介護について、思ったこと⑯「認知症」と「運転免許」
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臨床心理士/公認心理師の越智誠(おちまこと)と申します。
介護について、思ったこと
このnoteは、家族介護者に向けて、もしくは介護の専門家に対して、少しでも役に立つようにと考えて、始めました。
もし、よろしければ、他の記事にも目を通していただければ、ありがたいのですが、基本的には、現在、話題になっていることよりも、もう少し一般的な内容を伝えたいと思って、書いてきました。
ただ、その時々で、気になることがあり、もしかしたら差し出がましいことかもしれませんが、それについて考えたことを、お伝えしようと思いました。
よろしかったら、読んでいただければ、幸いです。
運転免許返納
運転免許更新で、警察署に手続きに行くと、こんな標語が大きく壁にありました。
「免許証 返す勇気も 長寿法」
この10年ほどで、高齢者の運転免許の返納のことが話題になっていますが、それが、こうした標語を見て、運転免許の返納が、まだそれほど浸透していないとしても、言葉としては、日常的になったと思いました。
こうしたことが常識になってきたのは、やはり不幸なことですが、交通事故があるからだと思います。
「認知症」と「免許停止」
認知症によって、免許停止も可能になる、という法改正はすでにあり、2017年に施行されています。
そのことは、当然ですが、社会的にも比較的広く知られることになりました。同時に、その実施の難しさも、様々な場所で話題になっていました。
さらに、これ↓は高次脳機能障害に関する「運転免許」に関する話ですが、認知症の場合も同じではないかと思われます。
おそらく、こうしたことは、今も解決されているとは言えないのではないか、という印象です。現在、介護をされながら、このことに直面されている方々も少なくないのではないでしょうか。安直な表現で申し訳ないのですが、難しい問題だと思います。
認知機能検査
現在、75歳以上の方の運転免許更新の際に「認知機能検査」が行われています。
通常「認知症かどうか」の診察を受けている場合は、よほど自覚症状があるか、もしくは周囲が病院に連れて行く、といったことに限られているようです。ですから、運転免許更新の際に、こうした検査が行われるのは、認知症と診断された場合に免許停止もありえる現状では、必要だとも思われます。
問題集の問題点
その一方で、この「認知機能検査」を突破するための問題集なども販売されています。
この認知機能検査を受ける方にとっては、これは突破するものであり、「合格」を目指すものと考えても自然なことだとは思うのですが、「認知機能検査」がより正確に機能するためには、問題集などで準備することは、決してプラスなことではないと考えられます。
たとえば、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、「ロールシャッハテスト」という心理検査があります。いわゆる「インクのしみ」のような図版を使用することで、被験者の心理状態をより深く、正確に把握するために行われています。そして、この検査に使用される図版に関しては、厳密に守秘が定められています。
「認知機能検査」も、心理検査の一種であれば、検査を受ける方が、前もって内容に対して知識や情報をもっていたり、もしくは練習をすることがあれば、その方の現在の状況が正確に把握できなくなる恐れがあります。
そう考えると、問題集が販売されている現状では、せっかくの「認知機能検査」自体が、正常に機能していない可能性もあり得ます。
専門家の提言
当然ですが、こうした問題に関しての調査・研究も行われています。
『「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」の具体化に向けた調査研究に係る 認知機能と安全運転の関係に関する調査研究』
(なお、この報告書は、約140ページにわたるものですが、この問題に関して興味がある方には必読ではないかと思います)。
この「調査研究」には、専門家による提言↓もあります。
私が医学的な判断に何かを語る資格はないのですが、この中で、認知症かどうかよりも、実際の運転技能のテストが重要だというのは、運転において事故を起こさないように予防する、という観点から見ても、納得がいく提言ではないかと思いました。
実車テスト
家族介護者の支援に関わっていたり、以前は家族の認知症の介護も経験したのですが、やはり、認知症かどうかの判断は難しいという実感があります。さらには、その症状も、本当に人によって違うので、ある能力について一律でできるかどうかを判断することは、さらに困難ではないかと考えられます。
特に高齢になれば、認知症でなくても、どんなに気をつけていても様々な能力が衰えるのは自然ですし、安全に運転できる判断力と身体能力があるかどうかを判断した方がいいのは明らかです。
しかも、先ほどの「調査研究」では実車テストについては、こうした提言さえありました。
もし、このことを重視し、実施するとすれば、教習所外での実車テストはコストもかかりますし、場合によってはテストを受けるご本人にも、同乗する検査者にもリスクがあることを考えれば、実際に行うのは難しいとも考えられます。
そうであれば、将来の交通事故の可能性を少しでも減らすために出来ることは、どんなことがあるかと思うと、やや途方に暮れる気持ちにすらなります。
環境改善
自分自身でも認知症かもしれない、といった不安を抱えていたり、そうでないとしても、運転技術の衰えを感じながらも、運転免許の返納まではできないという人たちがいらっしゃるとすれば、何かしらの対策をとれば、そうした方々の返納を促すことは可能かもしれません。
たとえば、自主的な運転免許返納者へ首相からの感謝状が送られたり、もしくは返納した人には感謝する形での、免許証と同じようなサイズの写真付きの身分証明書を手渡したり、もしくは、返納後の2年間は、「10%交通料金割引」にするなど、そういったメリットが感じられるような方法によって、高齢者の免許返納が促進される可能性があります。
こうしたことは安直な方法かもしれませんが、それと併せて、特に交通機関がなく、「クルマがないと生活できない」環境を、何かしらの代替交通機関をきちんと用意して、安心して免許返納ができるような社会に改善していく必要もあると思います。
VR
そうした環境改善と共に、「認知機能検査」の有効性を上げることも、将来の交通事故を減らすためには、やはり大事なことだと思います。
そのために実車テストが必要で、同時に教習所外のテストが難しいのであれば、VR(バーチャルリアリティ)の利用によって、ドライブシュミレーターや教習所の実車テストよりも、よりリアルな運転状況に近いテストを行うことはできないのでしょうか。
この実施には、さらに調査・研究も必要だとは思うのですが、もしVRの活用によって実車テストに近い状況がつくれるのであれば、そうした検査で、「安全に運転するには残念ながら技能が足りません」といった判断をされ、免許返納を促した方が、当事者も納得がいくと思うのですが、いかがでしょうか。
今回は以上です。
ここまでの文章は、未熟なことも多いと思いますので、もしよろしかったら疑問点、ご意見などをお伝えいただければ、ありがたく思います。
よろしくお願いいたします。
(他にも、介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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