荻野進介

ものかき。主にビジネス系だが、小説もものす。『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』…

荻野進介

ものかき。主にビジネス系だが、小説もものす。『水を光に変えた男 動く経営者 福沢桃介』(日本経済新聞出版)、『史上最大の決断 ノルマンディー上陸作戦を成功に導いた賢慮のリーダーシップ』(共著、ダイヤモンド社)、『人事の成り立ち』(共著、白桃書房)など。ポメラニアンが愛犬。

最近の記事

編集協力をした『暗黙知が伝わる動画経営』

暗黙知と形式知、氷山のたとえ  久しぶりに、僕が編集協力した本が世に出た。この7月10日のことである。一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が監修し、ClipLIne(クリップライン)という動画サービス会社の高橋勇人社長が筆をとった『暗黙知が伝わる動画経営ー生産性を飛躍させるマネジメント・バイ・ムービー』(ダイヤモンド社)である。   暗黙知とは、言語化や数値化が困難な、各自の思いやノウハウ、コツ、物事のタイミングを表わす知のことである。自転車の乗り方、ピアノの弾き方などは暗黙知

    • 『エネルギー・トランジション』著者へのインタビュー

      地球温暖化阻止を前提に政治が動く  地球温暖化は人類が直面する喫緊の課題であり、それは人類の諸活動によって発生する二酸化炭酸などの温室効果ガスによって発生するから、その排出をわれわれはできるだけ抑えなければならない――。これは世界各国の人々のほぼ共通認識となっている。ただ、科学者の一部には、その問題を否定し、地球温暖化そのものをないものとしたり、その原因を水蒸気に求める人もいるという。  どちらが正しいのか。正否の決着はつきそうにないが、二酸化炭素の排出抑制は各国のリーダー

      • 軽出版と橋本治

         昨夕、東京・神保町のシェア型書店(棚を個人で借り、そこに売り物の本を置く)パサージュで行われた座談会に行ってきた。文筆家・編集者の中俣暁生さんと、パサージュの店主にして、稀代の本のコレクター、あるいは書評家・書き手としても有名な元明治大学教授で仏文学者の鹿島茂さんが、中俣さんがこの4月に自費出版した『橋本治「再読」ノート』を巡って90分ほど談論するというもの。 中俣さんいわく、80ページほどで、消費税込み1520円のこの本は「軽出版」の初めての試みなのだという。軽出版とは

        • 伊藤博文に小便をぶっかけ平気だった豪傑無私の政治家の話

          明治前期の三大県令の一人  そろそろ東京都知事選挙が告示されるようだが、戦前の日本においては、府県知事は内務省を中心とし、中央官庁から派遣されていた。いわゆる役人であった。その名称は大参事であったり、県令であったり、いろいろ変わったが、最終的に知事に落ち着いた。  彼らがどんな人たちか、どんな仕事ぶりだったのか、よくわからない。ただ、その一端を垣間見ることができる本を読んだ。『安場保和伝 1835-99 豪傑無私の政治家』(藤原書店、2006年)である。  主人公、安場安和

        編集協力をした『暗黙知が伝わる動画経営』

          感情文学、感覚文学の金字塔『失われた時を求めて』

          「ドン・キホーテ」「戦争と平和」「西遊記」 数年前だろうか、自分が世界文学の長編作品をあまり読んでいないことに気づき、いろいろ漁ってみることにした。そんなとき頼りになるのが、岩波文庫の赤版だ。セルバンテス『ドン・キホーテ』(全6冊)、トルストイ『戦争と平和』(全8冊)、中野美代子訳『西遊記』(全10冊)に挑戦してみた。  いずれも世に違わぬ名作だから、ページを繰る手が止まない。『ドン・キホーテ』は流布する騎士道小説を実在のものと勘違いした主人公ドン・キホーテが従士サンチョ・パ

