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SDGs×地域課題、その学習を振り返って。

今年、総合的な学習の時間における「プロジェクト型の学び」を考える機会に恵まれた。

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総合学習というと、「地元を学ぼう」といった単元学習、職場見学・体験などが、真っ先に思い浮かぶのではないだろうか。

そうした経験も大切であることは間違いないが、毎年の恒例行事と化してしまうことが多い。「何のための職場体験だっけ?」

また生徒のアウトプットも、スライドによるプレゼンテーションポスターセッションなど、決まりきった方式で行っている場合も少なくないと思う。

なぜ探究学習なのか

紋切り型の職場体験やスライド発表では不十分なのか。
プロジェクト型の学びや、探究学習を推進すべき理由は何か。

この2点について、新学習指導要領から引用しつつ、この問いに対する私なりの答えを出してみる。

中央教育審議会答申においては、予測困難な社会の変化に主体的に関わり、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすることが重要であること、こうした力は全く新しい力ということではなく学校教育が長年その育成を目指してきた「生きる力」であることを改めて捉え直し、学校教育がしっかりとその強みを発揮できるようにしていくことが必要とされた。(中学校学習指導要領総則解説 総合的な学習の時間編、P11)

つまり、総合的な学習の時間は「生きる力」の涵養を目的としている、ということである。

「生きる力」とは何か、というと……。

このため「生きる力」をより具体化し、教育課程全体を通して育成を目指す
資質・能力を、
ア「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」
イ「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」
ウ「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」
の三つの柱に整理するとともに、各教科等の目標や内容についても、この三つの柱に基づく再整理を図るよう提言がなされた。(中学校学習指導要領総則解説 総合的な学習の時間編、P11)

プロジェクト型の学びや探究学習を進める意義として、ウの項目を育む目的というのが最も適当ではないだろうか。

現行の職場体験には、以下のような問題点がある。

・生徒が10代のうちに関わる大人は、家庭/学校/習い事(部活動)といった範囲の人間に限られるため、多様性に欠けている。
・それは、生徒一人一人が憧れをもてるような本気の/かっこいい大人に出会えないということである。働くことや、大人になることに対して、マイナスイメージを醸成することにつながる。
・職場体験は単純業務雑用に終わることが多く、そこで働く大人の哲学に触れにくい。「社会・世界と関わる」とは言い難い。
・職場体験先は既に決められていることが多い。ここで主体性が失われる。

アルバイトインターンシップを経験した人なら分かると思うが、それらは職場体験と雲泥の差がある。それらのメリットは、例えば以下のようなものが挙げられる。

様々な業種・年代の人と関われる。
○アルバイト先には何かの専門性に長けたプロがいる。
報酬(賃金だけでなく、経験値やスキルを含む)がある。
自分で応募先を決める。
○様々な業種に応募できるので、職業適性が判断できる。
長期にわたって働くことができる。
GRIT(やり抜く力)を育てる。

就職活動の面接で、「学生時代に、最も自分のプラスになった経験は何ですか?」と問われる大学生の中に、「職場体験です」と答える人間がどれほどいるのだろうか?

なぜSDGsなのか

生徒がプロジェクト型の学びを進める上で、条件設定したのは2つ。

地域課題解決に資すること
SDGsの項目いずれかに貢献する活動であること

地域課題解決をテーマにする理由は簡単で、生徒にとって最も身近な社会が地域だからである。
プロジェクトを実行に移すまでが簡易で、かつ、シビックプライドを育むことにもつながる。

地域課題解決だけでなく、そこにSDGsを掛け合わせた意味。

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あるラーニングコミュニティで、探究学習について学ぶ機会があった。
そこで、講師の方が「SDGsは共通の文脈として扱いやすい」ということをおっしゃっていた。

つまり、どの学校でもできるということ。
これは、初めてプロジェクト型の学び(さっきから探究学習と呼んでいないのは、探究学習と呼ぶには未熟な実践なので……悪しからず)を実践する上で、勇気をくれた。

