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『「介護時間」の光景』(238)「回送」。12.27。

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。おかげで、こうして書き続けることができています。

(※この「介護時間の光景」シリーズを、いつも読んでくださっている方は、よろしければ、「2002年12月27日」から読んでいただければ、これまでとの重複を避けられるかと思います)。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。

 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護時間」の光景

 この『「介護時間」の光景』シリーズは、介護をしていた時間に、私自身が、家族介護者として、どんなことを考えたのか?どんなものを見ていたのか?どんな気持ちでいたのか?を、お伝えしていこうと思っています。

 それは、とても個人的で、断片的なことに過ぎませんが、それでも家族介護者の気持ちの理解の一助になるのではないか、とも思っています。

 今回も、昔の話で申し訳ないのですが、前半は「2002年12月27日」のことです。終盤に、今日「2024年12月27日」のことを書いています。

(※この『「介護時間」の光景』では、特に前半部分は、その時のメモをほぼそのまま載せています希望も出口も見えない状況で書かれたものなので、実際に介護をされている方が読まれた場合には、気持ちが滅入ってしまう可能性もありますので、ご注意くだされば、幸いです)。

2002年の頃

 個人的で、しかも昔の話ですが、1999年に母親に介護が必要になり、私自身も心臓の病気になったので、2000年に、母には入院してもらい、そこに毎日のように片道2時間をかけて、通っていました。妻の母親にも、介護が必要になってきました。

 仕事もやめ、帰ってきてからは、妻と一緒に、義母(妻の母親)の介護をする毎日でした。

 入院してもらってからも、母親の症状は悪くなって、よくなって、また悪化して、少し回復して、の状態が続いていました。
 だから、また、いつ症状が悪くなり会話もできなくなるのではないか、という恐れがあり、母親の変化に敏感になっていたように思います。

 それに、この療養型の病院に来る前、それまで母親が長年通っていた病院で、いろいろとひどい目にあったこともあって、医療関係者全般を、まだ信じられませんでした。大げさにいえば外へ出れば、周りの全部が敵に見えていました。

 ただ介護をして、土の中で息をひそめるような日々でした。私自身は、2000年の夏に心臓の発作を起こし、「過労死一歩手前。今度、無理すると死にますよ」と医師に言われていました。そのせいか、1年が経つころでも、時々、めまいに襲われていました。それが2001年の頃でした。

 2002年になってからも、同じような状況が、まだ続いていたのですが、春頃には、病院にさまざまな減額措置があるといったことも教えてもらい、ほんの少しだけ気持ちが軽くなっていたと思います。

 周りのことは見えていなかったと思いますが、それでも、毎日の、身の回りの些細なことを、メモしていました。

2002年12月27日。

『まだ怒りが続いている。
 顔が赤くなるのがわかる。

 2年前、そして3年前に、前の病院に受けたひどいこと、医療ミスと言ってもいいようなことや、心房細動の大きな発作を起こしたことや、だから、その病院に向けて内容証明を出そうとして、その文章があふれて止まらない。

 書くことで、また色々と思い出し、それで怒りが吹き出して、その悪循環が辛い。

 だけど、そのことがエネルギーになって少し体がシャンとする。そういう自分がイヤになる。

 午後4時50分頃、母の病院に着く。

 母は穏やかだった。

 できたら、この感じをキープしないと、と思う。

 それに、廊下に短冊のようなものが貼ってあって、それを、母親と、病院で友達のようになった患者さんたちと一緒に見て回った。

「早く家に帰りたい」

 そういう願いが書かれていたのが何枚もあった。

 それを見て、「みんな一緒よねー」と言って、母とみんなでうなずいていて、それを見て、複雑な気持ちになる。

 悲しいというか、切ないというか、どうしようもない気持ちになる。

 夕食45分くらいかかる。

 途中で男性患者さんが、急に「うんゆしょー」と叫ぶ。

 こういう生活を、母をなるべく安心して暮らせるように、少しでもそれに対して協力する方が大事で、前の病院を訴えたい、といった気持ちはあったとしても、なんとかしないと。

