先日某家にお邪魔させていただいていたところ、帰る際になって玄関に無造作に蓋の閉まった鍋が置いてある。 家の方が蓋を開くと、はたして近所の方がお裾分けに持ってこられた「ナスそうめん」であった。 「ナスそうめん」は石川県の郷土料理である。基本の作り方はだし汁でナスを煮て、そこにそうめんを入れるというシンプルなものなのだが、これにはいろんなバリエーションが存在する。 1:温かいもの or 冷たいもの だし汁でナスを煮て、そこに硬めに茹でたそうめんを投入して、温かいままで食べれば
北前船の寄港地として、また漁師町として栄えた金沢の港町金石(かないわ)には、先人たちから受け継がれてきた豊かな食文化がある。今回は金石の春の風物詩イワシを酢締めと、そこから派生して作られる4品紹介する。 まずは基本のイワシの酢締めから。酢締めにするだけでも立派なおかずになる。 イワシの酢締め ①下処理をした中羽イワシを三枚におろす。 ②①に塩を振りかけて冷蔵庫で30分ほど置き、酢洗いする。 ③そのまま容器で保存。冷蔵庫で1週間ほどもつ。 イワシの卯の花寿し ①鍋に少量の
北前船の寄港地として、また漁師町として栄えた金沢の港町金石(かないわ)には、先人たちから受け継がれてきた豊かな食文化がある。今回はカナガシラをテーマにその一端を紹介する カナガシラは「カネ」の「頭(かしら)」の名の通り、金属のように固い頭を持っている。しかも、その固い頭の部分が他の魚に比べて見大きい。そのため、見た目よりも取れる身が小さくなる。そもそも金石で消費される魚は、カナガシラに限らず外に売れないようなサイズの小さいものが多いので、必然的に使い方は限られてくる。 定
金沢市民が「コッペ」と呼ぶ食材がある。いかにも方言というような、親しみやすく砕けた語感で呼ばれるこの食材は、イワシやカレイなどと並ぶ、金沢市を代表する大衆魚で、一匹丸ごと店先に並ぶことはなく、座布団の端を三角に切ったようなヒレだけがが重ねて売られている。漁師でもなければ、コッペの全体の姿をみることはほとんどなく、金沢市民にコッペとはどんな魚なのか聞いても「エイみたいなものだけど、エイじゃないもの」という漠然とした返事が返ってくるだけである。ちなみにれっきとしたエイの一種である
金沢の港町である金石に伝わる「かないわレシピ」はただの調理法ではない。調理法はピラミッドの一番上のキャップストーンにすぎない。そのキャップストーンをしっかり支える何十、何百段という礎石があってこそのピラミッドである。金石に独自に伝わる調理法にはそれを支える自然であり、地理であり、歴史、風習、文化などがあるが、一番重要なのは人でありその中でも金石に生活する女性が果たす役割は大きい。 金石で生まれ育った女性もいれば、別のところから嫁に来た方もたくさんいる。金沢の中心部からの方も
イワシに砂をまぶして出荷する「砂付きイワシ」については本ブログ知る人ぞ知る究極のメニュー”落ちイワシ”で紹介した。冷蔵庫のない時代に鮮度を保つためにきなこ餅のように砂をまぶして地域の外に売りに出たという。 ここで疑問が出てくる。一つはどのような理屈で鮮度を保っているのか、もう一つはどのくらいの効果があるのかである。 鮮度を保つ一番重要な要素は温度である。砂をまぶして身の温度の上昇を防ぐとすれば日除けか水分が蒸発する際に気化熱現象で冷えるかなどが考えられる。とりあえず砂付けに
私が小さいころ、うちの祖母や父親と四季に応じて近くでいろんなものを採ってきた。秋になると、金石のもんが「向かいの浜」と呼ぶ犀川西岸の森でクルミを拾い自然薯を掘り、ヒラタケなんかもあった。薬湯を煎じるためとかでドクダミやツユクサの採っては干した。砂浜にはハマボウフウが群生し、父親から「これは料亭なんかで使う高級な食材だ。」と教えられたが長らく絶えていた。ここ5年ぐらいでまたチラホラ見られるようになったのはなんとも喜ばしい。 春は彼岸ごろからイワシの季節だ。戦後しばらくが最盛期
かぶら寿司が金石発祥だという説があるが、安価に作れる大根寿司の方が一般には馴染み深い。ただ、馴染みが深いとはいってもそれは自分の家のものだけである。 お医者さんの家族から聞いたのだが、患者さんやその家族が自分の家で作った大根寿司を容器に入れて「いつもお世話になってます。」といって持ってこられたそうだが各家々で全然違うものだったらしい。魚はニシン、サバ、サケ、ハタハタや”ゾロガレイ”と呼ばれる小さいカレイなどなど。大根の切り方や塩加減、発酵具合などもさまざまで、それぞれの家庭
