深い睡眠中に脳の老廃物が洗い流されている
今回は、ノンレム睡眠と呼ばれる深い睡眠中に、脳に溜まった老廃物が洗い流されていることを示した研究をご紹介します。
アルツハイマー病は、脳に老廃物が蓄積してしまうことで発病していきます。
深い睡眠をしっかりとって、脳に老廃物を溜めないことが、こういった脳の老化に起因する病気の予防につながりうることが示唆されます。
紹介論文
Coupled electrophysiological, hemodynamic, and cerebrospinal fluid oscillations in human sleep
Science. 2019 Nov 1;366(6465):628-631.
https://science.sciencemag.org/content/366/6465/628
Sleep drives metabolite clearance from the adult brain
Science. 2013 Oct 18;342(6156):373-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24136970
ノンレム睡眠が、脳のリカバリーに重要
睡眠をしっかりとることは、脳の働きにとって重要だということは、皆さん実感していることだと思います。
寝不足の状態では、頭が働かないし、集中力も持続しないし、短気にもなるし、全く良いことがないですよね。
ノンレム睡眠と呼ばれる、脳が深い睡眠に入った状態は、4Hzという緩やかな脳波の状態であり、脳の全ての神経の活動が低下しています。
脳が、急速モードに入っているとも言えますね。
そして、このノンレム睡眠の状態は、記憶の強化に重要であることが分かっています。
ノンレム睡眠中の脳脊髄液の流れが、脳に溜まった老廃物を除去してくれる
今回の研究では、このノンレム睡眠の状態では、脳の中に脳脊髄液と呼ばれる液体が大量に流れこみ、この脳脊髄液の流れが、脳に溜まった老廃物を洗い流して除去していることを突き止めています。
ノンレム睡眠の状態に入ると、脳全体の神経活動が低下するため、脳があまり酸素を必要としない状態となり、脳の血流量が低下します。
この脳血流の低下と同時に、脳脊髄液という無色透明の液体が大量に脳内に流れこむことが明らかにされています。
そして、脳の中に脳脊髄液がたくさん流れこんだ時に、βアミロイドというアルツハイマー病の原因になる老廃物が、洗い流されて除去されていることが、マウスを用いた研究で示されています。
つまり、ノンレム睡眠の状態に入り脳全体の神経活動が低下すると、脳脊髄液がたくさん脳内に流れこみ、脳にたまった老廃物を洗い流してくれているのです。
アルツハイマー病の新たな治療法の開発につながるかも
これまでのアルツハイマー病治療薬の開発は、βアミロイドという1つの分子にターゲットを絞った戦略をとっていましたが、いずれも臨床試験で期待した効果を示すことはありませんでした。
脳を洗浄してくれる脳脊髄液の流れを人工的に増やすような治療法が開発することができれば、脳疾患の原因となるβアミロイドなどの老廃物を効率よく除去することができるかもしれません。
まとめ
✅ ノンレム睡眠が、脳のリカバリーに重要
✅ ノンレム睡眠中の脳脊髄液の流れが、脳に溜まった老廃物を除去してくれる
✅ 脳脊髄液の流れを人為的に促進することができれば、アルツハイマー病の新たな治療法の開発につながるかも
今回の研究は、マウスを用いた基礎研究と、健康な成人を対象にした研究であったため、実際にアルツハイマー病を発症している高齢の方の脳脊髄液の流れがどうなっているかを、まずは調べていく必要があります。
とは言え、毎晩深い睡眠をしっかりとって、脳の老廃物をしっかり除去することは、脳の老化防止に重要であることは間違いないと言えます。
今後も分かりやすい、簡潔な記事を心がけていきます🙇🏻♂️