SDGs×地域課題、その学習を振り返って。
今年、総合的な学習の時間における「プロジェクト型の学び」を考える機会に恵まれた。
総合学習というと、「地元を学ぼう」といった単元学習、職場見学・体験などが、真っ先に思い浮かぶのではないだろうか。
そうした経験も大切であることは間違いないが、毎年の恒例行事と化してしまうことが多い。「何のための職場体験だっけ?」
また生徒のアウトプットも、スライドによるプレゼンテーションやポスターセッションなど、決まりきった方式で行っている場合も少なくないと思う。
なぜ探究学習なのか
紋切り型の職場体験やスライド発表では不十分なのか。
プロジェクト型の学びや、探究学習を推進すべき理由は何か。
この2点について、新学習指導要領から引用しつつ、この問いに対する私なりの答えを出してみる。
つまり、総合的な学習の時間は「生きる力」の涵養を目的としている、ということである。
「生きる力」とは何か、というと……。
プロジェクト型の学びや探究学習を進める意義として、ウの項目を育む目的というのが最も適当ではないだろうか。
現行の職場体験には、以下のような問題点がある。
アルバイトやインターンシップを経験した人なら分かると思うが、それらは職場体験と雲泥の差がある。それらのメリットは、例えば以下のようなものが挙げられる。
就職活動の面接で、「学生時代に、最も自分のプラスになった経験は何ですか?」と問われる大学生の中に、「職場体験です」と答える人間がどれほどいるのだろうか?
なぜSDGsなのか
生徒がプロジェクト型の学びを進める上で、条件設定したのは2つ。
地域課題解決をテーマにする理由は簡単で、生徒にとって最も身近な社会が地域だからである。
プロジェクトを実行に移すまでが簡易で、かつ、シビックプライドを育むことにもつながる。
地域課題解決だけでなく、そこにSDGsを掛け合わせた意味。
あるラーニングコミュニティで、探究学習について学ぶ機会があった。
そこで、講師の方が「SDGsは共通の文脈として扱いやすい」ということをおっしゃっていた。
つまり、どの学校でもできるということ。
これは、初めてプロジェクト型の学び(さっきから探究学習と呼んでいないのは、探究学習と呼ぶには未熟な実践なので……悪しからず)を実践する上で、勇気をくれた。
世界的なトレンドであるということも、生徒に「なぜSDGsなのか」という説明をするときに役立った。
また、「その地域だけがよくなればよい」というプロジェクトが立ち上がったときの、抑止力にもなる。
広く考えれば、その国だけがよくなればよい……という考え方にもつながりかねない。
それは、地球全体、隣人にとっても「よい」ことなのか?
この考え方は、苫野一徳さんの「自由の相互承認」の感度を育むことにつながる。
地域課題という、ローカル(局所的)な観点。
SDGsという、グローバル(国際的)な観点。
様々な観点からプロジェクトを見つめることで、みんなが持続的によくなっていくための方策を考えることができる。
これが、SDGsを取り入れることのメリットだと思う。
授業の流れ
生徒はSDGsに関する知識をもち合わせていない。
まずはSDGsのレクチャーを担ってくれる、そんな人探しから始まった。
国際理解に造詣のある方をゲストに呼び、SDGsに関する講演をしてもらおう、ということになった。
仮にSさんとする。
昨年度も、生徒会の企画で登壇してもらったこともある。
当校を卒業し、学区の地域に今も住まわれている。
地域で活動している人たちと様々なネットワークをもっている方である。
社会に開かれた教育課程、地域に出ていく総合学習を進める上で、これほど心強い存在はいない。
このゲストの方には、学年主任が声をかけてくれた。
教員と地域をつなぐ、いわばコーディネーター。
この存在がいかに貴重かということは、教員になって身に染みて分かった。
学校の仕事は多すぎる。
地域人材を一から探すにも、何から始めればよいか分からない。
そんなとき、仲介してくれる人がいると一気に話が早くなる。
教員1年目から知り合えていたら、もっと色々なことができたかもしれない。
1・2年目は職場に順応するので手一杯だった感もあるけど。
そういうわけで、SさんにSDGsのレクチャーをお願いした。
その後、生徒から「この地域のよさ」を挙げてもらった。
逆に、この地域に住み続ける上で不安な点も挙げてもらった。
次の時間は、オープンスクールでいない生徒もいたので、調べ学習。
興味をもったSDGsのターゲットや、具体的な企業の取組を調べる。
こういった時間も必要だと思う。
そして、「地域課題解決×SDGs」を満たすプロジェクトを、15グループ(学年の人数は60名程度なので、各3~4人の班)に分かれて考えてもらった。
様々なプロジェクトが発案された。
しかし、「現実的に可能なのか?」というものが多く、軌道修正を迫られた。
そこで、学年主任やSさんと相談し、地域の方々をゲストティーチャーとして迎えることになった。
その多様性ときたら、すごい。
行政職員、パティシエ、廃材アーティスト……。