金沢の港町金石で小イワシといえば2種類あって、成魚でも小さいカタクチイワシとマイワシの10㎝ぐらいの小さいものどちらも小イワシと呼ぶ。冒頭の写真はマイワシのものであるが、カタクチイワシの刺身も旨い。 小イワシ料理の東西の横綱は塩茹でと刺身だと思う。この2つは大きいマイワシでも作られるが個人的には小イワシで作る方が断然美味しい。 大きいイワシだと、どうしても身の味より脂の味が勝ってしまうので焼き魚などにするとうまいがおおざっぱになりがちだ。それに比べて小イワシは脂が上品
イカを加熱調理する上で金石の母ちゃんたちが口を揃えるのは「とにかくサッと火を通す。」ということである。火を通しすぎると固くなり味も抜ける。だから駅弁などで有名な市販のイカ飯はすこぶる評判が悪い。日持ちを考えてのものだろうが、火を入れすぎてイカの本来の味を殺してしまっているという評価だ。 ではどうするか。もち米(うるち米も混ぜる)はあらかじめ芯が残るぐらい火を通しておき、イカに詰めてさっと煮て作る。また、イカは大きいものではなく小さいものを使うと柔らかく仕上がるというのも
ゲンゲの一夜干し(簡単ver.) ①ゲンゲの頭と内臓を取って、軽く塩を振る。 ②串に刺して2~3日干す。自然にまわりのゼリー状のものが取れる。 ③魚焼き機やフライパンで焼いて完成。 ゲンゲの一番メジャーな料理はおつゆで、次には醤油で炊いたものだが、意外に人気なのは一夜干しである。 インターネットで検索すると「ゲンゲの一夜干し」なるものが結構ヒットするが、一夜干しというより一週間ぐらい干したのではないかと思われるものがほとんどである。特に売り物の場合は日持ちを優先してそうする
金沢の港町で北前船の寄港地として栄えた金石には30を超える「塩もんや」があった。「塩もん」とは魚介や海藻などを干物や塩漬け・ぬか漬けなどにしたもので、それを製造・販売するのが「塩もんや」である。イワシやニシンなどの青魚は”こんか漬け”と金石で呼ぶぬか漬けにする。 フグは余すことなく活用し、身や”ほうら”と呼ばれる顎に猛毒の卵巣などはこんか漬けにする。卵巣の毒は地域の伝統の製法で作ると失われるが、その仕組みはハッキリとしないらしい。ふぐの卵巣のぬか漬けは全国でもこの金石と隣の
”ゾロガレイ”とは小さいカレイのことで金石の代表的な食材の一つである。手のひらサイズのものは大きい方で、小さいものになると木の葉ぐらいのもので透明で背骨や内臓も見える。 豆アジの刺身の記事で紹介したように、小魚など市場価値のない売れない魚が金石の食文化を特徴づけている。昔は漁師からバケツでゾロガレイをよくもらったものだが、一度に大量に処理せなければならずこれをうまく調理するのには経験と知恵が必要である。 一度にたくさんのゾロガレイを処理するためには時間差をつけて調理する必要
香箱ガニの名前 香箱ガニの名前の由来は諸説あるらしい。「香箱ガニ 名前 由来」で検索すると、室生犀星に泉鏡花といった文豪の名前が挙がり、茶道具の「香箱」由来説やら方言の「こうばく(=かわいらしい)」由来説などなど。 地元の漁協の方にお聞きすると「自分が若かったころ(40年ぐらい前)まではみんな甲(こう)ガニと言っていたが、それではあまりにも名前にセンスがない。そこで伝票を切るときに”香箱ガニ”と切ってそれが広まった。自分が名付け親だと思っていたが泉鏡花が”香箱”と使っていたと
お世話になっている方からおすそ分けをいただいたのが見出しの写真だ。仁丹(極小の豆アジ)を片栗粉をつけて唐揚げにして、醤油と砂糖と酒で飴炊きにしたもの。早い話が佃煮である。佃煮といっても市販のものと比べ味は控えめで、しっかりと魚そのものの味がする。 年配の方には説明不要だろうが仁丹とは極小粒の銀色をした丸薬である。大きさ(小ささ?)といい、色といい仁丹にピッタリで昔の人のネーミングセンスには頭が下がるばかりである。 さて、この仁丹は頭も内臓をわざわざ取っていない。新鮮な
今回紹介するのは小イワシのおから汁に続く金石が誇るインスタントスープ第二弾である。今回はお湯を注ぐだけである。 カレイの骨のおつゆ ①カレイは金石流に醤油だけで炊く。詳細はコチラ。炊く時間は短めに。薄いカレイは1分ぐらいでOK。 ②食べ終わったら皿に残った骨(この辺では”ザン”と呼ぶ。”残”りのことか?)にお湯をかけて完成。皿に口をつけていただく。 カレイの骨や皿にあるうま味や脂と醤油の塩気をお湯に溶かし、非常に滋味深い味である。汁ご飯にして食べるのも美味しい。ハチメ(メ