【本要約】AIとBIはいかに人間を変えるのか
本記事は、2018年2月に刊行されました『AIとBIはいかに人間を変えるのか』(波頭亮著/株式会社幻冬舎)の要約・解説の記事です。戦略系コンサル兼ソシオエコノミストとして活動している著者が、AI(人工知能)によって変わっていく世界において、BI(ベーシックインカム)の必要性、実現すればどのような変化が我々の生活に起きるのかについて深く考察されています。
▼アウトライン
【本書の結論】
・将来AIにより産業革命以上の生産性向上が見込まれ、人間は労働から解放される
・先進国において資本主義は格差の問題など限界を迎えている
・格差を是正するには新しい富の再分配方法が必要で、最適なのがBIである
・AIにより生産活動が賄われ、BIにより富が分配される世の中では人は生きるために働くのではなく、自己実現ややりがいを求めて働くようになる
AIによる社会変革は言わずもがな、今後日本でも議論が活発になるであろうBI。
どちらも社会に重大なインパクトを与える出来事で我々の将来設計に大きく関わってきます。
▼AIとは
AIについては過去の記事で説明してきました。
人工知能は人間を超えるか ディープラニングの先にあるもの
誤解だらけの人工知能: ディープラーニングの限界と可能性
詳細は上記を読んで頂ければと思いますが、本書において重要な点は以下です。
・AIにより生産性が大幅に上がる
・人間は生きていく上で必要な生産はAIで賄うことができる
・知的労働の多くがAIにより代替され、感情労働の価値が上がる
つまり、AIが発展していけば、人間は働く必要がなくなる可能性があることを示唆しております。AIと仕事の関係では、「AI脅威論」に代表されるようにAIが人間の仕事を”奪う”というような悲観論が多く見られますが、裏を返すと「労働」からの解放とも言えます。
しかし、AIによって多くの仕事が代替されると、これまで資本主義の根幹を成していた「資本家」と「労働者」によるバランスが崩れ、「資本家」+「資本(AI)」で全て完結できるようになります。その場合、資本家による富の独占が起こる可能性があり、多くの労働者の生活水準が低下する可能性があります。
そのような事態を避けるためにも、新しい「富の再分配」の方法が必要となり、現在考えられる最適な分配方法がBI(ベーシックインカム)です。
▼BIとは
BI(ベーシックインカム)とは、「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ために国民全員に無制限、無条件で現金を配る制度です。
日本でも、コロナ禍において、全国民に一律給付金10万円が支給されましたが、まさに、あれはBIの一種です。
【BIの長所】
BIと従来の社会保障制度を比較すると、5つ長所があります。
特に従来の社会制度では「誰にお金を配るのか」というところに多くの人為的なコストや思惑が入っており、そのことが全体最適を損ねていると言われています。
また、現行の「生活保護制度」では、年収の基準が設けられているため、働くと損をするような労働を阻害する制度設計になっています。その点、BIは年収による基準がないため、労働のインセンティブが損なわれない長所があります。
その他にも、BIには「景気対策」に繋がる経済的なメリットもあると言われています。BIが実現すれば、将来に向けて貯蓄しなくても生活は保証されているので、その分消費に回すことができるようになるためです。
また、日本では「終身雇用制度」など、企業がセーフティネットの役割を果たしてきた部分があり、世界でもトップクラスに解雇規制のある国です。
すでに「終身雇用」は崩壊しつつあることは周知の事実ですが、BIが実現し、企業がセーフティネットの役割を負わなくてよくなれば、最適な企業活動が行われ、結果的に経済の活性化などに繋がるため、国民にも還元される好循環になると言われています。
【BIの懸念点】
ここまで見ていただいた通り、非常にメリットのあるBIですが、制度的な懸念点も指摘されています。その代表的なものが以下の2つです。
①フリーライダー問題 ・・・働かない人を増やす
②財源問題 ・・・そもそも財源が足りない
①については、過去世界で何度か行われてきたBIの実験において、働かない人が増加したという事実はありません。人は生きるためだけに働いているわけではなく、自己実現などの社会的欲求を満たすためにも働くため、むしろ自分らしい働き方を実現できるようになると、著者はこの懸念点に反論しています。
②については、仮に月額8万円を現金支給する場合、予算は約122兆円必要となる見込みであるため、現実的にその財源をどう確保するかが問題になります。