ゲスト一人一人の活動を紹介してもらいつつ、生徒の大半はそれらに乗っかる形でプロジェクトを再構築した(原案がそのまま本当に進められたものもあったが)。
プロジェクトの事例紹介
プロジェクトの1つを紹介。
学年の約60名を学年部の教員4名で割り、教員1人につき生徒15名3班を担当した。
私が担当したチームは、「地域の方々を招いてお茶会を開こう!」というプロジェクト。
感染禍の影響で、小規模ではあるが高齢者の方々を招くことになった。
高齢になっても集える場所があることで、住みよい町になるのではないか。この仮説のもと立ち上がったプロジェクトである。
その中の1班は、地域の特産であるポポーという果物を使って、お茶会で提供するスイーツづくりを行った。
そのお菓子作りにプロのパティシエが協力してくださることになり(その方も中学校のOB)、生徒とスイーツの試作をしていただいた。
カップケーキを作り、ポポーの果肉をクリームと合わせた。
他の2班はチラシ製作やお茶会のプログラムを練り、当日は無事にやり遂げることができた。
定期的に里山の散策をしている団体から、4名が参加してくださった。
「美味しい!」「若い人たちと久しぶりに話せて楽しかった」という声が聞かれ、終始和やかな雰囲気。
ただ、プロジェクト型の学びとしてはまだまだ荒さが目立った。
まずスイーツ。
シフォンケーキと生クリームが主張しすぎて、ポポーが生かしきれていなかったこと。
また、レクリエーションがトランプやオセロを持っていくだけで個性がなかったこと。
オセロで遊んでいるだけの生徒もいて、企画の甘さを感じた。
そして、ポポーをPRしきれていないこと。
チラシのデザインをも詰め切れておらず……。
他にもSNSを使うなど、「効果的な広報とは?」というテーマが学べる内容ならよりよかったのでは。
しかし、一つの場をつくる大変さは少しでも伝わったはず。これは机の上だけで学ぶことはできない。
我々の班以外も、木で子ども向けのおもちゃを作ったり、はかま紙をつくって高齢者の方に届けたり、セイタカアワダチソウ(外来種)の煮汁で染め物をしたり。
同僚の先生が「なんだか、みんな生き生きしてますね」とつぶやいていたのを覚えている。
同じ授業時間でも、まったく異なる活動を各々がしている。
なんだか、すごい空間だった。
学習を振り返って
今までお世話になったゲストティーチャーの皆さんをお招きし、振り返りを行った。
当日は2時間を確保し、前半1時間は県内の市町村から先進事例を紹介していただき、後半1時間で各グループごとに分かれて振り返りの場を設けた。
各グループおよそ1名ずつ、ゲストティーチャーにも入っていただいた(ゲストが来られないグループもあり、ところどころ寂しそうだったのが残念)。
最初の頃に比べると、かなり面白く本質的なアイデアに溢れていると思う。後述するが、もう1年あったら更にすごいことができたな、と感じる。
全15班のグループワークで使用したシートをまとめると、以下のようになる。
この総合学習に取り組んだ生徒たちは、既に卒業している。
次なる生徒たちが、この土台をうまく使ってくれることを願う(私も残念ながら異動)。
反省とまとめ
この活動は探究学習の準備段階として位置付けるべき内容だと思った。
生徒は地域での活動経験がないし、どのような人的・物的資源があるのかも分からない。
まずは、元からある活動に乗っかってプロジェクトを立てる。
その後、その経験を生かして新たにプロジェクトを進める……とした方が、より自分ごとの学習を進められたと思う。
乗っかる形は、生徒の経験としては必要だと思うけれど、主体性を発揮してプロジェクトに臨むには難しい……と感じた。
ただ、探究の入口って恐らくこんな感覚だろう、と。
そう自然に思えたのは嬉しかった。
普通の公立中学校でも、先生方や地域の皆さんと協業して、こんな学びを仕掛けることができる。
生徒中心に振り回されている感じも新鮮で、本当によい経験をさせてもらった。
さて、学習を終えて、Sさんからいくつかの質問があった。
それらが、自分自身の振り返りとしてとても有効だったので、こちらでも記載しておく。
質問①
SDGsの視点を学習活動に取り入れたことで、どのような学びの成果があり、どのように子どもたちの成長につながったと感じますか。
質問②
SDGsの視点を学習活動に取り入れる際に、意識したことや工夫したことはありますか。
質問③
地域や外部と連携した学習の意義はどのようなところにあると感じますか。
質問④
SDGs学習や外部連携を積極的に取り入れた学習を進めるうえで、先生方の悩みや苦労点、難しいことなどがあれば教えてください。
さらに磨きをかけて
テレビでも「SDGsウィーク」などと銘打って、特集されているのを見ることが増えた。
SDGsというワードが市民権を得てきた今、その流れを教育に生かさない手はない。
今いる学校でも、ブラッシュアップさせてぜひ取り組みたいと思う。
その模様はまた追って。
これを読んでくれた誰かが、「やってみようかな」と思ってくれたら嬉しく思う。
前回の記事もよろしければ。
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