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ーメンタルヘルス不調者対応の最前線ー復帰後の安定して働き続けるられるかを評価する
私が、メンタルヘルス不調で休業した方の職場復帰支援をする中で、特に重要な役割が、復帰可否について意見を述べることである。最終的に復帰可否の判断は、事業者やその権限を委譲された人事担当者が行うものであるが、専門的な意見はその判断を大きく左右するため、慎重な対応が必要である。今回は、私が産業医として意見具申する際に考えていることをご紹介したい。
今働けるか、ではなく、これからも安定して働き続けられるか
うつ病の再発率は、50%とも60%ともいわれ、再発・再燃を繰り返し、旧復職を繰り替えるケースも少なくない。その背景には、メンタルヘルス不調は、体調が悪い時期が長期間続くこともあるが、一定に間隔で好不調の波を繰り返すことも多いことがある。この波の中で、一時的に調子がよくなったタイミングで「治った」と思って職場復帰すると、また不調の波がやってきて再休業してしまうことが少なくない。人は誰しも、大なり小なり、精神的に好不調の波があるが、メンタルヘルス不調はその波がとても大きくコントロールできない状態になっている。報酬を得て、それに見合った労務を提供するためには、好不調の波の中で、不調のタイミングでも求められるパフォーマンスが適切に発揮できる状態が求めらえる。だから、職場復帰を考えるとき、今働けるか、ではなく、これからも安定して働き続けらえるか、という視点が重要である。
安定して働き続けられるかどうか
では、これからも安定して働き続けられるかどうかを評価するにはどうしたらよいのだろうか。この問いに対して、私は以下のポイントに着目して評価を行うようにしている。
不調に至った自分側の背景を整理できているか
主体的にストレスをコントロールできる状態か
自分自身の不調のサインを認識しているか
不調に至った自分側の背景を整理できているか
メンタルヘルス不調は、急に体調が症状がでてきたり、出社できなくなったように感じたり、見えたりすることがあるが、振り返ってみるとずっと前からその前兆があることが多い。同じ場面で、同じ事象だったとしても、ひとそれぞれ受け止め方が異なり、ストレスとして感じる度合いも異なる。自分自身が、不調に至るまで、どんな場面でどんな事象に出会い、そこに対して自分がどう意味付けをしていたのかを、体調がよくなったタイミングでしっかり振り返ることが重要である。特に、後段の「自分がどんな意味付けをしていたのか」を考えることが、再発防止において重要なポイントだと考ええる。
主体的にストレスをコントロールできる状態か
端的にいえば、メンタルヘルス不調を防ぐには、その原因となるストレスをコントロールすることが必要である。ストレスの原因として様々な原因があるが、その原因があってもそれを心理的ストレスとしてどの程度受け取るかは、人によって様々である。メンタルヘルス不調になりつらい経験をするとその要因を、自分以外の要因に向けたくなる。しかし、自分に降りかかるストレスの原因は、どうしてもコントロールできないこともある。一方で、目の前にあるストレス要因に対して、「自分がどんな意味づけをするか」はコントロールができる。そして、「自分がどんな意味付けをするか」は、本人が主体的に決められるものである。この「意味づけ」を主体的にコントロールすれば、究極的にどんな状況で、どんな場面でもストレスはコントロールできる。しかし、多くの人はこの「意味づけ」を無意識に行っていたり、これを自分自身でコントロールすることをしていなかったり、できないと思い込んだりしていることが多い。だからこそ、前段で述べた、不調に至った時に「自分がどんな意味付けをしていたのか」を振り返ることが大きな意味を持つ。
自分自身の不調のサインを認識しているか
ストレスを主体的にコントロールすることがしていても、冒頭で述べたように、精神的に好不調の波は誰にでもある。その波が下降基調にあるとき、早期に気づき、日常生活や労務提供に大きな影響を与える状態になる前に改善策をとりたい。メンタルヘルス不調に至った時、急に発症したように見えても、その前に前兆(サイン)があるはずだ。だからこそ、早期対処につなげるために、これまでの自分の好不調の波を振り返り、自分の不調のサインを見つけ、常にそこを意識する状態であることが重要と考える。そして、そのサインが必要な時に確実にとらえられるために、客観的にかつ定量的に評価できるものが望ましい。
復帰後も安定して働きづづけることを、最後までその可能性を信じる人でありたい
ここまで、メンタルヘルス不調になった方の復帰可否時の意見具申について私なりの考えたかを述べた。メンタルヘルス不調になって苦しんだ人に対して、厳しすぎるという意見もあるかもしれない。しかし、私は目の前の人が、復帰後も安定して働きづづけることを、あきらめたくないし、最後までその可能性を信じる人でありたいと思っている。なぜなら、本当は誰もが、もっとよくなりたい、安定して働きたいと思っていると信じているから。
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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
日本産業衛生学会 専門医・指導医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
日本産業ストレス学会理事
日本産業精神保健学会編集委員
厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの
耳』」作業部会委員長
「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」