙を見た。
黒い煙が幾筋にも分かれ、空を覆い尽くさんばかりである。
その光景を訝しく眺めながら、一行は、広島湾内に突き出す岬に停泊した。
松が、うっそうと生い茂る森である。
![森に到着](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485220/picture_pc_53f1a906fb9cb4196b809cad09ef6454.png?width=1200)
そこに、一人の男が現れた。
謎の男「よう、来んさったのう。」
サノ「い・・・汝は誰ぞ?!」
謎の男「わしですか? わしが、この地を治める、安芸津彦じゃ。」
サノ「あ・・・安芸津彦?」
安芸津彦「天孫一行がやって来ると聞き、今か、今かと待っとりました。」
ここで、長兄の彦五瀬命(以下、イツセ)が代わって尋ねた。
イツセ「では、安芸津彦殿。汝は、我らを歓迎すると?」
安芸津彦「そがんこと当たり前じゃあ。たいがたい天孫御一行様の来訪を歓迎せんで、どう、せいっちゅうんですかいのう。」
イツセ「い・・・いやあ、まあ・・・そうやなっ。」
サノ「ところで、安芸津彦。あの煙は何じゃ?」
安芸津彦「ああ、あれは御一行を歓迎するために、烽火を上げたんじゃ。」
サノ「歓迎するため? されど、なにゆえ烽火なのじゃ?」
安芸津彦「そりゃあ、おっけえ烽火を見たら、喜んでくれると思うて、作ったんじゃ。ビックリしたじゃろ?」
サノ「しょ・・・正直に申さば、皆が訝しく思っておった。すまぬ。」
安芸津彦「なっ!? なんという正直な御心。わしは感服仕りましたぞ。」
皆が戸惑いを隠せぬ中、次兄の稲飯命が安芸津彦に尋ねた。
稲飯「ところで、安芸津彦殿。あの煙はどこから上げとるんや?」
安芸津彦「よくぞ聞いてくんさった。あれは、二千年後の広島市と言うところの西部にある山から、烽火を上げとるんじゃ。これを記念して、山に火がついとるけぇ、火山と名付けるつもりじゃ。ちなみに、標高488メートルじゃ。」
![火山1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485334/picture_pc_9da109ebaf00dbbb1348e49a8d700678.png?width=1200)
![火山2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485353/picture_pc_84d0547416e14c2f88ba615290c851c8.png?width=1200)
![火山3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485370/picture_pc_7233b01d5536d8cd33b16a81bb0570b8.png?width=1200)
![火山4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485397/picture_pc_508a6e54592cebbfe1da45fefd6d668b.png?width=1200)
![火山5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485417/picture_pc_fd9351859cc4e590bd5648939ff2d308.png)
その後、安芸住民による、天孫御一行様歓迎式典が行われた。
<安藝都彦、出迎えて奉饗せりとの傳説あり>
地元の歴史を編纂した「廣島縣史」には、そう記されている。
ちなみに、火山であるが、現在、山頂には「神武天皇烽火伝説地」の碑が立っている。
![火山の石碑](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51485517/picture_pc_3af2acb41a7a2f1958ddfb09338adef3.png)
また、湾内に突き出た岬の森は誰曽廼森と呼ばれるようになった。
サノが上陸した際、土地の者に「汝は誰ぞ?」と訊ねた伝承によるものである。
![たれその森1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51486109/picture_pc_ca912f707306105dfd7165a44c068a5f.png?width=1200)
その森の、すぐ傍に、サノたち天孫一行は行宮(仮の御所)を建てた。
これが、現在の広島県府中町にある、多家神社である。
「古事記」に記された多祁理宮の跡地であるとの伝承が残る。
![多家神社1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51487584/picture_pc_c04cdb7527f62811bb5cfafba237f92b.png?width=1200)
![多家神社2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51487606/picture_pc_d5c473ee3dd99087fc25122b6db88c6b.png?width=1200)
![多家神社3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51487621/picture_pc_9be5a82a981262c2c29aa1f18784c3c9.png?width=1200)