世界的なトレンドであるということも、生徒に「なぜSDGsなのか」という説明をするときに役立った。

また、「その地域だけがよくなればよい」というプロジェクトが立ち上がったときの、抑止力にもなる。

広く考えれば、その国だけがよくなればよい……という考え方にもつながりかねない。

それは、地球全体、隣人にとっても「よい」ことなのか?
この考え方は、苫野一徳さんの「自由の相互承認」の感度を育むことにつながる。

地域課題という、ローカル(局所的)な観点。
SDGsという、グローバル(国際的)な観点。

様々な観点からプロジェクトを見つめることで、みんなが持続的によくなっていくための方策を考えることができる。
これが、SDGsを取り入れることのメリットだと思う。

授業の流れ

生徒はSDGsに関する知識をもち合わせていない。
まずはSDGsのレクチャーを担ってくれる、そんな人探しから始まった。

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国際理解に造詣のある方をゲストに呼び、SDGsに関する講演をしてもらおう、ということになった。
仮にSさんとする。

昨年度も、生徒会の企画で登壇してもらったこともある。
当校を卒業し、学区の地域に今も住まわれている。
地域で活動している人たちと様々なネットワークをもっている方である。

社会に開かれた教育課程、地域に出ていく総合学習を進める上で、これほど心強い存在はいない。
このゲストの方には、学年主任が声をかけてくれた。

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教員と地域をつなぐ、いわばコーディネーター
この存在がいかに貴重かということは、教員になって身に染みて分かった。

学校の仕事は多すぎる。
地域人材を一から探すにも、何から始めればよいか分からない。
そんなとき、仲介してくれる人がいると一気に話が早くなる。

教員1年目から知り合えていたら、もっと色々なことができたかもしれない。
1・2年目は職場に順応するので手一杯だった感もあるけど。

そういうわけで、SさんにSDGsのレクチャーをお願いした。

その後、生徒から「この地域のよさ」を挙げてもらった。

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逆に、この地域に住み続ける上で不安な点も挙げてもらった。

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次の時間は、オープンスクールでいない生徒もいたので、調べ学習。
興味をもったSDGsのターゲットや、具体的な企業の取組を調べる。
こういった時間も必要だと思う。

そして、「地域課題解決×SDGs」を満たすプロジェクトを、15グループ(学年の人数は60名程度なので、各3~4人の班)に分かれて考えてもらった。

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様々なプロジェクトが発案された。
しかし、「現実的に可能なのか?」というものが多く、軌道修正を迫られた。

そこで、学年主任やSさんと相談し、地域の方々をゲストティーチャーとして迎えることになった。
その多様性ときたら、すごい。

行政職員、パティシエ、廃材アーティスト……。

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ゲスト一人一人の活動を紹介してもらいつつ、生徒の大半はそれらに乗っかる形でプロジェクトを再構築した(原案がそのまま本当に進められたものもあったが)。

プロジェクトの事例紹介

プロジェクトの1つを紹介。
学年の約60名を学年部の教員4名で割り、教員1人につき生徒15名3班を担当した。

私が担当したチームは、「地域の方々を招いてお茶会を開こう!」というプロジェクト。
感染禍の影響で、小規模ではあるが高齢者の方々を招くことになった。

地域課題……過疎化、高齢者の孤立化
SDGsの項目……11.住み続けられるまちづくりを

高齢になっても集える場所があることで、住みよい町になるのではないか。この仮説のもと立ち上がったプロジェクトである。

その中の1班は、地域の特産であるポポーという果物を使って、お茶会で提供するスイーツづくりを行った。

そのお菓子作りにプロのパティシエが協力してくださることになり(その方も中学校のOB)、生徒とスイーツの試作をしていただいた。

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カップケーキを作り、ポポーの果肉をクリームと合わせた。

他の2班はチラシ製作やお茶会のプログラムを練り、当日は無事にやり遂げることができた。

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定期的に里山の散策をしている団体から、4名が参加してくださった。
「美味しい!」「若い人たちと久しぶりに話せて楽しかった」という声が聞かれ、終始和やかな雰囲気。

