『アーモンド』読書感想
生まれつき扁桃体の小さい少年ユンジェは医者に失感情症と診断されたが、
息子の将来を案じる母に一般的な人間の感情のノウハウを叩き込まれ、ぎこちないながらも大きな支障が出ることもなく、母と祖母とに愛情深く大切に育てられてきた。
あの通り魔事件に巻き込まれるまでは。
事件で祖母が死亡、母は植物状態で意識が戻る可能性は限りなくゼロに近い。
そんなとき出会ったのが問題児・ゴニだった。
幼少期に誘拐された過去を持つゴニには鬱屈したパワーがみなぎっていた。
感情をロジックで理解することしかできない彼にとって
ゴニの心根を読みとることは容易だった。
表情、声のトーン、選択する言葉でゴニの人となりを知り、偏見のない目で友情関係を築いていく。
ゴニと触れ合い、ドラに恋をし、少しずつ生まれ出ずる感情の結晶により、ユンジェは一つの壁にぶつかる。
“遠ければ遠いでできることはないと言って背を向け、近ければ近いで恐怖と不安があまりにも大きいと言って誰も立ち上がらなかった。
ほとんどの人が、感じても行動せず、共感すると言いながら簡単に忘れた。
感じる、共感すると言うけれど、僕が思うに、それは本物ではなかった。“
バイアスがない視点と感情の萌芽によりピントが合い見え始めた現実はあまりにも醜いものだった。
友であるゴニが闇に堕ちようとする時、彼が下した結論とは。。
感情と偏見は切っても切り離せないもので、
感情的になるほど濁った視界でしか物事が見えなくなってしまう。
そうゆうときにこそロジカルな視点が生きてくる。
”感情がわからないという障害”が強みに変わる瞬間が目に見えて心地よい。
読後感の爽やかな小説だった