なよ竹へ

詩です。


わたしがこのように筆を執ることは後にも先にもこれきりに
なるだろう。わたしはおまえに独立心を強く持ってほしいので、
口うるさく言うことはせずに、思うところがあっても我慢
してきたが、とうとう限界がきたのでここに書くことにする。
今わたしたちが当然のように立っている森は、元々荒涼とした
大地だったのだ。ハリガネのような木や地を這うように生えた
土気色の草が点在しているだけの場所だったのだ。
そんなところにわたしたちよりずっと先に生きていた方々が
入り、根をおろし、歴史を紡ぎ続けたから今があるのだ。
目の前に天に向かって大きく育った欅の木があるだろう。
彼が腕を広げて豊かに茂らせた葉を、よくよく見てほしい。
一枚一枚をしっかりと見てほしい。おなじ緑があるだろうか?
おなじ形があるだろうか?一枚もないのがわかるだろう。
わたしが今のおまえのように、ちいさくやわく頼りなかった頃
よくそれを見上げていた。太陽の光を受けて輝き、風に揺れて
変わり続けるそれの美しさにどれほど感動したことか!
そして大きく硬く生長してわかったことは、そのような緑は
欅の木だけでなく、この森全体がそうであるということだ。
この森全体が果てしなく続く美しい緑であるということだ。
それがわかった時、わたしもその一部であるということ、
美しさに埋もれてそれを支える一つとなれていることにとても
感動したのだ。おまえにもその感動を味わってほしい。
おまえも美しさに組み込まれているのだと理解してほしい。
その美しさを残していくための働きをしてほしい。
迷っている今のおまえを見ているとわたしも苦しいのだ。
親としてその苦しさから脱け出せるように、なんとか力になりた
い。その考えをここに記しておく。
 
 
風が吹いた。音を立てている欅の葉を見上げると、
乾燥海苔のように光を放っていた。
 
――反歌
夕まぐれニトリで買った片手鍋でしずかに燃える和紙の便箋



=====================

読んでいただきありがとうございます。
スキやフォローもしていただけるとうれしいです。


いいなと思ったら応援しよう!