ただ、プロジェクト型の学びとしてはまだまだ荒さが目立った。

まずスイーツ
シフォンケーキと生クリームが主張しすぎて、ポポーが生かしきれていなかったこと。

また、レクリエーションがトランプやオセロを持っていくだけで個性がなかったこと。
オセロで遊んでいるだけの生徒もいて、企画の甘さを感じた。

そして、ポポーをPRしきれていないこと
チラシのデザインをも詰め切れておらず……。
他にもSNSを使うなど、「効果的な広報とは?」というテーマが学べる内容ならよりよかったのでは。

しかし、一つの場をつくる大変さは少しでも伝わったはず。これは机の上だけで学ぶことはできない。

我々の班以外も、木で子ども向けのおもちゃを作ったり、はかま紙をつくって高齢者の方に届けたり、セイタカアワダチソウ(外来種)の煮汁で染め物をしたり。

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同僚の先生が「なんだか、みんな生き生きしてますね」とつぶやいていたのを覚えている。
同じ授業時間でも、まったく異なる活動を各々がしている。
なんだか、すごい空間だった。

学習を振り返って

今までお世話になったゲストティーチャーの皆さんをお招きし、振り返りを行った。

当日は2時間を確保し、前半1時間は県内の市町村から先進事例を紹介していただき、後半1時間で各グループごとに分かれて振り返りの場を設けた。

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各グループおよそ1名ずつ、ゲストティーチャーにも入っていただいた(ゲストが来られないグループもあり、ところどころ寂しそうだったのが残念)。

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最初の頃に比べると、かなり面白く本質的なアイデアに溢れていると思う。後述するが、もう1年あったら更にすごいことができたな、と感じる。

全15班のグループワークで使用したシートをまとめると、以下のようになる。

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この総合学習に取り組んだ生徒たちは、既に卒業している。
次なる生徒たちが、この土台をうまく使ってくれることを願う(私も残念ながら異動)。

反省とまとめ

この活動は探究学習の準備段階として位置付けるべき内容だと思った。
生徒は地域での活動経験がないし、どのような人的・物的資源があるのかも分からない。

まずは、元からある活動に乗っかってプロジェクトを立てる。
その後、その経験を生かして新たにプロジェクトを進める……とした方が、より自分ごとの学習を進められたと思う。

乗っかる形は、生徒の経験としては必要だと思うけれど、主体性を発揮してプロジェクトに臨むには難しい……と感じた。

ただ、探究の入口って恐らくこんな感覚だろう、と。
そう自然に思えたのは嬉しかった。

普通の公立中学校でも、先生方や地域の皆さんと協業して、こんな学びを仕掛けることができる。
生徒中心に振り回されている感じも新鮮で、本当によい経験をさせてもらった。

さて、学習を終えて、Sさんからいくつかの質問があった。
それらが、自分自身の振り返りとしてとても有効だったので、こちらでも記載しておく。

質問①
SDGsの視点を学習活動に取り入れたことで、どのような学びの成果があり、どのように子どもたちの成長につながったと感じますか。

「今までSDGsのことを知らなかったけれど、テレビなどで特集されているのが目に入るようになった」「地域のことを知った気でいたけど、いろいろな大人がいるということが分かった」と振り返る生徒がいました。

彼らはZ世代以降の存在であり、より社会問題サステイナビリティに関心を寄せることが予想されます。

例えば、彼らが就職先を決めるとき、「この会社はSDGsの観点から、どのように持続可能な企業活動をしているのか」と考えて選択するかもしれません。

後でも述べますが、キャリア教育の効果は確実にあると思います(具体的な数値やデータがすぐ示せないのが残念です)。

質問②
SDGsの視点を学習活動に取り入れる際に、意識したことや工夫したことはありますか。

SDGsは17の目標がクローズアップされがちですが、それらはマクロなので、どうしたら生徒が身近に感じられるか、自分ごととして捉えられるか、ということを特に意識しました。

