それぞれの生き方②~「推し活」が運んでくれた現在(いま)/B子さんの場合~
就労支援センター風の丘(以下、「風の丘」):今日は、風の丘の就労移行支援を利用し、いまは物流関係のお仕事をされているB子さんにお越しいただきました。今年も猛暑が続いていますけど、お仕事はいかがですか?
B子さん:いや、もう、倉庫内の気温が50度近くになるときもあるんですよ。冗談じゃなくて、倒れるかと思うときもあります。それでも、まぁ、なんとか生きのびています(笑)。
風の丘:いまの職場は何年目になりますか?
B子さん:そろそろ4年になります。入社した当時は、こんなに夏が暑くなかったんです。どんどんすごくなっていく。半分、だまされた気分です(笑)。
風の丘:そんな中、ありがとうございます(笑)。
B子さん:A子さんの記事、読みました。私も同じように、自分の経験したことが、いま苦しんでいる方に少しでもお役に立てればと思って、来させていただきました。
ただ息をしているだけ…
風の丘:いま思い返してみて、B子さんが一番苦しかったときって、いつ頃でしたか?
B子さん:専門学校を中退した後かな…。何をしていいのか、まったくわからなくなりました。
風の丘:嫌なことを思い出させてしまうようで恐縮ですが、その当時一番苦しかったことは?
B子さん:ほとんど「ひきこもり」の状態で、ずっと寝てばっかりでした。といっても、眠れないんです。特に夜は、ほとんど眠れない。だから、すぐに昼夜逆転。それとご飯が食べられない。一日一食が精一杯だったかな…。なにかこう、ただ布団の中にいて日々が過ぎていく…。そんな感じでした。
風の丘:気持ちも辛かったですよね。
B子さん:はい…。うまく言えないんですが、無意味に生きている感じになるんです。どうして自分が生きているのか、自分でもわからない。ただ息をしている感じ。そして無意味に一日が終わっていく。その繰り返し。
するとね、友達が仕事とか、がんばっている姿が頭に浮かぶんです。友達はがんばっているのに、どうして自分はがんばれないんだろうって。ずっとそれが頭から離れない。
あとやっぱり、家族との関係。自宅にいましたから。自分に対する家族の目が、どんどんと冷たくなっていくような気がして…。
だから、ただ息をしているだけ…、そうしないと生きていけなかったのだと、いまでは思います。
「ふつう」に生きていきたい
風の丘:そのとき、自分が求めていたことって、どんなことでしたか?
B子さん:「ふつう」に生きていきたい、もうその一言です。
何が「ふつう」かと言われると、それはそれでまた困りますけど、例えば当時は手を洗い出すと何時間も手を洗ってしまう。お風呂とかトイレも同じで、一度入ってしまうと、出るまでに何時間もかかってしまうんです。
風の丘:時間がかかってしまう?
B子さん:お風呂だと、身体だけじゃなくて風呂とか壁も洗わないと気が済まなくなる。自分の汚れを残してはいけないような気持になって。自分でもやっていることがおかしいと思っているのですが、自分では止められない。それがとにかく苦しかった。それで家族から病院に行くように指摘されて、あ、そうか、もしかしたら病気なのかもしれないと思いました。
それでついた診断名は、強迫性障害とうつ症状だったかな…。
私が思っている「ふつう」に生きるっていうのは、簡単に言えば手を洗ったり、お風呂に入ったときに何時間もかからない生活ができる、ということです。もう、それだけをひたすら願っていました。
あとは、「楽に呼吸がしたい」。当時は何をするにもものすごく身体に力が入ってしまって、いつも息苦しい感じでした。呼吸が浅いというか、とにかく息が入ってこない。それと、音に敏感になっていましたね。大きな音がすると、身体が瞬間的に硬くなってしまい、それがなかなかほどけない。
もっと力を抜いて生きていきたい、いつもそう思っていました。
下野紘さんの「推し活」へ!
風の丘:その頃、B子さんの心の支えになっていたことってあるのですか?