![多家神社4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51487648/picture_pc_abdbaa13354fa3c0e2abfc95afade65a.png?width=1200)
![多家神社拝殿](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51494289/picture_pc_0ca0fe5710de29367ae1762289b120da.png?width=1200)
ここで、五十手美(以下、イソ)と味日命が解説を始めた。
イソ「さきほど『古事記』に記されたと表現されておったが、それには理由がある。なんと『日本書紀』では宮の名前が違うのじゃ『書紀』の方は、埃宮といい、同一の宮を指すのか、それとも違うのか、今となっては、よく分からぬ。」
味日「多家神社では、同一の宮として扱っているみたいっちゃ。じゃっどん、埃宮の跡地といわれる、別の神社も有り、諸説紛々という状況やじ。埃宮伝承地については、後日、お伝えするっちゃ。」
もう一つ、「古事記」と「日本書紀」で異なるところがある。
滞在期間である。
「古事記」では七年、「日本書紀」では二か月余りと、大きく違うのである。
この理由も定かではないが、七年という期間があれば、稲作の方法を教え、灌漑技術を整えることも可能であろう。
水稲耕作が、九州から本州へと広がっていったことは、考古学的にも証明されている。
誰かが伝えたことは間違いのない事実なのである。
各地に伝わるサノの伝承は、技術が伝播された際の出来事が、初代天皇と結び付いたものなのかもしれない。
安芸津彦「勝手にまとめるなっ! まだ上陸地点の紹介が済んでないじゃろう!」
サノ「誰曽廼森に上陸したと、先ほど説明があったではないか?」
安芸津彦「実は、他にも地御前に上陸したという伝承もあるんですわ。」
稲飯「他にもあるんか?!」
安芸津彦「そうなんです。こっちの伝承では、わしは廿日市市の地御前に上陸した天孫御一行を倉重でお迎えしたことになっとるんです。地御前神社の神社西側の入り江を有府水門と言い、ここから上陸したという伝承があるですわ。その後、サノ様が火山に登られ、烽火を挙げとります。」
![地御前と倉重](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51488781/picture_pc_06075e13c84078a4979d80228b20af44.png?width=1200)
![地御前と倉重2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51488789/picture_pc_7a13ac84d9398a328e85bf40a08d4821.png?width=1200)
![地御前](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51488803/picture_pc_b206ecdd7542197e032eb2b150d6188f.png?width=1200)
![地御前神社1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51961086/picture_pc_d65fd2f30977d8b861ab2fb5c890b356.png?width=1200)
![地御前神社2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51961140/picture_pc_48e026867a7d1604b1e17c26833a418b.png?width=1200)
![地御前神社3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51961161/picture_pc_d04583e46de91f83f155473ccf367bd7.png?width=1200)
![地御前神社拝殿](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51961174/picture_pc_429c2c52fb979eaaf0176bdf0d595c78.png?width=1200)
![倉重](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51488820/picture_pc_a9581271c90c08f0647c311dcb6e12e1.png?width=1200)
サノ「烽火を挙げたのは、我だったという話か・・・。」
安芸津彦「ほうです。それが終わった後、休山で休まれて、下山されました。そして、山本の出口から船に乗られ、祇園の帆立で帆を張って進まれて、対岸の戸坂に上陸されたんです。そこから中山峠を越えて、森に入ったみたいですな。」
![火山から帆立](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51494020/picture_pc_0dec749978517b776fa5ade367f598c2.png?width=1200)
![帆立から戸坂](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51494049/picture_pc_11009993bd1f530748a68510b567f8a0.png?width=1200)
