【東洋医学と体内時計】子午流注(しごるちゅう)
「生命は地球の自転に同調し24時間周期で変動しており、それは遺伝子によって体内時計が調節されている」という体内時計に関して、2017年にノーベル生理学賞・医学賞が贈られています。その臓器が最も働くべき時間にピークを迎えられるようにするための時計遺伝子というものが存在し、時間に合わせて体温を調節したり、ホルモンの分泌が変化しているということです。
東洋医学において私たち人間は、自然界の一部であるという考えが根底にあるため、はるか昔から自然界の法則や宇宙の法則と人間の体を結び付ける考えの元(整体観念)、1日の時間と内臓の働きとも密接に関係し、治療に役立てる考え方があります。
それを「子午流注(しごるちゅう)」と言います。
子午流注とは、時間と十二経脈のツボへの気血の流れの関係性があり、
“臓腑が活発に動く時間”を表しています。
各臓腑が活発に動く時間にどのように過ごすか、どのような治療をするかにおいても活用でき、より高い効果が期待できます。中国伝統医学では、約2000年前から人間の体は24時間周期で2時間刻みに五臓六腑が交互に働くと考えられてきました。そのため、自然界のリズムに沿った生活こそが健康であることにおいて重要とします。
例えば、朝の5時~7時頃は大腸の働きがピークになるため、この時間に排便があるという方も多いのではないでしょうか。また、朝の3時から5時は肺が活発に働く時間で、この時間にきれいで新鮮な空気を吸い軽い運動をすると肺の機能を高めるのによいとされ、太極拳はまさに理にかなっています。しかし、喘息の方にとっては発作が起こりやすい時間帯でもあります。
夜の11時から1時までは胆経が旺盛な時間。この時間は胆汁の新陳代謝が最も盛んになる時間帯のため、長期にわたってこの時間に寝ていないと肝炎や胆嚢炎、胆石を発症しやすくなります。すでに肝臓や胆嚢の病気にかかっている人は必ずこの時間には寝ているようにしましょう。
夜中の1時から3時は肝経の時間なので、その時間までお酒を飲んでいると肝機能にまで負担をかけます。この時間に起きているというだけでも肝機能が低下するので、遅くとも11時までにはぐっすり眠っていることが重要です。睡眠こそ、体内時計が顕著に体感できるものではないかと思います。不眠が続くことで寝れるときに昼でも夕方でもちょこちょこ寝るという方もいらっしゃると思います。寝る時間がバラバラだと、体内時計が狂いやすいので、しんどくても一日起きていて、眠れなくても21時に布団に入るというリズムを繰り返すことが重要です。夜勤のある方が体内時計を狂わさない方法は、夜勤の翌日もなるべく起きて、その日の夜に早寝をすることが成長ホルモンの分泌時間に深い眠りになり一番体が回復しやすいようです。
体内時計は実は24時間きっちりではなく少し長い周期になっていて、主に太陽光などの光によって時刻情報を伝えて調節されているので、夜遅くまで明るい場所にいることや、スマホやTVなどの明るい光が脳に刺激を与えることは体内時計が乱れ、ホルモン分泌等に狂いを生じてしまいます。自然のリズムに従い生活することが何よりも健康維持に重要ではないでしょうか。
1 寅の刻(3~5時):一日で最初に活動するのは「肺」。目覚めに向けて全身に気と血を送り込みます。早朝にきれいな空気を吸って深呼吸したり、乾布摩擦をしたり、ヨガや太極拳をするのは非常によいということで理にかなっていますね。
2 卯の刻(5~7時):五臓と六腑の関係は肺が表で「大腸」が裏。卯の刻は「大腸」が活発に動き出します。朝いつもだいたい同じ時間帯に大便がでるという方も多いと思います。正常に機能している証拠ですね。
3 辰の刻(7~9時):大腸から胃へ気血が流れ、「胃」の働きが活発になります。この時間帯に食事を摂ると消化がスムーズです。1日1食や2食で生活している方は夜にドカッと食べるよりはこの時間に食べるようにするとよいでしょう。
