なぜ1人になると、間食してしまうのか?:孤独と空腹は脳の同じ領域を活性化させる
今回は、人が孤独を感じた時には、空腹を感じた時と、同じ脳の神経回路が活発化することを明らかにした研究をご紹介します。
リモートワークの普及で1人で過ごすことが多いかと思いますが、1人でいて寂しさを感じている時に、お菓子などを口にすることで気分を紛らわそうしてしまうのはなぜなのでしょう?
最近の研究では、孤独も空腹も、脳の報酬系の神経回路の働きを活発にさせ、寂しい時には食べることで、この報酬系の神経回路の指示を満たそうとしていることが示唆されています。
紹介論文
Acute social isolation evokes midbrain craving responses similar to hunger
Nature Neuroscience volume 23, pages1597–1605(2020)
図解で簡単理解
リモートワークやオンライン授業の普及で、太ってしまう人が増えている
寂しい時、寂しい気持ちを紛らわそうと、ついついお菓子をバクバク食べてしまう経験、皆さんあるんじゃないでしょうか?
特に今年は、パンデミックの影響で、リモートワークが急激に普及して、自宅で誰とも会わずに仕事をすることになったという方も多いと思います。
私の知り合いでもいるのですが、リモートワークになってから、間食をしてしまうことが多くなって、気付いたらだいぶ太っていたという話を最近よく耳にします。
もちろん、一日中家にいるので運動不足で太ってしまうというのもあると思いますが、何よりも"間食"が増えてしまうという声が多く聞こえてきます。
自宅に1人でいると、なぜついつい食べすぎてしまうのでしょう。
寂しいから?
寂しさを紛らわすために、食べることで気を紛らわそうとしてる?
孤独を感じると、間食が増えてしまうのはなぜなのでしょう?
孤独も空腹も、脳の同じ領域を活発化させる
今回紹介する研究では、人が孤独を感じた時と空腹を感じた時には、どちらの状態でも、脳の報酬系を司る神経回路が活性化していることを報告しています。
この研究では、40人の被験者(18-40歳、女性27人)を対象に、10時間社会的交流から隔離された後に、人が談笑している社会的交流の画像を見せた状態で、脳のどの領域が活動しているかを調べる"functional MRI(fMRI)"という手法を用いて、孤独を感じた時に脳のどの領域が活発になっているかを調べています。
そのあとで被験者たちに対してさらに、10時間絶食した後に、食べ物の画像を見せた状態で、同じようにfMRIで空腹を感じた時に脳のどの領域が活発化しているかを調べています。
さらに、被験者には、孤独感や食欲について自己申告式のアンケートで自分の心理状態を申告してもらっています。
すると、10時間の社会的隔離と絶食、どちらの条件でも、それぞれ談笑している画像あるいは食べ物の画像を見せながらfMRIを行うと、"黒質"と"腹側被蓋野"という、脳の同じ領域の神経活動が活発になっていることが明らかになっています。
なお、孤独や空腹と全く関係のない、花の画像を見せた時には、"黒質"と"腹側被蓋野"は活性化しませんでした。
脳の"黒質"と"腹側被蓋野"は、動機づけを行う領域
脳の"黒質"と"腹側被蓋野"は、生じた欲望に対する行動をとるように動機付け(報酬系)を行っている領域として知られています。
この領域には、報酬系を司るドーパミン神経が多く存在し、このドーパミン神経の働きが活発化すると、今感じている欲望を満たすような行動をとるように、私たちは動機付けされます。
孤独なのに孤独を解消する手段がない場合、「食べる」ことで報酬系の神経回路を満たそうとする
孤独を感じている時には、この報酬系の神経が活性化し、私たちを人との関わりを持つような行動をとるように動機づけさせます。
空腹を感じている時には食事をするように、報酬系の神経回路が私たちを動機づけします。
しかしずっと自宅に1人でいて、かつ孤独を解消する手段がない場合、代償反応として「食べる」ことで、この脳の報酬系の神経回路を満たそうとするのです。
繰り返しになりますが、孤独を感じた時も、空腹を感じた時も、同じ報酬系の神経が活発化しているので、孤独な時に「食べる」という行為を行うことでも、この報酬系の神経回路は満たされるからです。
これが、ずっと自宅で1人いて、かつ孤独を解消する手段がない場合に、ついつい間食に走ってしまう原因であることが、今回の研究から示唆されます。
まとめ
✅ リモートワークで、間食が増えて太ってしまう人が増えている
✅ 1人でいる時の孤独な状態と、空腹の状態では、脳の同じ領域("黒質"と"腹側被蓋野")が活発化する
✅ "黒質"と"腹側被蓋野"は、報酬系を司る領域
✅ 孤独なのに孤独を解消する手段がない場合、「食べる」ことで報酬系の神経回路を満たそうとする
今回の研究から、孤独は空腹と同じで、報酬系の神経回路により、本能レベルでそれを解消しようとする感情であることが示されたと言えます。
この本能が満たされない場合、過食になったり、何か別の代償行動で脳の報酬系を満たそうとするように、私たちの体は仕組まれているといえます。
寂しさから過食にならないようにするためには、人とのつながりを感じることが大事だということですが、ソーシャルディスタンスが叫ばれる今の状況ではなかなか難しいかもしれません。
ただ、このnoteもそうですが、こんな状況だからこそ、SNSを通じた面白い、素敵な出会いがあるかもしれないですし、オンラインでも、他者とのつながりを感じることはある程度はできるのかなと、最近思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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