見出し画像

vol.25 ファークナー「熊」を読んで(加島祥造訳)

初めてのフォークナー。アメリカ文学では最大の作家と紹介されているが、日本ではあまり読まれていないように思う。これも、先回のヘミングウェイと同じく、ノーベル文学賞作家(1949年度)

ミシシッピで生まれた彼は、アメリカ南西部に発達した「語り」の伝統を身につけてあるとしてあり、僕の好きな戦前のデルタブルース、「ロバート・ジョンソン」のストレートな「語り」と相まって、興味が出てくる。

難解といわれるファークナー、やはり初読では非需に難しく、頭に入ってこない文章が多く、何をいっているのかわからない箇所が多かった。しかし、オールド・ベン(大熊)との対決シーンのスリリングな描写は、まるで映画を見ているようで夢中になれた。

ストーリーは、「アイク」という10歳の少年が、強烈な個性のオヤジたちに囲まれて、森にいる巨大な熊を追いかけながら、精神的に成長していく物語。その語りの背景に、黒人問題や階級社会、開拓や資本主義、世代交代のことが描かれているように思った。

その中でも、インディアン酋長の血をひく黒人で森の精神を伝える「サム・ファーザーズ」や主人公で10歳から狩に加わって成長していく少年「アイク」、大きな青い犬で勇敢な「ライオン」、そして大熊につけられたあだ名「オールド・ベン」など、それぞれの関係や役割を深読みすることが、この作品を楽しむ上でとても重要だと思った。

舞台はアメリカの1870年代から1880年代ごろ。このころは南北戦争が終わり工業化が進展した時代で、作品の中でも舞台の森は開拓され、鉄道が広がり、メンフィオスの賑わいの描写がある。また、この大熊の「オールド・ベン」が育った森はもともとインディアンがいた土地で、白人の「ブーン」がこの大熊にとどめを刺すシーンは、ひとつの時代の終わりを描いているように思った。また、フォークナーが育った南部の白人は黒人に対する支配関係を続けており、作品の中でも、白人「ブーン」は無鉄砲な勇敢な人であり、黒人「サム」は役目を終えたとして生きる元気をなくした老人として描かれている。

それにしても、一番興味を引くのは、主人公の少年「アイク」の将来。工業化以前の社会で育った老黒人の「サム」や巨大熊「ベン」から森の精神を教えられたこの少年は、工業化の進む資本主義の社会の中で、どのような心持ちで、何を大切にして生きていのだろう。少なくとも勇敢な犬「ライオン」のことは、次の時代にも語り継いでほしいと思った。

この作品、大熊との対決以外にも、様々なサイドストーリーを感じさせる構成が評価を高めていると思った。

なんとか、ここまで感想文として書いたが、これも何回か読み込まないと本当の味わいはわからない作品だということがわかった。(おわり)


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集