6つの技術で上手くいく!先生初心者のための授業の教科書 6.評価の技術
「生徒は怒らないとやらないでしょ!?」「褒めてあげたいんだけど、褒められるようなことをしてくれなくて…」こんな悩みのある先生はいらっしゃいませんか?
本稿は、私の10年間の経験をもとに授業を「する」ための基本となる技術を6つにまとめた「授業技術の教科書」の第6章です。お読みいただき、書かれている技術をマスターすれば、最低限の「普通の授業」ができるようになり、冒頭のような悩みが少しだけ減るはずです。私が本稿を書くに至った思いなどは、1.はじめにをお読みいただければ幸いです。
本章では、評価の技術について詳しく書いていきたいと思います。
【評価とは何か】
評価とは、先生が発する言葉によって生徒の適切な学習(理解、思考、行動)を促す技術です。ここで言う評価とは、テストの点数や通知表の成績のことではありません(成績のつけ方を知りたいと思った方には申し訳ありません)。生徒の学習に対するフィードバックのことです。特に中学校や高校の先生は、通知表の成績が入試にも影響するため、明確・適正・公正な「評価」=点数こそが評価であるととらえてしまいがちですが、成績には反映されない「褒め」や「注意」も「評価」であるととらえるべきです。本章では後者の「評価」=褒め、注意の技術を扱います。
「生徒の適切な学習を促す技術」ですから、生徒が適切な学習をするようになればよい評価だったということになり、生徒が適切な学習をしなくなったら悪い評価だったということになります。なお「適切」という言葉はあいまいですが、本稿では「先生が適切だと思う状態」と定義します。もちろんこの定義だけではガチガチの管理教育になるリスクをはらんでいますが、基本の技術として、ある程度先生の考えている方向にもっていく技術は必要だと思います。
【どうやって評価すればよいか】
評価の技術を用いる際のポイントは、次の3つです。
①行動を評価する ②即時に評価する ③褒めは大きく注意は小さく
①行動を評価する
評価は、行動に対して行います。「いい点がとれたね、えらい!」と結果を評価したり、「やる気がないからダメなんだ!」と気持ちを評価したりすることは、なるべく避けた方がよいと思います。なぜなら、結果は再現性が低く、気持ちは目には見えないからです。
「いい点がとれたね、えらい!」と評価すると、次もいい点を取ろうと頑張るようになります。これは「適切な学習を促す」ことになっているのですが、もし次にいい点を取れなかったらどう感じるでしょう。「いい点が取れなかった私はダメなんだ」と感じます。次に生徒が考えるのは、「頑張ってもできない」より、「頑張っていないからできない」の方がいい、ということです。「やっていないだけで、やればできるはず」と、自分に逃げ道を用意できるからです。つまり結果への評価は、最終的に生徒を学習から遠ざけてしまう可能性をはらんでいるのです。
生徒が授業中に寝ていたとします。これを「やる気がないからダメなんだ!」と評価する先生がいますが、本当にやる気がないのでしょうか。前日遅くまで勉強していたのかもしれません。本当は勉強したいのに家庭の事情で睡眠時間が削られているのかもしれません。また本当にやる気がなかったとしても、「やる気が出ない」という気持ちは変えることができません。(「やる気を出したい!」と思ったところで、「やる気」が出てくるでしょうか?少なくとも私はこうはなりません。)
「いい点がとれたね、えらい!」は「頑張って勉強したね、えらい!」に、「やる気がないからダメなんだ!」は「授業中に寝たらダメですよ。起きなさい」に、それぞれ変えるべきです。「勉強した」という行動がよかったのだから、その行動を評価する(褒める)。「寝た」という行動が悪かったのだから、その行動を評価する(注意する)。このように、評価は行動に対して行うように心がけます。
②即時に評価する
評価は、生徒が何か行動した際、すぐにその場で伝えるようにします。時間を置けば置くほど行動したときの記憶が薄れるため、評価の効果も小さくなってしまうからです(あえて間を置いたり、保護者に伝えて間接的にほめてもらったり、といった技もありますが、基本ではないと思います)。
