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「家族介護者支援について、改めて考える」㉓「声」の変化

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 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


家族介護者の支援について、改めて考える

 この「家族介護者の支援について、改めて考える」では、家族介護者へ必要と思われる、主に、個別で心理的な支援について、いろいろと書いてきました。

 ただ、当然ですが、「家族介護者支援」ということを考えた時に、そこには、様々な幅の広い要素や、今まで少しは知っていたつもりだったことに関して、実は、とても考えが足りないことに気がつかされることもあります。

 もしくは、現状について、これまでのことをもう一度、できれば丁寧に振り返ることによって、「家族介護者支援」について、自分の何が足りないのか。を改めてわかるかもしれません。

 今回は、介護に関わることによって、自分に生じた変化が、結果として、家族介護者の心理的支援に関して、もしかしたら、プラスに働いたかもしれないことについて、改めて振り返りたいと思います。

「通い介護」をしていた頃

 このnoteを読んでくださっている方には繰り返しになり申し訳ないのですが、わたし自身が家族介護者だった時期があります。

 母親と、妻の母に介護が必要になりました。いろいろとあったのですが、母親を長期療養もできる病院に預け、妻の母を在宅で介護をすることにし、それを妻と二人で担うことにしました。

 その時は、わたし自身が心房細動の発作で過労死一歩手前と言われるような状況でもあったため、仕事を諦め、介護に専念することにしました。

 そして、母親の症状が、原因もよくわからないまま、精神的に不安定だったため、病院に入院してはいたのですが、いつまた会話もできないような症状になってしまうかと思うと、怖くなり、母のいる病院に通っていました。

 それもできる限り行っていないと、不安になっていたので、週に3回以上、多い時は週に5日は通っていたので、まるで出勤しているようでした。そして、家に帰ってからは、妻が就寝後の夜中から午前4時くらいまでは一人で在宅の介護をしていました。

(その時の様子を書いたのが『「介護時間」の光景』シリーズです)

 特に病院に通っている頃は、ただ不安に引きづられるように行っていました。最初は、そういうことをしている人間は、他にいないのではないか、といった孤立感まであったのですが、病院の中で同じような方々と出会いました。

 そうした方々と話をするようになり、自分の抱えている恐怖に近い不安は、自分だけではないことも知り、同時に、こうして病院に通って、そこにいる家族に対して話しかけたり、一緒にいるような行為自体も、「介護」と名づけられることではないかと思うようになりました。

 のちに臨床心理士になろうとして大学院に通い、修士論文を執筆する際に、改めて家族介護者の方々にインタビューを行い、分析し、やはり、この病院に通う行為は「通い介護」と名付け、介護として扱う方が適切だと考えるようになりました。

 その期間は、約7年に及びましたが、当初は、どのくらい続くのか全くわからず、そうした「わからなさ」が家族介護者への心理的負担としてとても大きいことも、のちになってわかることになりました。

「声」の変化

 これは、病院だけではなく、高齢者の施設、それも、やや症状が重くなり、活発に動けなくなった方々がいらっしゃる場所では共通することかと思うのですが、そうした施設の中に流れる空気には独特のものがあると感じています。

 せきこんだり、うなったり、声が上がったり、ということはありますが、そうしたことが少ないときは、とても静かで、しかも病院の外と比べると、時間さえゆっくりと流れているようでした。

 最初は、母親の病室に行くまでは、息をちょっと止めるように、色々な場所にいる患者さんの邪魔にならないようにと、そっと歩いていました。

 そして、母親と病室で話すときは、それほどでもなかったのですが、廊下を歩く時や、食堂のような場所のときは、声を絞るように話すようになりました。

 しかも、ボリュームだけではなく、声の質もなるべく柔らかく伝わるようにするようになりました。

 それは、周囲の環境や、母の症状のことなどを考えて、邪魔にならないように、刺激をなるべくしないように、といったことで、自然に気を使うようになったのだと思います。

 すると気がついたら、何年か経つと、普段からの声も小さくなりました、というよりも、大きな声が出せなくなったような気がします。それは、おそらくは「通い介護」の状況に適応してきた、ということのようだと少し経って気がつきました。