          感情文学、感覚文学の金字塔『失われた時を求めて』

          「空気を絞って水を滴らすほどのエネルギー」で書かれた司馬遼太郎の短編

          文藝春秋から『司馬遼太郎短編全集』というシリーズが全12冊で出ている。その第一巻、二巻、四巻、六巻という4冊がなぜか部屋の本棚にあった。第一巻(2005年4月第一刷)、二巻はともかく、なぜ四巻、六巻なのか、よくわからないが、この約1カ月ですべて読破してみた。 『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『花神』『菜の花の沖』ほか、彼の長編作品はあらかた読んでいる。この年初には、最後の長編小説『韃靼疾風録』にも目を通し、楽しませてもらったところだ(ああ忘れていた。長尺の歴史ルポ『街道をゆく』

          「空気を絞って水を滴らすほどのエネルギー」で書かれた司馬遼太郎の短編

          書店Titleで買ったサリンジャー『ナイン・ストーリーズ』

          自宅から十数分のお気に入りの本屋私の馴染みの本屋は何軒もあるが、そのうちの現時点でのマイベストを挙げると、東京・荻窪のTittle(タイトル)になるだろう。独立系の新刊書店で、書店としての完成度と、品揃えに新旧がうまくない混ざったオリジナル性があるのはもちろんのことだが、店主の辻山義雄さんが何冊もの著作を持つ文筆家、という貌(かお)を持っていることもあいまって、知名度は全国区だ。   店の奥にあるカフェもいい。基本的に1人客優先のつくり(カウンター4席、1人がけのテーブルが2

          書店Titleで買ったサリンジャー『ナイン・ストーリーズ』

          無所得無所悟の坐禅を続けていく

          ようやく結跏趺座ができるようになった  坐禅を始めて5カ月になる。家から徒歩数分の場所に禅道場があり、そこに毎週1回通い、それ以外の日は自宅の部屋で、毎夜30分ほど坐っている。  これまでは足の骨組みが固く、結跏趺座(けっかふざ)、つまり、右足を左ももの上に、左足を右ももの上に乗せることができず、左足を右ももの上(あるいはその逆)に乗せる半跏趺座(はんかふざ)で対応していたが、足首が柔らかくなったか、今年に入って、結跏趺座が、プロから見たら不完全だと思うが、できるようになっ

          無所得無所悟の坐禅を続けていく

          パンタよ、永遠に

          頭脳警察からソロ活動へ この7月7日、PANTAが亡くなった。バンド、頭脳警察のメインボーカルにして、ほとんどの曲を書いた。いわば主柱である。享年73。まだ若い。肺がんを患っていたらしい。 デビューは1970年。初期の頃は、「銃をとれ」「赤軍兵士の詩」「世界革命思想宣言」など、その歌詞の過激さと、赤軍派のアジ演説が行われるなどの、こちらも過激なライブパフォーマンスが受けたが、その頃の作品より、バンドが一時解散し、ソロ活動時代の作品のほうが私は好きだ。 水晶の夜がテーマの

          パンタよ、永遠に

          英雄の栄光と悲哀を描いた澤田謙『プリュターク英雄伝』を推す

          ある個人が成した一生の事績を記した文学、それが伝記文学である。古今東西を通し、その伝記文学の傑作と評されるのが、プルタークによる『対比列伝』とされている。プルタークは紀元46年、ギリシア中部の町、カイロネイアにある名家に生まれた、優れた著述家にして文化人だ。60歳を超えた年齢で、10年をかけ、歴史的な英雄を対比的に描いた同作を完成させた。 シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』もこの作品にヒントを得て執筆されたものだ。 対比列伝からプリュターク英雄伝へ  この『対比列伝

          英雄の栄光と悲哀を描いた澤田謙『プリュターク英雄伝』を推す

          誰でもいつかはライ麦畑を出ていかなければならない

           J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』、この名高い世界文学、未読だったので、目を通してみた。この手の名作には必ずある、巻末の訳者解説が、野崎孝訳の白水社のこの本にはない。そうした、いわゆるアンチョコがないので、読んだ感想を素直に綴れることができる。 インチキ野郎と俗物だらけの世間 舞台はアメリカのニューヨーク。17歳の高校生の主人公が単位を落とし、寄宿制の名門高校を退学させられてしまう。それを学校から告げられ、実家に戻るまでの数日間の独白物語である。  放校の事実を

