マガジンのカバー画像

閑文字

207
詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

なよ竹へ

詩です。

わたしがこのように筆を執ることは後にも先にもこれきりに
なるだろう。わたしはおまえに独立心を強く持ってほしいので、
口うるさく言うことはせずに、思うところがあっても我慢
してきたが、とうとう限界がきたのでここに書くことにする。
今わたしたちが当然のように立っている森は、元々荒涼とした
大地だったのだ。ハリガネのような木や地を這うように生えた
土気色の草が点在しているだけの場所だったのだ

もっとみる

幻想的な物語

詩です。

ボードレールを読んで待ってるあなた
わたしも片手で読めるように練習した
川崎駅の時計台は七時半を指している
針の隙間が45度
西の空が穿たれて、解き放たれた太陽光線
上げられないヴェールが、血が滲んでいくように
オレンジに染まる
青空と橙雲で一足先にインディゴになった部屋で
たぶん読み飛ばしてしまった物語があった
天国のような浮遊庭園から流れ落ちてくる滝
虹、虹、環状虹の向こうに見える

もっとみる

校長の話

詩です

「辛」いことに「一」つ加わると「幸」せになる
という話を笑ったことがあります
なんでも笑いにした方がカッコイイという怪異が
よっつの、ワックスで固めた頭を支配していました
心臓は疑問を感じて、立ち止まろうとしていましたが、
行動を決めているのは頭でした
 
寝て起きる、寝て起きる、寝て起きる
海と街とこいびと達にオレンジ色のタオルケットをかけて寝て、
洗いざらしの真っ白でふわふわな雲海の

もっとみる

あげは蝶

詩です。

あたし、あげは蝶
空気の中で氷の破片が
イルミネーションみたいに整列していた冬ではなくなって
ようやくできるようになった遠足で、蜘蛛の巣に掛かった
胴体は黒いけど脚は焦げすぎた焦げ茶みたいなんだな
排泄物みたいな彼の身体から出されるのは透明な糸
x²-3x+2=(x-1)(x-2)みたいな
純潔を利用したハンティング
透明なものをキレイと言うのはやめませんか?
キレイと思っても、それに

もっとみる

無色

詩です。

詩集を読んでいるとき、本を開いたまま、
人間は文字を与えなかった音でも発音できるな、
などと思い、天井の木目を見ていると
宇宙から黒色透明の蜜が垂れてくることがある
起き抜けのヒグマのように
のっそのっそ動いているが、
進路は確実に私に向かっている
私は≪女神のよだれ≫とメモに書く
 月のクレーターのフチに
 バーバパパのお風呂用まくらを置いて、
 脚を投げ出し横になっていると
 地平

もっとみる

神田川

詩です。
ただの詩です。

太陽も月も星もはずかしがりで、すぐに
ぼくの背中に隠れちゃうんだよね、と
海が言った
ちゃんとおにいちゃんをやっている顔には
水平線のかがやきのような、この世界のやぶれから射し込む
この世界に重なっている異世界の光があった
歩けないところを道のように見せるところは、
あの頃から変わってないね
満開の桜を見て、ちゃんと同じことを繰り返してると
安心してしまったとき、
強風

もっとみる

彫刻

詩です。

12月29日から30日にかけての
一年が限界まで沈殿して底冷えする夜、キンキンに
冷えたタオルケットを身体に巻きつける
歯のがちがちみたいに等間隔に鑿を打つ音は
頭から離れることはなくなった
ペガサスみたいに想像上の音なのだけれど、
たしかに頭蓋骨を削っているような、小さな呻き声で、
その痛みと、ぼくは、
義務でも野次馬でも運命でもなくただの生活として手を繋いでいた
本棚と本棚に入りき

もっとみる