例えばなかなか発言が出ない授業で、勇気を出して発言してくれた生徒がいたとします。この生徒の発言に対してすぐに「よく発言してくれましたね」とか「発言してくれてありがとう」と評価すれば、発言した生徒はうれしく感じて、また次も発言してくれる可能性が高まります。また「発言するのがいいことなのだ」と周りの生徒にも伝わるため、発言する生徒が増える可能性もあります。しかしこの生徒の発言を評価せずに流してしまうと、生徒は「せっかく勇気を出したのに無駄だった」と感じるでしょう。すると次の機会にはもう発言してくれません。授業後など後で褒められても、褒められたうれしさよりもその時の嫌な気持が勝って、発言してくれなくなる可能性が高いでしょう。
生徒が授業中に寝ていた場合はどうでしょうか。すぐにその場で「起きなさい」と注意すれば、「寝てはいけないのだ」とすぐに理解できるでしょう。しかし、急いで授業を進めたいなどの都合で流してしまうと、「この先生の授業は寝ていても大丈夫」と感じさせてしまいます。寝ていた生徒だけでなく、生徒全員にそう感じさせてしまうことになります。こうなってしまうと、後から立て直すのは大変です。次の機会に注意しても「この前は注意しなかったのに!」とか「あいつは許さていたのに、なんで俺だけ!」など、不信感を抱かせてしまいます。
このように、評価は即時に行うべきなのです。
③褒めは大きく、注意は小さく
褒めるときには、生徒全員の前で大げさに。注意するときには、なるべく目立たないように。これが「褒めは大きく、注意は小さく」の意味です。なぜこれが大切かというと、生徒の気持ちに配慮することで、適切な学習を促す効果を高めることができるからです。
生徒は褒められるとうれしく感じます。褒められたこと自体もうれしいのですが、他の生徒から「あいつはすごい」と思われることにもうれしさを感じます。そのため他の生徒の前で褒められると、「また褒められたい」という気持ちや「みんなの期待を裏切ってはいけない」という気持ちを高めさせることができます。この気持ちは、生徒の適切な学習を促すことにつながります。また先述のように、先生が何を良しとするのかという価値観を、間接的に生徒全員に伝えることにもなります。
逆に注意されるのは嫌なことです。生徒全員の前で大々的に注意してしまうと、「恥をかかされた」という嫌な気持ちだけで頭がいっぱいになってしまいます。肝心の「何を注意されたのか」ということにまで意識が向かなくなってしまうのです。これでは注意した意味がありません。その生徒の不信感を高めることにもつながってしまいます。大々的に注意をして、見せしめのように「この行動が悪いのだ」という価値観を示そうとする先生もたまに見かけますが、これは悪手です。「あの行動が悪いのだ」という価値観よりも「あの子かわいそう」「あんな言い方しなくてもいいのに」という不信感を抱かせてしまいます。不信感を抱かれた先生の指導は、どんどん入らなくなっていきます。見せしめの注意は絶対に避けるべきです。
ただし「注意しない」もよくありません。生徒は、適切な学習環境で学習したいと思っていますから、ルール違反や他の生徒の迷惑になる行動は、むしろ止めてほしいと思っています。注意はする、でもなるべく目立たないように配慮をする。難しいですがこのバランスをとれるように意識することが必要です。
なお小さく周囲する方法として、私は「間+アイコンタクト」という方法をよく使います。注意したい行動をしている生徒を見つめて、何も言わずに待つのです。しばらくするとその生徒が気付き、その行動をやめます。本人が気付かなくても、周りの生徒が気付いて注意してくれます。こうなれば、私は「悪い行動をやめた」ということ、もしくは「注意してくれた」ということに対して「ありがとう」と言うだけで済みます。もちろん、ルールの確認を事前に行っていることが前提ではありますが、この方法を使えば、注意を褒めに変えることができます。
【まとめ】
評価、つまり「先生が発する言葉によって生徒の適切な学習(理解、思考、行動)を促す技術」を高めるには、①行動を評価する、②即時に評価する、③褒めは大きく、注意は小さく、の3つを意識することが大切です。