JW295 多遅摩の豪族たち
【丹波平定編】エピソード2 多遅摩の豪族たち
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
ここは、川上郷(かわかみ・のさと)の須田(すだ)。
二千年後の地名で言えば、京都府京丹後市久美浜町須田(きょうたんごし・くみはまちょう・すだ)。
丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)率いる、ヤマトの軍勢は、ある人物の館に来ていた。
その人物とは、尾張建諸隅(おわり・の・たけもろすみ)(以下、ケモロー)である。
ケモロー「やっとかめだなも(おひさしぶりです)!」
ミッチー「おお! ケモロー! ようやく参ったぞ!」
再会を喜ぶ二人。
その間を縫(ぬ)うようにして、ミッチーに同行していた、黄沼前来日(きぬさき・の・くるひ)(以下、クール)が吼(ほ)えた。
クール「こげぇなこと(こんなこと)、しとる時だぁねぇ(してる時じゃない)! はよ、多遅摩(たじま)に行かぁ!」
ミッチー「そう急(せ)くな・・・。多遅摩は逃げぬぞ。」
クール「そげぇなこと言わんで! 皆が待っとるんだわ!」
ケモロー「たしかに『クール』殿の申す通りだで。皆、待っとるでよ。では、紹介します! 多遅摩の豪族のみなさん、だがや!」
ミッチー・クール「ん?」×2
するとそこに、多遅摩の豪族たちが現れた。
まず、多遅摩国造(たじま・の・くにのみやつこ)の多遅摩日楢杵(たじま・の・ひならき)(以下、ラッキー)。
ラッキー「我(われ)が『ラッキー』ニダ! よろしくハセヨ!」
次に、多遅摩竹野別当芸利彦(たじまの・たかのわけ・の・たぎりひこ)(以下、たぎり)。
たぎり「そうです。私が『たぎり』です。」
そして、黄沼前県主(きぬさき・の・あがたぬし)の穴目杵(あなめき)(以下、アナン)である。
アナン「我(われ)が『アナン』だっちゃ! 息子よ! よう帰ってきた!」
クール「ち・・・父上? それに『ラッキー』殿や、『たぎり』殿まで・・・。」
ケモロー「我(われ)の館に、集まってもろうとったんだで。」
ミッチー「左様か・・・。なれば、話が早い。狂(くるい)の土蜘蛛(つちぐも)こと、『くるっち』は、今も、気立(けた)におるのか?」
ラッキー「そうニダ! 気立県主(けた・のあがたぬし)の櫛竜(くしたつ?)殿を討ち取ってから、ずっと占拠しているハセヨ!」
アナン「まあ、伝承は、そげなことまで書かれとりゃぁせんが、櫛竜殿を討ち取ったんだけぇ、そこに居座っとるはずだっちゃ。」
ミッチー「されど、なにゆえ『くるっち』は、多遅摩に攻め込んで来たのじゃ?」
たぎり「ヤマトに奪われた地を取り戻すとか、言ってましたよ?」
ミッチー「それは、丹波(たにわ)についてであろう? なにゆえ、多遅摩なのか・・・。」
クール「あれ? 聞いとらんかったかいや? わえら(私たち)の時代、多遅摩は、丹波の一部だったんだわ。」
ミッチー「なんじゃと?!」
アナン「但馬国(たじま・のくに)として、独立するんは、7世紀後半みたいだっちゃ。」
ミッチー「さ・・・左様か・・・。で・・・では、気を取り直して、気立に向おうぞ!」
アナン・クール・たぎり・ラッキー「おお!」×多数
ミッチー「して『ケモロー』には、頼みたいことがある。」
ケモロー「何だね?」
ミッチー「出雲(いずも)に赴いてほしいのじゃ。どのような務めなのかは、追って話す。」
ケモロー「分かったがや!」
たぎり「ところで、私の名を聞いて、ビックリしませんでしたか?」
ミッチー「唐突に、何じゃ?」
たぎり「あれ? 私、あの有名人の子孫なんですよ?」
ミッチー「有名人? 一体、誰のことを申しておるのじゃ?」
たぎり「では、出陣の前に、話しておきましょう。私の御先祖様は『たけし』殿なんです!」
一同「・・・・・・。」×多数
ミッチー「す・・・すまぬ。分からぬ。」
アナン「わえら(私たち)も、初耳だわ。」
たぎり「あれ? 四代目、懿徳天皇(いとくてんのう)の皇子(みこ)ですよ?」
ラッキー「四代目なんて言われても、そげな昔、よう分からんハセヨ!」
たぎり「あれ? 武石彦奇友背命(たけしひこくしともせ・のみこと)なんだけど・・・。」
ミッチー「なっ! それは、五代目、孝昭天皇(こうしょうてんのう)の弟君(おとうとぎみ)ではないかっ!」
たぎり「だから、ずっと、それを言ってるんだけどなぁ・・・。」
ミッチー「さ・・・左様であったか・・・。では、遠い親戚になるのじゃな?」
たぎり「まあ、そういうことになりますねぇ。」
クール「すまんが、『たぎり』殿。こげぇな時に、多遅摩竹野別が『たけし』殿の子孫とか、どうでもええことだわいや! そにゃぁなことより、はよ、気立を取り戻さにゃぁならんだらぁ(ならないだろ)?」
たぎり「そういうこと言っちゃうんだもんなぁ。分かってますよ。それくらい・・・。」
ミッチー「まあまあ、仲良うせねばならぬぞ。では、出陣じゃ!」
するとそこに、一人の女人が駆け寄ってきた。
先に紹介しておこう。
ケモローの娘、河上摩須郎女(かわかみのます・のいらつめ)(以下、マス子)である。
マス子「エピソード241以来になりますぅ。マス子ですぅ。」
ミッチー「マス子殿? 如何(いかが)なされた?」
マス子「もう! いけずなこと仰(おっしゃ)らないで! 武運長久を祈って、お見送りに来たんやないですかぁ・・・(〃▽〃)。」
ミッチー「さ・・・左様か・・・。で・・・では、行って参るっ!」
マス子「お気を付けてぇぇぇ!!」
こうして、「ミッチー」一行は、多遅摩に向かったのであった。
つづく