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介護について、思ったこと⑯「認知症」と「運転免許」

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 初めて、読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

介護について、思ったこと

 このnoteは、家族介護者に向けて、もしくは介護の専門家に対して、少しでも役に立つようにと考えて、始めました。

 もし、よろしければ、他の記事にも目を通していただければ、ありがたいのですが、基本的には、現在、話題になっていることよりも、もう少し一般的な内容を伝えたいと思って、書いてきました。

 ただ、その時々で、気になることがあり、もしかしたら差し出がましいことかもしれませんが、それについて考えたことを、お伝えしようと思いました。

 よろしかったら、読んでいただければ、幸いです。


運転免許返納

 運転免許更新で、警察署に手続きに行くと、こんな標語が大きく壁にありました。

「免許証 返す勇気も 長寿法」

 この10年ほどで、高齢者の運転免許の返納のことが話題になっていますが、それが、こうした標語を見て、運転免許の返納が、まだそれほど浸透していないとしても、言葉としては、日常的になったと思いました。

 こうしたことが常識になってきたのは、やはり不幸なことですが、交通事故があるからだと思います。

2019年の4月には東京・豊島区で当時87歳の高齢者が事故で被害者を死傷させてしまい、社会的に大きな注目を浴びるという事件が発生しました。また、この事件によって免許を自主返納する高齢者の人数が増えるといった事態も見られています。

「認知症」と「免許停止」

 認知症によって、免許停止も可能になる、という法改正はすでにあり、2017年に施行されています。

 そのことは、当然ですが、社会的にも比較的広く知られることになりました。同時に、その実施の難しさも、様々な場所で話題になっていました。

 三月十二日、改正道路交通法が施行された。認知症と診断された高齢者について、免許停止が可能になったのである。当然の法改正と思っていたが、事態はそう簡単でもないらしい。

 施行の二日後、日本認知症ワーキンググループ(J D W G)が声明を発表した。彼らは改正は認知症への偏見を強化するものだと訴える。認知症は一様ではない。運転できるひともできないひともいる。事故原因を認知症だけに求めるのも短絡的である。そもそも運転は認知症者の生活にとって不可欠であることが多い。わたしたちは認知症を排除するのではなく、むしろ認知症と共存する社会を目指すべきではないのか。 
 僕はこの報道を見て考えこんでしまった。以上の主張は論理的には正しい。

 しかし同時に感じるのは、認知症者の運転禁止すら簡単に進められないとは、わたしたちはなんともむずかしい時代に生きているものだという疲労にも似た思いである。乱暴を承知で言えば、ぼくには認知症者の運転禁止は正当に思える。それは飲酒運転の禁止や一八歳未満の運転禁止と同じである。酔っぱらいがみな運転できないわけではないし、運転がうまい子どももいるだろう。でも現代社会は彼らに一様に運転を認めていない。だとすれば認知症者の運転も一様に制限されてもかまわないのではないか。認知症との共存は、必ずしも認知症者の運転との共存を意味しないはずだ。

 しかし、当事者からすればそれが人権の不当な制限に見えるのも、また十分考えられることだ。なんといっても、彼らはつい最近まで元気に運転していたのだから。現代社会はこのようなとき、粘り強く「説得」していくしか合意形成の手段をもってない。

 さらに、これ↓は高次脳機能障害に関する「運転免許」に関する話ですが、認知症の場合も同じではないかと思われます。

 運転の問題は本当に課題ですね。運転というのは、自由だとか尊厳につながる行為なので、奪ってしまうことで家族との対立や支援拒否を招きかねないポイントだと思うんです。

 おそらく、こうしたことは、今も解決されているとは言えないのではないか、という印象です。現在、介護をされながら、このことに直面されている方々も少なくないのではないでしょうか。安直な表現で申し訳ないのですが、難しい問題だと思います。

認知機能検査

 現在、75歳以上の方の運転免許更新の際に「認知機能検査」が行われています。

認知機能検査は、記憶力や判断力を測定する検査で、手がかり再生及び時間の見当識という2つの検査項目について、検査用紙に受検者が記入し、又は検査に必要なソフトウェアが搭載されたタブレットに受検者がタッチペンで入力して行います。

 検査終了後、採点が行われ、その点数に応じて、「認知症のおそれがある方」又は「認知症のおそれがない方」のいずれかの判定が行われます。

 通常「認知症かどうか」の診察を受けている場合は、よほど自覚症状があるか、もしくは周囲が病院に連れて行く、といったことに限られているようです。ですから、運転免許更新の際に、こうした検査が行われるのは、認知症と診断された場合に免許停止もありえる現状では、必要だとも思われます。

問題集の問題点

 その一方で、この「認知機能検査」を突破するための問題集なども販売されています。

 この認知機能検査を受ける方にとっては、これは突破するものであり、「合格」を目指すものと考えても自然なことだとは思うのですが、「認知機能検査」がより正確に機能するためには、問題集などで準備することは、決してプラスなことではないと考えられます。

 たとえば、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、「ロールシャッハテスト」という心理検査があります。いわゆる「インクのしみ」のような図版を使用することで、被験者の心理状態をより深く、正確に把握するために行われています。そして、この検査に使用される図版に関しては、厳密に守秘が定められています。

 JRSCの倫理綱領第7条には,「心理検査に関する不適切な出版物や情報公開によって,検査技法やその結果が誤用・悪用されることがないよう注意しなければならない」と定められています。これは,これから検査を受ける方が前もって図版を目にすることにより,あるいは図版やロールシャッハ・テストについて何らかの先入観を持つことによって,検査結果に大きな影響が生じてしまわないようにするためです。

