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エッセイ | 羊を数える
眠る時には羊を数える。羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……。関係のない考え事をしないように羊を数えることだけに集中する。
以前までは眠るために羊を数えるなんてバカらしいと考えていたが、実際にやってみると意外にも効果があって驚いた。
羊を数え始めて60匹目くらいから自分が眠くなり始めていることに気付く。「羊が60匹、……羊が71匹、……あれ、10匹数え忘れているな」思考がゆっくりになっている。数えるのも遅くなっているが、間違えに気付くのも遅い。
そこからさらに羊を数えていく。初めの頃とは違い、数えるスピードもどんどん遅くなっていく。90匹までくると自分との戦いになる。順番に数えられているか、遅すぎないか、それらを気にしながら眠りにつく。100匹目の羊を迎えることはない。
朝、目が覚めた私は羊のことなんて覚えてもいない。「今日もよく眠れたな」とあくびをする。
日中も羊が私の頭の中に出てくることはない。昨夜、たくさん呼び込んだ羊たちはいったいどこへ行ったのだろうか。自分で勝手に呼び込んでおいて不思議な気持ちになる。
「おなか空いたな。早くご飯が食べたい」夕方も私の頭に羊はいない。ずっと違うことで頭がいっぱいだ。
夕飯を終えてゆっくりしていると、徐々に何かが近づいてくる。何かは分からないけれど、いつも一緒にいる何かが。
夜、私は洗面所で歯を磨いている時に鏡に映る自分の目が眠そうなのに気付く。意識すると目がシバシバとしている気がする。
「そろそろじゃないですか?」1匹目の羊が顔をのぞかせ、首に付けた鈴の音で私に話しかけてくる、ような気がした。
私は今日初めて羊のことを思い出した。眠る時はいつも一緒にいるのに、なぜ今まで考えもしなかったのだろう。
ただ、今日はもう少し起きていたい。眠いけれどまだ眠れないのだ。とりあえず門を閉めて羊が入ってこないようにしておく。
今日はまだnoteに投稿する記事を書いていないのだ。投稿はすでにしているのだが、それは昨日までに書いていた記事だ。あした以降に投稿するための記事を書かなければならない。
私は何について書こうかと考えながら下書きを見る。書きたいことをためているけれど、どれも今から書くには体力を使う。早く書いてしまい眠りたい。
画面を見ている視界もだんだんとかすんでいく。そろそろ限界かもしれない。
「私たちを入れてください」門の外から羊が叫んだ、ような気がした。
「とりあえず、眠る時の習慣について書こうか……」私は羊の圧力に負けてキーボードを打ち始める。
門の外では羊が満足気にしているのだろうな。今夜は何匹まで数えられるのだろう。
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