          誰でもいつかはライ麦畑を出ていかなければならない

          これを読むともう一杯飲みたくなる、片岡義男『僕は珈琲』

           珈琲好きには垂涎の一冊である。珈琲に関する書き下ろしのエッセイと、これまた珈琲に関する短編小説一篇が収録されている。    珈琲(を飲む場面)は映画に出てくるし、歌謡曲でもそうだ。本にだってある。それは洋の東西を問わない。さらにいえば、喫茶店と珈琲は切っても切れない関係にあるし、マグカップや、珈琲豆を入れる缶のことなど、話題は尽きない。  アメリカの珈琲がアメリカンと言われ、薄いのは、第二次大戦時に、軍が多くの珈琲豆を戦地に送ってしまい、本国で豆が不足したためだという。珈

          これを読むともう一杯飲みたくなる、片岡義男『僕は珈琲』

          日本を覆う『自民党という絶望』と、そこからの起死回生策

          ある一つのテーマについて、複数の識者に取材した原稿や、執筆原稿を掲載する。よくある(最近ではその地位がかなり落ちている)総合雑誌の特集のつくり方だが、最近ではこの手法を新書で行うケースも多い。 雑誌のつくりで、自民党政治の宿疴に迫る新書 『自民党という絶望』(宝島社新書)もそうだ。自民党によって続く現下の長期政権、そのマイナス面を、防衛政策、旧統一教会問題、対米姿勢、右翼、経済政策、行政のデジタル化、食の安全保障、派閥、新自由主義、といった9つのテーマに分け、それぞれ識者

          日本を覆う『自民党という絶望』と、そこからの起死回生策

          おいしいミカンを求めて

          最近、ミカンには当たり外れが大きいと感じている。味が甘くて、中(房)の皮が薄く、種が入っていないもの。それがおいしいミカンだ。逆に、すっぱくて、皮が厚く、種が、多い時には一つの房に2個以上入っているもの。これがおいしくないミカンだ。 最近、おいしくないミカンばかり食べている。いずれもスーパーか、青果店を名乗る個人商店で贖ったものだ。もう盛りの季節は過ぎたか、ミカンそのものを置いていない店もある(むしろ、ポンカンの季節らしい)。でもミカンが食べたい。それもおいしいミカンが。

          おいしいミカンを求めて

          千里の行も足元に始まる。コンピュータはいったいどんな機械なのか。

          コンピュータの歴史と原理を学ぶべく、最近、時にうんうん言いながらも、読み通したのが、『プログラムはなぜ動くのか』、『コンピュータはなぜ動くのか』(ともに矢沢久雄著、日経BP)の2冊である。 前者のほうが先に出版されていたので、そちらを先にした。前者は第三版、後者は第二版と、それぞれ、改々訂、改訂版が出されており、それらを読んだ。特に前者は20万部突破となかなかの人気のようである。 うーん、読み通しはしたが、どちらも十全に理解できたとは言い難い。 まず前者についてだが、C

          千里の行も足元に始まる。コンピュータはいったいどんな機械なのか。

          タイトル『おどろきのウクライナ』より「おどろきの中国&ロシア」のほうがふさわしい?

          タイトルに偽りあり?橋爪大三郎と大澤真幸という、日本を代表する社会学者2人による新書の対談本である。最初に感想を書くと、この内容でこのタイトルはないよ。ただし、羊頭狗肉で内容空疎、というわけではない。つまり、内容に問題があるわけではなく、その肝心のウクライナに関する記述が全体の3割くらいしかないのである。 あのロシアと戦っているウクライナとはどんな国で、どんな歴史を持ち、ゼレンスキーとはどんな人で、なぜロシアに攻められる事態に陥ったのか、そこにはどんな「おどろき」があるのか

          タイトル『おどろきのウクライナ』より「おどろきの中国&ロシア」のほうがふさわしい?