B子さん:私、声優の下野紘さんのファンなんです。もともとアニメが好きで。いま思えば高校生のときから症状が出ていたみたいで、とても苦しかったとき、確か再放送で『おおきく振りかぶって』を観て、それでDVDを購入することになって。そこに声優さんのトークCDが入っていて、下野さんの考え方や相手の対しての姿勢がいいなぁと。ブログを読むようになって、それで、“やっぱり好きだぁ”、となりました。下野さんの「推し活」が、生きるためのギリギリのエネルギーになっていましたね。
風の丘:風の丘を利用するきっかけについてお聞きしたいのですが。その前に、一度お仕事に就かれていましたよね。
B子さん:はい。近くのドラッグストアーでアルバイトしていました。
風の丘:あれだけ辛い状況で、よく仕事をしようと思われましたね…。
B子さん:これも下野さんの「推し活」と関係があるんです。下野さんの、たぶん2016年元旦のブログだったと思うんですが、「アーティスト活動を始める」と発表されていたんです。下野さんは、いままで、歌には自信がないとお話されていて、もっとうまい人はたくさんいるのだから、自分はそんな…みたいな感じだったので、とても驚いた。下野さんも、すごく勇気がいることに挑戦するんだ、と思うと、自分もこのままでいいのかと…。
その後、東京で開催される、下野さんのアーティスト活動イベントに応募して、初めて参加したんです。もちろん東京に1人でいくのは初めてで。このイベントに行けたらば、それからは本気でがんばろうと、決心して。
イベントの次の日、近くのドラッグストアーで従業員を募集しているポスターを見て、それで面接を受けました。
初めて働いて気付いたこと
風の丘:実際に働いてみて、どうでしたか?
B子さん:いま思えばですけど、やっぱりいろんな人と一緒の場で働く、仕事をするという上で大切なことが、ぜんぜんわかっていなかった。結局2年で退職し、それからまた次の職場を探そうとしていたとき、相談先の方から、風の丘のリーフレットを紹介されて。それで利用することになりました。
風の丘:利用されてみて、いかがでしたか?
B子さん:最初の頃は、まわりの人がとても親切で優しかったので、なんかへんにテンションがあがっちゃって(笑)。学校の部活みたいな、もう、場違いな感じになっちゃっいました。思い返すと、ちょっと恥ずかしい。
当時はコロナ前でしたので、地域の方と交流する機会がたくさんあって、それがとてもよかった。地域の高齢者の皆さんに、喜んでいただくための企画会議とか。
あとは、畑作業。身体を使って作業をすることもよかったし、いろんな虫サンと出会えることも楽しみでした。
不思議な感覚にいつもなっていたのが「哲学カフェ」。自分でも思いもかけなかったようなことが浮かんできたりして、自分ってこんなことをかんがえるんだと。
ちょっとずつ「ふつう」に生きる
風の丘:以前の自分といまの自分を比較してみて、変わったところってどこでしょうか?
B子さん:大きな変化と言えば、身体に筋肉がついてきたことです。畑作業とか筋トレを継続したことがよかった。歩いていてもフラフラしなくなったし、前は下ばかりをみて歩いていたけど、下を向かないで歩けるようになりました。
体力に少しずつ自信がついてきたら、それまでは、なんでもがむしゃらに全力をつくすことが大切だと思っていたけど、そうじゃないんだということに気づくようになった。体調を考慮して、ペース配分をかんがえる。落ち着いて自分の状況をみられるようになったし、そのほうがずっと身体がラクになることもわかった。
風の丘を利用する前は、そもそも体調を自分でコントロールするなんて、かんがえたこともなかった。体調が悪いときは、ただ我慢するしかないと思っていましたから。
風の丘:いまの生き方は、わりと良い感じ?
B子さん:そうですね。力を抜いて過ごせるようになったし、定期的に気分転換をすることの大切さもわかりました。
仕事が終わった後は、そのまま自宅に戻らないで、近くの公園でぼーっとしてから帰るようにしています。あとは、休みの日は、必ず一度は外に出る。そして何よりも大切なのが、下野さんの推し活を日々充実させる(笑)。
ちょっとずつ「ふつう」の生活ができてきたように思えます。