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詩集『閑文字』

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伽戸ミナがつくった詩を載せています。読んで頂けたらうれしいです。
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2023年10月の記事一覧

【詩】歩かされてきた

【詩】歩かされてきた

通学路を教えてもらったとき、
骨と街がこすれるようなキュキュッという音を
立てながら折れ曲がる
赤い道ができた
三年生になって、鉛筆の道は
石けりの軌道のなみなみの線で、
わざわざ隙間をとおって縁石をあるいて、
いつのまにか夕陽は、電線の一番下にきていた
枯れ葉を踏んで聞こえる音のように
小枝を踏んで聞こえる音のように
どんぐりを踏んで聞こえる音のように
シャーペンが折れて、残骸が散らばった道を、

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【詩】爽涼さ

【詩】爽涼さ

夏のこと、嫌いでいいんだよ
酸素のこと嫌いでいい
じゃあ生きないの?、って、
大上段に構えた言葉を踏み潰す
四十六万八千三百五十二粒
汗を熱せられた大地に渡して
六千七百三十八個
日干し煉瓦を運ぶ
村への水道橋は、三分の二までできた
千早振る神も見まさば立ちさわぎ雨のと川の樋口あけたべ
科学とか合理とか常識が好きな人が、
科学とか合理とか常識と同じ熱量で、
科学とか合理とか常識を超えた才能を崇拝し

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【詩】雨夜の月

【詩】雨夜の月

月明かりが侵入して、この部屋の暗さを知る
どこか遠いところでやっている
感謝祭の祭壇を照らす灯りが
ちろちろと流れ込んでくる
黒い森まで狂い踊って、焼け石にも水が走る、
喜びの声が届く
暗黙の部屋に
おふとんがつめたい
うでをいれる
なんどもなんども、打ちつけ穴を開け、
この部屋をチーズの姿にする雨
そんな雨が、
ぼくときみのあいだを裂いてくれたらいいのに
ぼくはぼくで、溶けてしまって、
きみはき

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【詩】路地裏

【詩】路地裏

ハッピーバースデーの歌も音程が求められる時代に、
淡々とふりつづける雨は、最低だな
濡れに濡れて、艶やかな艶の出る
厳然たる行き止まりを、ちからなく押してみる
壁肌の細かい小石が指先にささるのは、
染み込んで染めていく暗い雨より痛くなかった
アマビエが浸みわたった街が雨冷えする
階段の最後の一段を踏み外して寒くなったな、今年は
小説を読むためのろうそくの灯りで、
絞め技を掛け合う短夜をやり過ごした

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