4 巳の刻(9~11時):胃は受け皿とすれば胃に入ってきたものを消化・吸収し、食べたものから気を生み出すのは「脾」の働きです。巳の刻は「脾」の活動が活発になるため、心身ともに充実している時間帯です。仕事や家事など、一番効率的にこなせる時間帯です。ダイエットする場合にはこの時間に運動などをするとよいようです。
5 午の刻(11~13時):循環器や精神活動をつかさどる「心」がピークを迎える時間帯。陽から陰へ転換の時間なので、午後に向けて少し小休憩を取って体を休めることで午後からの作業効率がよくなります。お昼に机で15分ほど仮眠をとる小学校があるようですが、とてもよい習慣だと思います。6 未の刻(13~15時):心と表と裏の関係である「小腸」が活発に動く時間帯。栄養の吸収が活発になるので、必要な養分を必要な臓器へ送り込み、不必要なものを排泄に関わる臓器に送り込みます。なかなか太れない人はこの時間は動きすぎないように。
7 申の刻(15~17時):「膀胱」の働きが活発になる時で、尿量が最も増える時間帯。この時間に尿を我慢することは禁物。しっかり尿を出し、体の熱を逃がしましょう。体温が一日で最も高くなる時間帯でもあり、心拍、血圧、体力、呼気流量ともに最高になる時です。
8 酉の刻(17~19時):「腎」の働きが最も高まる時間帯。腎は腎臓だけを指すのではなく、生殖、発育、ホルモン、内分泌系と幅広く関わりとても重要な働きをします。腰痛や生理トラブル、不妊や尿トラブルなどの改善に補腎作用のある漢方薬を用いますが、補腎薬はこの時間帯に飲むことでより効果が高まります。
9 戌の刻(19~21時):「心包」の機能が更新する時間帯。心包の病は心の病と同義で用いられることが多く、喜怒哀楽の感情を司ります。子育て世代にはとても忙しい時間帯ではありますが、感情が高ぶらないようリラックスして過ごしたい時間です。
10 亥の刻(21~23時):「三焦」は気や水(体液)の流れを調整している中医学特有の臓器です。気や血、水は全身にくまなくスムーズに巡っていれば健康で、滞りが生じることが体の不調を生み出します。就寝に向かって内臓の働きを鎮めていきますので戌の刻同様心身ともに落ち着いて過ごしましょう。
11 子の刻(23~1時):「胆」の働きが活発になる時です。胆は胆汁の貯蔵と決断にかかわります。胆汁の分泌排泄も盛んな時間帯。長期間この時間帯に起きていると肝臓や胆嚢の病気にかかりやすくなります。子の刻は睡眠が最も深い時間帯で体を修復する成長ホルモンが多く分泌されるため、この時間にぐっすりと寝ていることが翌日の活動の源となります。また、胆は決断力とも関わるため、胆の働きが落ちると、決断力や勇気を失いおびえやすくなります。
12 丑の刻(1~3時):「肝」の働きが最も高まる時です。一日中全身を巡っていた血液をきれいにし、老廃物を処理し、きれいになった血液を全身に送り込む準備をします。長期間この時間起きている生活をしていると汚れた血液が体内を巡り続けさまざまな病気を引き起こします。肝臓の働きを高める漢方薬なども夜に飲んでもらうと効果がぐっと高まります。
体内時計は、日々同じリズムで五臓六腑が働きます。割り振られた時間に対応している臓器がしっかり働いているかどうか、時間を通じて観察することも身体を深く知ることに繋がります。また、漢方薬はその原料である生薬全てがどの臓腑に入り効きやすいかが定められているので、複数の生薬で構成されている漢方薬がどの経絡(臓腑)に入りやすいかという特徴を持っています。
治療や生活養生に「時間」と「漢方薬の特性」の概念をプラスすることで、より症状改善の効果を高めることができます。
現代人にとって正しい生活リズムは決して容易ではないかもしれませんが、漢方やお薬に頼らない健康な体づくりのまず第一歩として、時間を意識した生活養生も実践できると嬉しいです。
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