 そんなふうにして、約7年の「通い介護」が続きました。母親が病院で亡くなったことによって「通い介護」は、突然終了しました。

 在宅介護は続いていましたが、妻の母親である義母は耳が遠く、身障者手帳をもらうほどで、どれだけ大声を出しても聞こえなくなっていましたから、大きな声ではなく、口を動かして唇をよんでもらうか、表情で伝えるか、少し複雑なことは筆記ボードを使っていましたので、小さくなった声はそのままでした。

面接の時の「声」

 臨床心理士の資格を取り、面接をするようになると、声の重要性は、より感じるようになりました。

 どんな内容を話しているか以上に、どんな表情なのか、どうした体の動きや力の入り具合をしているのか、そして、どんな声の響きなのか。

 そうしたことすべてを感じ取り、というより、あまり集中していると、そのことを受けている相手にとっては怖さにもなってしまうので、全体的に注意を払いながら違和感に敏感になる、というような独特の集中力が必要なのはわかるようになり、フロイトが「平等に漂う注意」というのは、こうしたことなのだろうと思うようになりました。

 ただ、それを本当に徹底するのは難しいこともわかってくるようになりました。

 電話相談もするようになると、声だけが頼りなので、声の表情のようなものに注意を払うようになると、その響きにも敏感になったせいか、日常の生活でも、人の声のことがかなり気になるようになりました。

 同時に、自分がどのような声を出しているのかについても、より気をつけるようになりました。

 元々、よく言えばハスキーボイス、歌がうまくないので、ただのしゃがれた声でしたから、子どもの頃から、自分の声がなんだか嫌でした。子どもらしくない声でもありましたし、ノイズが多いので、補聴器などでは聞き取りにくくなる声ということも知りました。

 だから、どちらかと言えば、声に関しては劣等感を持っていたのですが、それでも、面接のときや、電話相談のときは、面接相手や、相談者に対して、圧力を与えないように、といったことを意識するようになり、だから、それは、自分の声の質よりも、その大きさや響きや声の表情といったことが大事だということがわかるようになりました。

 場合によっては、ややザラザラした声の方が、相手の方の苦しさなどに対しては、届きやすいこともあるようでした。

 学生の頃は運動部にいたせいもあって、大きな声を出せるはずでしたし、自分の伝える思いが強く出る場合もあったように思いますが、介護を経験することによって、声が小さくなり、なるべく柔らかい響きになるようにと心がけたので、その変化は、臨床心理士になったときには、もちろん臨機応変さは必要ですが、大きい声が当たり前の時よりは、面接や相談には向いているのでは、と思うようになりました。

支援者の声

 臨床心理士になるために、大学院に通っている頃、実習としてカウンセリング施設の受付をしていたことがありました。

 そのとき、カウンセリングを受けて、施設を出ていくクライエントさんに向けて、思わず立ち上がって「ありがとうございました」と声をかけてしまったことがあります。

 すぐに心理士のスタッフの方に、ここではそういう元気なあいさつは必要ないので、と注意を受け、それからは必要以外、あまり声も出さずに、黙ってお辞儀をするだけ、といったことが増えました。

 考えたら、脅かしてはいけない、声の圧によって空気を乱してはいけない、ということでは、高齢者の施設と似ていました。元気いっぱいの人は、ここに来ることはほぼないわけですから、困っていたり、悩んでいたりする人にとっては、大きな声も、元気さも受け付けなくなっている場合があって、当然でした。

 電話相談でも、それだけが正解ではないのでしょうが、あまり元気いっぱいな大きな声で出ることはしないようにしています。思い悩んで、重い気持ちにあるときには、そうした声を聞いただけで、電話を切りたくなってしまうのではないか、と思っているからです。

 支援の仕事とはいっても、大きくはっきりした声が必要な場所もあると思いますが、私の場合は、日常から、介護の経験の中で、「声」が変化してきて、それが、現在の心理的支援に関しては、比較的、適応していた、ということだったと思います。

 これからも年齢を重ねたり、面接や相談の経験を積むことで、より声に関しては敏感になるような気がしますし、自分の声もまた変化したり、バリエーションが増えていくのではないか、といった予感もしています。


 皆さんは、声については、どのようにお考えでしょうか?
 もし、よろしかったら、コメントをいただけると、ありがたく思います。

 よろしくお願いいたします。




(他にも、いろいろと介護について、書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。

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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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