BI導入により不要になる社会制度の財源に加え、著者は以下の方法で予算は確保できると指摘します。
ⅰ.国民負担率60%まで引き上げる
ⅱ.資産課税を引き上げる
ⅰについては、欧州先進国と比べると、日本の国民負担率は低く、まだ引き上げる余地はあるといいます。また、BIと組み合わせれば、負担率を上げても、実質的には多くの国民にとってプラスになることは間違いありません。
(この辺りは本書で紹介されている試算を見て貰ったほうがいいかも知れません)
ⅱについては、BIは富の再分配の役割も担う必要があるため、資産への課税は必須といいます。特に現在はピケティが「21世紀の資本」で「r(資本収益率) > g(労経済成長率)」の数式を用いて指摘した通り、「富めるものがより富める」時代になっています。このことが格差が拡大している要因です。
この格差の不均衡を是正するためには、資産への課税が必須です。
その他にも、「官僚の抵抗」や「働かざる者食うべからず」の社会通念などがBI実現を阻害する要因となります。
ここまでをまとめると以下の図になります。
まとめた通り、BIは古くから議論されており、その有用性については認知されているものの、現状実現していない理由もいくつあることがわかりました。
しかし、AIによる発展がこのBIの実現を加速すると著者はいいます。
▼AIとBIにより社会はどう変わるか
ここまで、AIにより特に我々の「働く」はどう変わるのかと、BIについて解説して参りました。最後に、両方が実現した社会がどうなるかを解説します。
まず、端的にいうと、
「全ての生産活動をAIが行い、生きていくためのお金はBIで賄われる」
これが最終的にAIとBIで実現することです。
そのことにより、これまでのGDPに代表される豊さの考え方に転換が訪れるといいます。「人間らしく生きる」「幸福に生きる」といった意味的価値が増大していくと言われています。
我々の活動とは以下の3つの種類に大別できます。
この中での「労働」と「仕事の一部」をAIが担っていき、人間はどんどん「活動」の方へ向かっていきます。
また、労働なき時代はかつてのギリシアのような時代になるといいます。
ギリシア時代は、奴隷制度があり、市民が「生きるために働く」必要がありませんでした。学問や芸術などが盛んになった時代で、数学や天文学、哲学における歴史的な快挙はこの時代に行われています。
AIが発展すれば、ギリシア時代の奴隷制度の役割をAIが担い、人間はかつてのギリシアの市民のようになっていきます。
労働から解放され、本当の意味での豊かさを追求する時代になると本書では指摘されています。
▼まとめ
今回は、「AIとBIはいかに人間を変えるのか」を要約・解説して参りました。
最後に、総括した感想と補足としては、
【労働から解放されたら何をするのか考えよう】
ということを挙げさせていただきます。
【労働から解放されたら何をするのか考えよう】
本書が示すような労働から「解放される」というのは多くの人にとってポジティブなできことであると思います。
しかし、それが同時に「何をすればいいのか分からない」「生きている意味が見出せない」といった大きな苦悩を生む可能性もあると思います。
仕事一筋できた人間が、定年退職後に何をすればいいか分からず、途方に暮れるということはよくあるケースです。これが人類規模で起こる可能性があります。
そして、日本人は特にこの傾向が強いと思います。私が人材業界でエージェントをやっていたときに、特に20代の求職者の方に聞く質問がありました。
それは「もし、願いが3つ叶うとしたら何をしますか」という質問です。
これはあらゆる制限を外したときに、何を求めているのか、価値観を確認するために質問していましたが、意外と答えられる求職者の方が少なかったです。
よく「もし、○○ならば〜」と人はできない理由を探しがちです。
特に日本人はあらゆる制約を小さい頃から課されているケースが多く、いざ無条件でなんでもしていいと言われると自分が何をしたいか分からなくなるのだと思います。
そうなると、労働から解放されることが苦悩になるという残念な結果になります。
そうならないためにも、今から「仕事がなくなったらどう生きたいのか」に向き合っていく時間が必要になると思います。
そのためには、絶えず自問することと、「旅・人・本」で学んでいくことが大切なのではないかと思いました。
また、自分自身働かなくなっても、人生でこの人とは付き合いたいなとか、これはやっていきたいなとかを定期的に見返していかないといけないなと思いました。
今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。