【洋楽雑考#9】時を駆ける20世紀少年〜T-Rex
皆元気? 洋楽聴いてる?
ニュース記事で知ったのだが、ストリーミングが占める割合が音楽産業の売り上げトップになったらしい。
比較的"モノ"にこだわる日本、ドイツではCDセールスもまだ奮闘中のようだが... こういう世の中だと、世界規模のムーヴメントというのもなかなか発生しづらい。
世界中で盛り上がった最後のアーティスト...う〜ん、One Directionか?
というワケで、今回は1970年代前半に巻き起こったグラム・ロック・ムーヴメントの代表格、T-Rexを紹介しよう。
グラム・ロック、英語の Glamorous に語源を持つ、けばけばしいルックス、R&Rを基本としたスタイルだ。
1967年に結成されたT-Rex。当時はTyrannosaurus Rex名義である。主役は現在でも多くの信奉者を持つマーク・ボラン(Vo/G:1947年生まれ)、そのパートナーだったのはパーカッション奏者のスティーヴ・トゥック。
1969年リリースのサード・アルバム「Unicorn」が全英チャート12位を記録するものの、ボランはフラストレーションを募らせる。
アルバム・リリース後、執筆に勤しんでいたボランをよそに、スティーヴは他アーティストとのコラボに加え、単身作曲活動を始め、4作目のアルバムに自分の曲をゴリ押しするように...そんな中始まった全米ツアーだったのだが、当然うまく運ぶはずもない。
充分な宣伝のないライヴは客入りも乏しく、また基本アコースティック・デュオだった彼らの対バンにはゴリゴリのロック・バンドがあてがわれ、ヴォリューム面でも惨敗。
もっとも、スティーヴもそれなり以上に、文字通り自分にムチ打ってガンバったようで、ステージ上で着ていたシャツを脱ぎ、自分の身体が血まみれになるまでベルトでひっぱたいていたらしい...競走馬か、スティーヴ。第4コーナー見えんだろう...
案の定、2人は袂を分かち、ボランは後任としてミッキー・フィンを迎え入れる。もともとはドラマーだったスティーヴと異なり、演奏面での貢献はあまりできなかったフィンだったが、そのバツグンのルックスが加入の決め手となった。
Tyrannosaurus Rex名義での最終作、1970年3月リリースの「A Beard of Stars」では、よりエレクトリック寄りになったサウンドを披露、バンドの理想とするスタイルが見え始める。
そして、同年12月にT-Rex名義のデビュー作「T-Rex」を発表。先行リリースされたシングル「Ride a White Swan」は11月に初めてのUKチャートTop 10入りを記録、年をまたいだ1月には最高位2位を記録、ついにバンドの快進撃がスタートする。
1971年2月のシングル「Hot Love」は念願のチャート1位に上り詰め、6週にわたりその座を維持。また、同時期にボラン、フィンに加え、正式なメンバーとしてスティーヴ・カリー(B)、ビル・レジェンド(Dr)が参加。バンドとしてのT-Rexも完成する。
同年9月にはニュー・アルバム「Electric Warrior 」を発表。グラム・ロックの歴史に燦然と輝く本作には、彼らの代表曲「Get it On」が収録された。イギリスはもちろんだが、アメリカでも楽曲はTop 10入りを果たし、バンドにとっての全盛期が訪れる。
ちなみにアメリカでは同名異曲をChaseがリリースしていたので、「Bang a Gong (Get It On )」とタイトルが変更されている。
翌72年にはウェンブリー・アリーナで2日間にわたって行われた公演をリンゴ・スターが監督、撮影、この模様は「Born to Boogie」として今も見ることができる。
7月にはイケイケ状態のままニュー・アルバム「The Slider」を発表。
「Telegram Sam」、「Metal Guru」という大ヒット・ナンバーを生み出した。当然、この頃には日本でも彼らの人気は急上昇し、1972年の11月後半から12月初旬、翌73年10月の2回、日本武道館を含むジャパン・ツアーが行われている。
また、特筆すべきは最初の公演時に、あの名曲「20th Century Boy」のレコーディングが実施されていた(録音時期の問題から、当時この楽曲はアルバム未収録)。
しかし、73年1月リリースの次作「Tanx」あたりから、急速にムーヴメント自体が収束に向かう。
同時にバンドは再び不安定な状況を迎えることになる。数作のアルバムをリリースするものの、黄金期の輝きには程遠く、またボラン自身も急激な環境変化から来るストレスのためか、みるみるうちに太ってしまう。
そして、1977年9月16日早朝、当時のガール・フレンドだった黒人女性シンガー、グロリア・ジョーンズの運転する車に同乗中、街路樹に激突。わずか29歳の生涯に幕を下ろした。
ボラン自身の短命さとシンクロするように、あっという間に終焉を迎えたグラム・ロック・ムーヴメント。
とは言え、その革命性が当時のティーンたちに凄まじいインパクトを与えたことに間違いはなく、その後数えきれない程のアーティストたちがボランからの影響を公言するようになる。
思えば、美しさにおいてはイギリス産アーティストの中でピカイチなデヴィッド・シルヴィアン率いるJapan や、変わり種では当時のハード・ロック系では極めて珍しいヴィジュアル重視だったGirl などもT-Rex の遺伝子を引き継いでいるような。
Sigue Sigue Sputnik も遠い親戚か...
また、アメリカではより一層過激な要素を強調する形、当時の表現で言うと"Shock Rock"という方向性に変換され、イギー・ポップ(Tyrannosaurus Rex時代にスティーヴ・トゥックはイギーのパフォーマンスに触れている)、アリス・クーパー、そしてKISSなどに受け継がれて行く。
携帯をクリックすれば、数万枚のアルバムの中から自分の好きな曲を取り出せるのが当たり前の現在。
便利さにはもちろん感謝なんだけど、70年代の何にもない時代、1枚のピンナップ(死語か?)に写るロック・スターを穴が開くほど眺めたり、アナログ盤の香りにワクワクしたり(特に輸入盤)。
単なるノスタルジアなのかも知れないが、あの時代の思い出というのは、オレのDNAに確実に刷り込まれている。
後戻りしようとは思わないが、T-Rexのルースなブギーに身を任せつつ、今夜は少し思い出に溺れてみようか。
では、また次回に!
※本コラムは、2018年5月18日の記事を転載しております。
▼Spotifyプレイリスト▼
コラムをもっと楽しんでもらえるよう、JIDORI自ら選曲をしたプレイリストだ!このプレイリストを聴くだけで君も洋楽フリーク!(?)
▼フジパシフィックミュージックでも連載中▼
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?