SDGsを簡単にできることとして捉えてほしかったので、169のターゲットについて言及したり、身の回りでもできそうな例(ごみを出さない、食べ残しをしない等)を示したり、具体的なアクションを起こすための工夫をしました。
プロジェクトを進めるフィールドは、彼ら自身の地域なので。

質問③
地域や外部と連携した学習の意義はどのようなところにあると感じますか。

学校が開かれた場になることで、生徒が多様な大人と関わることができ、キャリア教育の観点から非常に有効であると考えます。

現在の学校はブラックボックス化しており、生徒が学び、育っていく過程が教員以外に見えていません。

そして、人生の重要な部分を占める発達過程に関わる大人が、ほとんど教師・保護者・部活動指導者というのは、多様性に欠けていますし、キャリア形成の環境として貧しいとさえ言えます。

変化の激しい時代に、多様な選択肢から進路を選び取ってほしいと願う大人は多いと思います。

そのためには、多様な大人と関わる環境が必要ではないでしょうか。

学校の透明性を確保し、生徒は「本気の大人」と交流することで、自分のキャリア選択を豊かにしていけると思います。

質問④
SDGs学習や外部連携を積極的に取り入れた学習を進めるうえで、先生方の悩みや苦労点、難しいことなどがあれば教えてください。

学校と地域をつなぐコーディネーターが、すぐに見つからないことです。

地域連携を進める上で、渉外をはじめ、授業プログラムの相談など、コーディネーターは欠かせない存在です。

教員が一からこれらの仕事を担おうとすると、時間や労力といったコストがかかり、学習の質を担保できません。

「生徒がこんなことをやりたいと言っているんですが……」と尋ねたら、「それだったら、○○さんのところはどうですか?」というリアクションが返ってくるだけで、スピード感がまったく違います。

また、保護者の方も重要なステークホルダーであると感じています。

「本気で地域をよくしたい」という保護者の方に、まずは「こんな授業を、こんな目的でやりたいと思っているのですが」と持ち掛けられれば、学校だけでなく家庭とも連携して学習が進められるのではないでしょうか。

そういったコミュニケーションのきっかけを、どこでどうつくればよいのか迷います。

さらに磨きをかけて

テレビでも「SDGsウィーク」などと銘打って、特集されているのを見ることが増えた。
SDGsというワードが市民権を得てきた今、その流れを教育に生かさない手はない。

今いる学校でも、ブラッシュアップさせてぜひ取り組みたいと思う。
その模様はまた追って。
これを読んでくれた誰かが、「やってみようかな」と思ってくれたら嬉しく思う。

結局、学校だけ変化しても意味がないと思います。

どんなによい学校を卒業しても、社会がまったく変化していなければ、子どもたちは絶望することでしょう。

つまり、まちごとよりよくなっていかなければならないのです。

そのためには、学校・地域・家庭・行政・企業など、多様なステークホルダーの連携・協働、またそのどれもが成長することが肝要です。

SDGsは、人間であれば誰しも関わりをもつ共通の文脈です。

「もっとよりよい世界にするために、やるべきこと・できること」が凝集されたフォーマットがSDGsだと考えています。

つまり、SDGsを学習の核に据えることで、誰でも参入が可能になります。

生徒・家庭はSDGsについて学べますし、地域・行政・企業は社会貢献活動としてSDGsを推進することになり、まち全体の活性化が見込めます。

多様なステークホルダーと協働する学習を考えるとき、「敷居の低さ」「間口の広さ」を併せ持っているSDGs。

地域の特色が分からないという土地でも、「とりあえずやってみたい」というニーズに応えられるテーマではないでしょうか。

その意味では、「探究学習をどう進めればよいのか?」と悩んでいる全国の学校に向けて提案できる、1つのパッケージになると思います。

前回の記事もよろしければ。




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