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『エネルギー・トランジション』著者へのインタビュー

地球温暖化阻止を前提に政治が動く

 地球温暖化は人類が直面する喫緊の課題であり、それは人類の諸活動によって発生する二酸化炭酸などの温室効果ガスによって発生するから、その排出をわれわれはできるだけ抑えなければならない――。これは世界各国の人々のほぼ共通認識となっている。ただ、科学者の一部には、その問題を否定し、地球温暖化そのものをないものとしたり、その原因を水蒸気に求める人もいるという。
 どちらが正しいのか。正否の決着はつきそうにないが、二酸化炭素の排出抑制は各国のリーダーが定期的に顔を合わせ、その対策を話し合わなければならない、重要な国際政治問題となっているのは事実だ(脱炭素化、カーボンニュートラルとも言われるが、炭素、つまりカーボンが”悪役”なのではない。だってわれわれの身体自体が炭素でてきているのだから、”悪役”はあくまでCO2である)。
 それを前提に、国際政治が動き、国内政治に影響を与え、われわれの生活に余波が及ぶのは、トランプが米大統領に返り咲きでもし、その主張が、二酸化炭素悪者説を大きく翻し、国際政治の流れを変えない限り、避けられない。

2050年、日本のカーボンニュートラルへの道筋

 日本はその脱炭素化がいまいち進んでいない、とメディアでは言われるが、「違う」ということを、数字で論理で解き明かした本がある。この3月に刊行された『エネルギー・トランジション 2050年カーボンニュートラル実現への道』(橘川武郎著、白桃書房)である。
 風力、太陽光、水力、地熱などの再生可能エネルギー、石炭、天然ガスを使う火力、原子力、水素・アンモニアといった新燃料による発電など、すべての発電方式をカバーし、政府目標の妥当性を検証、省エネルギー、地域のあり方といった需要サイドで採るべき策も論じながら、「2050年カーボンニュートラル実現」へのロードマップを指示してくれるのだ。
 この本の読みどころはいくつかある。石炭発電をなくすために、石炭の代わりにアンモニアを使う、という方式で、世界の最先端を行っているのが日本だということとか、水素からメタンを合成するメタネーションというものが日本の都市ガス産業にとってカーボンニュートラルの大きな鍵を握り、それが出来れば、世界に冠たる技術になるとか、元気になる話も多い。

原発のリプレースなくしての原発廃止は非現実的

 ただ、僕が興味深かったのは原子力の現状と今後を分析した第四章だ。僕はこれまで原子力発電に関しては中立派だったが、ロシアによるウクライナ侵攻でその考えが揺らぎだした。ウクライナ国内の原発を攻撃することも辞さないという露プーチン大統領の発言がブラフでないとすれば、原発は簡単に原子爆弾になり得ると悟ったからである。
 著者の橘川さんは電力事情に明るい経営学者で、この10年あまり、国のエネルギー政策を考える審議会に一貫して参加。そこで、原発のリプレース、つまり次世代革新炉の開発・建設し、古くなったものと取り替える必要性をずっと唱え続けてきた。危険の最少化を図るためだ。その新しい炉へのリプレースを進めながら、古い炉を積極的に畳み、原発依存度を下げて行くべきだ、というのが、橘川さんの主張である。

漂流する日本の原子力政策

 もっともだ。ところが、これに対し、岸田政権は既設炉の運転延長を次世代原子炉の建設より先に具体化する方針を打ち出している。この姿勢は電力会社にも影響を与え、運転延長を歓迎している。既設炉の運転延長のほうが革新炉の建設よりも、ずっとコストが低くて済むからだ。
 橘川さんは原発推進派でも反対派でもなく、中立派。推進派も、リプレースの必要性は認めるものの、積極的な支持を表明しないのだという。
 このように、原子力政策が”漂流”しているきっかけは、かの東日本大震災にる。その後、国論が賛成、反対で二分しているからだ。そのような問題には、政治家もむやみに手を出しにくい。

 結果として、福島第一原発事故12年余が経過したにもかかわらず、原子力政策は漂流したままである。厳しい言い方をすれば、次の選挙・次のポストを最重要視する政治家・官僚の視界は、3年先にしか及ばない。しかし、原子力政策を含むエネルギー政策を的確に打ち出すためには、少なくとも30年先を見通す眼力が求められる。このギャップは埋めがたいものがあり、そのため日本の原子力政策をめぐっては、戦略も司令塔も存在しないという不幸な状況が定着するにいたったのである。
 

同書、96ページ

 しかも、原発から出る核廃棄物は現状の技術水準においては、地中深くに埋めなければならない。放射能の毒が緩和されるまでには、数万年の歳月が必要だという。国土深くに毒物が存在しその取扱いには注意せよ、というメッセージを何万年もの長い間、僕らは子々孫々に伝え、彼らは果たしてそのメッセージを守ってくれるのだろうか。こう考えると、やはり原子力は葬送すべき運命にある発電方式と思えてならない。その座に代わるのが、風力、太陽光などの再生可能エネルギーに他ならない。

 前置きが長くなった。その本書の著者、橘川武郎さんに先月、僕はインタビューした。それが以下の3つの記事である。へえそうなんだと目から鱗の記述がいくつもあるはずだ。お目通しいただければ幸いである。






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