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家畜

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家畜 第8話

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 「おいズウー!」

 くそイラつく。

 こういうときはストレスを発散させるに限る。

 俺は自分の部屋から、台所で歯を磨き終わってもう寝ようとしていたズウーを大声で呼び出す。

 扉を開けて入ってきたズウーは、怯えたような表情でこちらの目も合わさず入ってきた。「扉閉めろ」俺が命令すると奴は戸を閉め、こっちに向かって立った。

 身長は166cmのままで体重は95キロ。中学一年生の時ま

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家畜 第7話

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 入学式はまるで成人式のようににぎやかでワンパクだった。名前を呼ばれても返事をしない奴、今時リーゼントにして自分が学校のアタマはれると思ってる奴、それから――いや、これ以上はよそう。重要なのはオリエンテーションや休み時間などに俺がいろんな人と会話をしていったということ。そこから話をしていこう。

 中学時代、人望集めに奔走した経験を持つ俺にとって、見知らぬ者に声を掛けたり身の上話を聞く

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家畜 第6話

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 試験は学力、作文、面接と全方位に渡っていた。が、一度偏差値の高い高校に入学していた俺にとってこの程度の試験など朝飯前だ。

 俺は2月の都内の定時制高校の入学試験を受け、難なく合格した。と言っても知らせたくなるような奴が誰もいない。中学までの友人とは縁を切ると決めたところだし、両親も二度目の、それも偏差値の低い高校への入学と言うことであまり歓迎してくれなかった。あったとしたらせいぜいズ

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家畜 第5話

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 もちろん俺が大人になるまでにある程度の交友関係は保たなければならない。というか単純に寂しいというのもある。

 ここ最近携帯電話を買い、バイトもしているので月々の使用料金を払うことも出来る。俺は1998年に入ってから中学の時の旧友に電話をかけることにした。

 中学の時点では誰も携帯やPHSの類を持っておらず誰のアドレスも知らなかったので、俺は卒業名簿から知っている名前を片っ端から探して

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家畜 第4話

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 小さい頃からずっと心を見せずに物事をはっきりしゃべらない。だから甘やかされてきた。俺と違って何かをやることを強要されたり成績の出来不出来を追及されることもほとんどなかった。そして何を考えているかわからない、気持ち悪い奴。これは僻みとか粗探しでなく、本心であり事実である。

 しかし世の中にはいろんな人間がいる。ズウー(弟)のような人間を可愛がったり、同情したり、また何かの間違いで愛し

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家畜 第3話

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 ここで改めて弟のことを紹介しておこう。弟の名は光二。僕が一郎などという平凡な名をもつのに対し、奴は母親の愛情を一身に受け、輝くような名を与えられた。この時点で僕は弟に対する情などかけらももたずにいた。

 僕が中二の時に弟は小学五年生で、客観的に見て良く言えば落ち着いた性格、悪く言えば暗い。そして器量よしではないが、特に不細工でもなく、もし弟が異性からもてようと思えば努力次第でそれが叶

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家畜 第2話

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 時は流れ一九九四年、僕が小学校を卒業し市立の中学に入り、弟は小学四年生になった

 父親は以前とはうって変わって、家にいることがほとんどなくなってきた。たまの会社の休日も、自らすすんでコンビニの夜勤のアルバイトまでしている始末である。つまり仕事ばかりで家庭のことを顧みない人になっていたのであった。

 しかしそうなるのも無理はない。父親が四年前のバブル崩壊のときにそれまで勤めていた会

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家畜 第1話

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 国際絵画美術館に絵が飾られ、スイミングスクールでは銀メダル。一生懸命頑張って一番にはなれなかったが親の機嫌を取る材料としてはこれだけでも十分だろう。

 一人の小学3年生として、いろんなことを頑張る。何故なら子供は将来大人になるからだ。今の僕はまだ子供だけど、今のうちにいろいろ頑張っておかないと、きっと立派な大人になれない。だから頑張る。

 というのは嘘。

 本当は絵描きも水泳

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家畜 第0話

   はじめに

 幼少期の僕の記憶は、大きく分けると二つに一つです。

 大人に褒められた経験と、叱られた経験です。

 僕は1982年に生まれ、ちょうど物心ついたときに弟が生まれ、また家族が裕福な時代でもありました。

 僕は大人に褒められる為、また叱られないようにする為、闘争心を剥き出しにしながら物事に取り組んできました。幼稚園でのお遊戯、絵画教室での絵の上手さ、スイミングスクールで丁寧に泳

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