 今日は母が穏やかで、なんだかありがたかった。

 午後7時に病院を出る。

 今日は、あちこちで、「良いお年を」と言われる。玄関でスタッフの方にも、「良いお年を」と丁寧に言われる。

 ありがたい。

 こういう病院があって、よかった。

 婦長さんに、年末年始に「外出の予定は?」などと聞かれたのだけど、最近、病院以外に出かけることはなくなっていることに、改めて気がつく』。

回送

 駅で帰りの電車を待っていた。

 線路の向こうのホームのさらに奥に、本数の少ない路線がある。

 そこを、回送になった車両が走り始める。誰も乗っていないのに、車内は明るく光っている。とても澄んだ明るさに見えた。

                       (2002年12月27日)

 
 それからも、その生活は続き、いつ終わるか分からない気持ちで過ごした。
 だが、2007年に母が病院で亡くなり「通い介護」も終わった。義母の在宅介護は続いていたが、臨床心理学の勉強を始め、大学院に入学し、2014年には臨床心理士の資格を取得し、その年に、介護者相談も始めることができた。

 2018年12月には、妻と二人で在宅介護をしてきた義母が103歳で亡くなり、19年間、取り組んできた介護生活も突然終わった。2019年には公認心理師の資格も取得できた。昼夜逆転のリズムが少し修正できた頃、コロナ禍になった。


2024年12月27日

 天気がいい。

 昨日はたくさん入れすぎて、脱水途中で傾いて止まってしまったので、今日は洗濯機に入れる洗濯物の量に気をつけてスイッチを入れたが、どうやら、30リットルにも届かないから大丈夫のようだ。

 空が青く、庭の柿の木の枝は、本当に枯れ枝になった。

仕事について

 今年は、少し仕事を増やすことができた。

 年齢が高くなるほど、他の人たちと同じように、履歴書を送って応募しても採用される可能性は低くなる一方な上に、自分自身の職歴欄は介護に専念していて10年以上の空欄があり、とても弱いから、いつの間にか、そうして仕事を得ることをあきらめていた。

 ただ、ありがたいことに、仕事を紹介してくれる方がいたり、私がボランティアで地元で「介護相談」をしていることを評価してもらい、仕事につなげようとしてくれている人もいる。

 繰り返しになるけれど、とてもありがたい。

 これまで、どんな仕事をしていても、引っ張りだこになったことはないから、これからも、そういうことはなく、少しずつ増えたり減ったりするのだろうけれど、自分ができることは仕事の質を上げていくことが基本になる。

 毎日、そうしたことを考えて生活を続けることに、今年も来年も変わりはないと思う。


「衝動」というもの

 この本を読んで、衝動というものを誤解していたと思った。

 衝動は、コントロール不能なものでもないし、野蛮なものでもなく、もっと(自分も含めて)人それぞれ違うけれど、とても大事なものだということはわかったように思えた。

 それは、「本当にやりたいこと」という言葉遣いを避けるべきことだし、自分でも驚いてしまうくらいの、まるで「外」からやってくるようなものでもあるのだけど、決して「強い」ものとは限らないことなので、とても繊細に扱うべきものであること----。

 衝動のことを、ただ、強い本能のように思っていた理解が、かなり違っていることに気がつき、それだけに、やはり人間が生きていく上での重要さが、この作品を読んだあとの方が明らかに強く感じるようになった。

 そうであれば、これは、かなり、この作品からは飛躍した発想かもしれないけれど、高齢期になったり、もしくは認知症になったとしても、その言動が理解し難いと思える時は、もしかしたら本人にとってはとても重要である「衝動」に基づいているかもしれない。といった視点を持つことによって、その人への接し方が変わり、それによって、混乱しているように見える人が、穏やかになる可能性もあるのではないか。 

 そんなことまで思ってしまった。



(他にも、介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。


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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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