見出し画像

哲学者池田晶子の全著作を読破したので、ざっくりと紹介

まず池田晶子という人について。

池田晶子は、哲学用語を使わない文章のスタイルで、本質を考える「哲学エッセイ」を多く書いた哲学者である。

日本で哲学者というと、99%が大学やアカデミックな場所で教授をしていたり研究をしていたりする人になるが、池田晶子はどこにも所属せずに生涯を通して哲学エッセイを書き続けた「在野の哲学者」とも言える。

僕は全著作を全て所持しており、また読破したが、ここに全部を載せていくとあまりに長い文章になってしまうので、全著作のなかから特徴的なものを抜粋してここに紹介していく。

amazonのリンクを貼っていくが、一時的に在庫がないものやすでに絶版になっていて入手しづらいものもあるので、その辺りはご理解いただきたい。

一冊でも、池田晶子の本が広く読まれることを願っている。


まずは14歳シリーズの2冊。
『14歳からの哲学 考えるための教科書』
『14歳の君へ どう考えどう生きるか』

14歳でもわかるような文章で書いているが、内容自体に年齢は関係なく大人でも読み応えのある内容。というよりは、これがスラスラわかる人はすでに結構考えてきている人なのだ。

物事を損か得かでしか考えたことのない人にとっては、どちらも退屈な内容になるのかもしれないが、本当はそういう人にこそ、本質を考えることが必要なのだ。

このどちらも哲学エッセイであるが、『14歳からの哲学 考えるための教科書』の方が少しかたい内容で、『14歳の君へ どう考えどう生きるか』の方が柔らかい内容。内容はどちらも似通っているので、好みで選んでいただければと思う。


次は池田晶子の言葉を集めた名言集的な2冊。
『絶望を生きる哲学』
『幸福に死ぬための哲学』

この2冊は、池田晶子が亡くなった後に、編纂され出版されたものであり、著者自体が本書には関わってはいない。

全著作のなかから、断片的に言葉を引用し集めた名言集のような本で、池田晶子の思想を広く浅く知るためには、この2冊から入るのがいいかもしれない。

言葉の引用元の本が記載されているので、気に入った言葉があればその元となった本を選んで深く読んでみることをおすすめする。文章の断片でも著者の思想を理解することはできるが、前後の文脈から味わうのが理想的だからだ。

哲学書は実は音楽に似ていて、「流れ」で読むものなのだということを、心のどこかで覚えていて欲しい。


ソクラテス三部作。
『帰ってきたソクラテス』
『ソクラテスよ、哲学は悪妻に訊け』
『さよならソクラテス』
が全て入っているのが『無敵のソクラテス』となる。

内容はソクラテスが現代に蘇り、様々なジャンルの人と対話をしていく。ソクラテスはアテネにて、色んな人達を論破していったというが、まさにこういう感じだったのだろうというのがよくわかる。

対話形式なので読みやすいといえば読みやすいが、対話の相手はソクラテスなのでどうしても煙に巻かれてしまう。

『無知の知』、知らないということを知っている、ということがいかに無敵かがよくわかる。最終的には「わからない」というところに収束していく……それが哲学の本質なのだ。


次は著作のなかでも比較的読みやすかった哲学エッセイ集。ちなみに著者はタイトルに拘りがないタイプの作家なので、タイトルはあまり気にしなくてもいい。


以下より紹介するのは、若干マニア向けの本となる。個人的に一番、印象的だった一冊。
『死と生きる : 獄中哲学対話』

本書は、池田晶子の著作の中でも一番力が入っていると感じた一冊。

睦田真志という死刑囚が、偶然獄中で池田晶子の文章を読み、池田晶子の文章によって本質が見えてきてしまい人格が変わってしまうほどに感動し、獄中からいかに自分が変わったかを池田晶子に伝える手紙を出したことから、池田晶子と睦田真志による文通が始まった、という内容。

結果として、死刑が執行されるまで手紙のやり取りがあり、その全てがのっている凄まじい内容である。私利私欲のためだけに生きてきた人間が、本質をついた文章を読んだばかりに、およそ悟りを開いたかのような人格に変わる様子は、人間にとって哲学がいかに大切かを存分に伝えている。個人的には一番勧めたいが、軽い気持ちで読める内容ではないため人を選ぶ一冊である。


こちらもマニア向けの一冊。

本書は池田晶子の思索ノートを単行本化したもので、内容はかなり断片的であり99%の人がさっぱりわからない、と匙を投げるに違いない。が、池田晶子の文章を読んできた人間にとっては、池田晶子の思考の原石を見ているようで楽しいことこの上ない。

池田晶子の原点だが、ここから読んでも何もわからないので、池田晶子の思想が身体に存分に染み渡った人には読んで欲しい一冊。


最後に

色々と勧めたが、自分がなんとなく直感的に惹かれたものを読んでいただけたら、それが一番であると思う。

本を紹介しておいてこんなことを言うのもあれだが、別に本を読むことが一番大切なのではなく、何よりも大切なのは自分の頭でしっかりと考えることなのだ。

与えられた情報や知識を、何にも考えたり疑ったりもせずに受け入れて、何かを「知った」ような気持ちになってしまいがちだが、自分の頭で考えなければ本当の意味で「知る」ことはできないのだ。

ここで紹介した池田晶子は、生涯を通じてそれを徹底した人で、著者の生き方や考え方は人生の必須科目だと僕は思っている。

ぜひ、読んでみてください。

この記事が参加している募集