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『短編 仔猫シリーズ』photo by lemonysnow

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吉祥寺のとあるバーを舞台にした、マスターと仔猫の物語。不定期連載中。
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#短編小説

短編I | 迷い猫 1/2

あれはいつのことだったろう。俺は小学三年生だったか。 住んでいたアパート近くの茂みに、生…

短編I | 迷い猫 2/2

…更に、1ヶ月後。 つまり、女が俺の店に泊まり始めてから、5ヶ月後。 その夜は、冷たい雨が激…

短編II | 飼い猫 1/2

「そう言えばおまえ、猫を飼い始めたそうだな」 カウンター席に座る親父さんが、琥珀色の液体…

短編II | 飼い猫 2/2

玄関で派手な物音がして、私は目を覚ました。 私と彼は1LDKのマンションに住んでいる。私の寝…

短編Ⅲ | 留守番猫 1/2

7月の、まだ薄明るい夕刻。 店のドアを開けると、あいつはカウンターの中から驚いた顔をしてオ…

短編Ⅲ | 留守番猫 2/2

オレは仔猫を見た。仔猫はオレの独白を、ずっと黙って聞いていた。 「お嬢ちゃん、ちょいと手…

短編Ⅳ | 家出猫 1/2

10月。 「そろそろ、はっきりさせなきゃいけないな」 俺はスマホのカレンダーを見ながら呟いた。親父さんからも、何度も忠告されている。「仔猫をいつまでも飼い殺しにしてんじゃねえぞ。自分でちゃんと始末をつけろよ」と。 ◆ ある夜。 店の営業を終えて帰宅した後、俺は仔猫に、ダイニングの椅子に座るよう促した。仔猫はちょこんと椅子に座り、小首をかしげて俺を見た。俺はテーブルの上で両手を組み、少し改まった口調で切り出した。 「おまえがうちに来て、もう半年以上が経ったな」 仔猫は

短編Ⅳ | 家出猫 2/2

マンションの階段を駆け上がると、玄関ドアの前に仔猫がしゃがみ込んでいた。俺が家を出てから…

短編Ⅴ | お使い猫 1/3

約束の時間ちょうどにスタバに行くと、テラス席には既におじさまの姿があった。「おじさま、お…

短編Ⅴ | お使い猫 2/3

「まあ、いらっしゃい。本当に仔猫みたいにかわいらしいお嬢さんね」 コンシェルジュに案内さ…

短編Ⅴ | お使い猫 3/3

再びバスに揺られてお店に着いた頃には、既に開店時間を過ぎていた。ドアを開けると、おじさま…

短編Ⅵ | 二隻の舟 1/3

中島みゆきの歌に『二隻の舟』というのがある。歌詞はこんな具合だ。 あいつとあたしも『二隻…

短編Ⅵ | 二隻の舟 2/3

さかのぼること15分前。 あいつに愚痴を聞いてもらおうと、あたしは店を早めに閉め、この店を…

短編Ⅵ | 二隻の舟 3/3

「そうですね…」 新しい酒をあたしに差し出した後、娘は再び、キュッキュとグラスを磨き始めた。そして、「答えになっていないかもしれませんが…」と前置きをした後、まるでグラスに向かって呟くように、小さな声で訥々と語り始めた。 「私とマスターは、よく感情がシンクロするんです。私が笑うときは、マスターも笑ってる。マスターが泣くと、私も泣いちゃう。どちらかが寂しいとか、甘えたいとか、触れたいとか思うときは、もう片方も同じように思ってる。どうしてだか、お互いに、それがとてもよくわかる