![戸坂から多家神社](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51494063/picture_pc_a6a15d1576c27d88fedfbea7f44247ff.png?width=1200)
![火山伝説](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51490500/picture_pc_bc048cc841e084c731c5df05abacaa8f.png?width=1200)
サノ「どのルートでも問題はない。大事なのは、安芸国に入ったことぞ。」
稲飯「じゃが。それより、安芸津彦自身の紹介も必要なのではないか?」
イソ「そうですな。では、安芸津彦殿、自己紹介を頼みまする。」
安芸津彦「わしが安芸津彦じゃ。安芸国造の祖と言われとる。国造っちゅうのは、前回、紹介した通り、地方長官みたいなやつじゃな。それと、正式に国造に就任したんわ、わしの五世孫(玄孫)にあたる飽速玉命じゃ。」
力説する安芸津彦に大久米命が合いの手を入れる。
大久米「第十三代目の成務天皇の時代っすね。」
安芸津彦「ほうじゃ。それと、わしは『先代旧事本紀』では、天湯津彦命として登場しとるんじゃ。」
続いて、三兄の三毛入野命(以下、ミケ)が合いの手を入れる。
ミケ「中つ国に降臨なされた、饒速日殿を中心に書かれた書物のことっちゃね。」
サノ「で・・・では、汝はニギハヤヒ殿を知っておるのか?」
安芸津彦「知っとるも何も、一緒に降臨した仲じゃけぇ。」
安芸津彦の告白を聞いて、天種子命が過敏に反応した。
天種子「えっ!? ほんまか? では、我のじいちゃんも知っておるのか?」
安芸津彦「こやねっちゃん(天児屋根命)のことは、よう知っとるよ。」
天種子「わ・・・我のじいちゃんを、こやねっちゃ・・・。」
稲飯「天種子のじいちゃんは、ニギハヤヒ殿と一緒に降臨して、また天に戻って、我のひいじいちゃんと、改めて降臨してるんやったな。」
天種子「また天に戻ってるんが、よく分からんのやけど・・・。」
サノ「まあ、良いではないか。それより、安芸津彦よ。他に、解説せねばならぬことはあるか?」
安芸津彦「そうですのう。わしは阿尺国造、信夫国造、伊久国造などの祖でもありますな。」
大久米「阿尺は福島県郡山市周辺、信夫は福島県福島市周辺、伊久は宮城県角田市周辺のことっすね?」
安芸津彦「よう勉強しとるのう。そうじゃ。」
![三つの](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51492081/picture_pc_814b5a4e7e613e3372f36ca210a629ed.png?width=1200)
![三つの国造](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51492092/picture_pc_daf528ac82aa74b46b369595dc4fdede.png?width=1200)
イソ「広島から遠く離れし、東北地方の国造の祖ともなっているのをみると、安芸津彦殿の一族は、大和朝廷内でも信任の厚い一族だったのでしょうな。」
安芸津彦「褒めても何も出んぞ。」
ミケ「それだけじゃないっちゃ。安芸国府の在庁官人で、平安時代には、厳島神社の祭祀を司り、勅使代も務めてきた田所家も、安芸津彦の子孫であると伝わってるんやじ。」
![厳島神社1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51492449/picture_pc_a71d0538a3a90d8b95e1f65cef1d915e.png?width=1200)
![厳島神社2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51492469/picture_pc_7a0a71d5fcb1d144d6ace65eb64bfef4.png?width=1200)
![厳島神社鳥居](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/51492548/picture_pc_45291cb9029168f8a222eb3249e6a556.png)
サノ「兄上。在庁官人とは?」
味日「それについては、俺が説明するっちゃ。在庁官人というのは、地元の有力者が、地方官を務めるということやじ。勅使代っちゅうのは、天皇の使者の代行役ということっちゃ。イソ殿が申していた通り、信任の厚い一族やったんでしょうね。」
安芸津彦「褒めても何も出んぞ。」
サノ「されど、それだけ忠誠心の厚い男であったというのは間違いなかろうな。」
安芸津彦「なんと・・・。お褒めの言葉をいただき、真に嬉しい限りにござりまする。」
味日「さっきまでと全然違うっちゃ!」
サノ「まあまあ、良いではないか。それよりも、まずは水稲耕作教室と灌漑公共工事じゃ。いろいろ視察もせねばな。」
イソ「安芸国の各地を巡るのですね?」
サノ「じゃが。稲作に適した地、そうでない地、いろいろと見定めねばなるまい。」
イツセ「そのためには、安芸津彦殿に先導を御願いせねばならぬな。」
安芸津彦「この地は、我が庭のようなもの。お任せくだされ!」
サノ「うむ。頼んだぞ。」
こうして安芸国振興作戦が開始されたのであった。
つづく