「認知機能検査」も、心理検査の一種であれば、検査を受ける方が、前もって内容に対して知識や情報をもっていたり、もしくは練習をすることがあれば、その方の現在の状況が正確に把握できなくなる恐れがあります。

 そう考えると、問題集が販売されている現状では、せっかくの「認知機能検査」自体が、正常に機能していない可能性もあり得ます。

専門家の提言

 当然ですが、こうした問題に関しての調査・研究も行われています。

『「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」の具体化に向けた調査研究に係る 認知機能と安全運転の関係に関する調査研究』

https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/koureiunten/menkyoseido-bunkakai/cognitivef/cognitivef_report.pdf

(なお、この報告書は、約140ページにわたるものですが、この問題に関して興味がある方には必読ではないかと思います)。

 この「調査研究」には、専門家による提言↓もあります。

○ 提言(日本神経学会・日本神経治療学会・日本認知症学会・日本老年医学会、29年 1月6日)(抜粋)
  運転能力の適正な判断基準の構築 認知症の進行に伴い運転リスク、事故が増加することは自明であり、科学的エビデンスも蓄積されています。一方で、ごく初期の認知症の人、認知症の前駆状 態が高率に含まれている軽度認知障害の人、一般高齢者の間で、運転行動の違い は必ずしも明らかでありません。特に初期の認知症の人の運転免許証取り消し に当たっては、運転不適格者かどうかの判断は、医学的な「認知症の診断」に基づくのではなく、実際の運転技能を実車テスト等により運転の専門家が判断す る必要があります。今後、軽度認知障害の人、初期の認知症の人の運転能力につ いては、さらなる研究を進めて行く必要があると思われます。

 私が医学的な判断に何かを語る資格はないのですが、この中で、認知症かどうかよりも、実際の運転技能のテストが重要だというのは、運転において事故を起こさないように予防する、という観点から見ても、納得がいく提言ではないかと思いました。

実車テスト

  家族介護者の支援に関わっていたり、以前は家族の認知症の介護も経験したのですが、やはり、認知症かどうかの判断は難しいという実感があります。さらには、その症状も、本当に人によって違うので、ある能力について一律でできるかどうかを判断することは、さらに困難ではないかと考えられます。

  特に高齢になれば、認知症でなくても、どんなに気をつけていても様々な能力が衰えるのは自然ですし、安全に運転できる判断力と身体能力があるかどうかを判断した方がいいのは明らかです。

 しかも、先ほどの「調査研究」では実車テストについては、こうした提言さえありました。

○ 改正道路交通法施行に関する提言(日本老年精神医学会、28年11月15日)(抜 粋)
 高齢者講習会での実車テスト等について ドライブシミュレータや教習所内での運転試験では、路上での安全運転に不可欠な認知、予測、判断、操作等の総合的な能力評価には不十分です。必要な場合には、教習所外での実車テストの導入を検討すべきだと考えられます。運転能力は、講習予備検査(認知機能検査)、その他の認知機能検査、実際の運転技能の評価等から総合的に判断されるべきです。

  もし、このことを重視し、実施するとすれば、教習所外での実車テストはコストもかかりますし、場合によってはテストを受けるご本人にも、同乗する検査者にもリスクがあることを考えれば、実際に行うのは難しいとも考えられます。

 そうであれば、将来の交通事故の可能性を少しでも減らすために出来ることは、どんなことがあるかと思うと、やや途方に暮れる気持ちにすらなります。

環境改善

 自分自身でも認知症かもしれない、といった不安を抱えていたり、そうでないとしても、運転技術の衰えを感じながらも、運転免許の返納まではできないという人たちがいらっしゃるとすれば、何かしらの対策をとれば、そうした方々の返納を促すことは可能かもしれません。

 たとえば、自主的な運転免許返納者へ首相からの感謝状が送られたり、もしくは返納した人には感謝する形での、免許証と同じようなサイズの写真付きの身分証明書を手渡したり、もしくは、返納後の2年間は、「10%交通料金割引」にするなど、そういったメリットが感じられるような方法によって、高齢者の免許返納が促進される可能性があります。

 こうしたことは安直な方法かもしれませんが、それと併せて、特に交通機関がなく、「クルマがないと生活できない」環境を、何かしらの代替交通機関をきちんと用意して、安心して免許返納ができるような社会に改善していく必要もあると思います。

VR

 そうした環境改善と共に、「認知機能検査」の有効性を上げることも、将来の交通事故を減らすためには、やはり大事なことだと思います。

 そのために実車テストが必要で、同時に教習所外のテストが難しいのであれば、VR(バーチャルリアリティ)の利用によって、ドライブシュミレーターや教習所の実車テストよりも、よりリアルな運転状況に近いテストを行うことはできないのでしょうか。

 この実施には、さらに調査・研究も必要だとは思うのですが、もしVRの活用によって実車テストに近い状況がつくれるのであれば、そうした検査で、「安全に運転するには残念ながら技能が足りません」といった判断をされ、免許返納を促した方が、当事者も納得がいくと思うのですが、いかがでしょうか。

 今回は以上です。

 ここまでの文章は、未熟なことも多いと思いますので、もしよろしかったら疑問点、ご意見などをお伝えいただければ、ありがたく思います。

 よろしくお願いいたします。



(他にも、介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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