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伊勢物語ドットコム アーカイブ

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以前、伊勢物語ドットコムにあった伊勢物語の現代語訳と解説を載せています。随時更新します。以前作った頁の復元ですが、以前の背景や絵は使えませんでした。また解説など一部変えています。…
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伊勢物語 第十一段

伊勢物語 第十一段

昔、男が東国へ行った時に、友人たちに、途上で言い寄越した歌

  わするなよ ほどは雲ゐになりぬとも そらゆく月のめぐりあふまで

 (わすれるなよ 身は天上の人となったとしても 空を行く月のように巡って再会するまで) 

「ほどは雲居になりぬとも」はどういう意味だろう。

雲居には宮中の意味もあるので、殿上人になったともとれるし、文字通り天上の人となったということで亡くなったという意味もあるだろ

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伊勢物語 第十段

昔、男が武蔵野国まで迷い歩いてきた。
さて、その国である女を求婚した。
(女の)父は「別の人に結婚させよう」と言ったが、母はなぁ、高貴な人に執着していた。
父は普通の人で、母はなぁ、藤原(氏)であった。それでなぁ、高貴な人に(結婚させたい)と思っていたのだった。
この婿がね(=婿候補;男)に詠んで送った歌。住む所がなぁ、入間の郡、みよしのの里であった。

婿がねが返歌して

となあ(詠んだ)。よそ

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渚の院・後半(『伊勢物語』第82段)

渚の院・後半(『伊勢物語』第82段)

お供である人が、酒を従者に持たせて、野を通ってやってきた。
「この酒を飲もう」と言って良いところを探し求めて行くと、天野川というところに着いた。

皇子に、右馬の頭(うまのかみ)がお酒をさし上げる。
皇子のおっしゃるには、「『交野を狩して、天の河のほとりに着いた』を題として、歌を詠んで、盃をさせ(杯に酒を注げ)」とおっしゃったので、例の右馬の頭が、詠んで差し上げた。

 かりくらし たなばたつめに

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渚の院・前半(『伊勢物語』第82段)

渚の院・前半(『伊勢物語』第82段)

昔、惟喬親王と申し上げる親王がいらっしゃった。(この京都から見て)山崎の向こう、水無瀬というところに離宮があった。年ごとの桜の花盛りにはその御殿へなあ、いらっしゃったのだった。

その時、右馬頭(右馬寮の長官)であった人を、いつも連れていらっしゃった。時が過ぎて久しくなったので、その人の名を忘れてしまった。

狩りは熱心にもしないで、酒ばかり飲み、飲みながら和歌を作っていた。

今、狩りをする交野

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武蔵野(『伊勢物語』第12段)

武蔵野(『伊勢物語』第12段)

昔、男がいた。人の娘を盗んで、武蔵野に連れて行くうちに (男は)盗人だったので、国守(今でいえば県知事)に捕らえられてしまった。

(その時、男は)女を草むらの中に置いて、逃げてしまった。やってくる人が「野には盗人がいるという」と言って火を付けようとする。女はわびしく思って

  武蔵野はけふはな焼きそ 若草のつまもこもれり我もこもれり
 (武蔵野は今日は焼かないで!若い夫も隠れています私も隠れて

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芥川(『伊勢物語』第6段)

芥川(『伊勢物語』第6段)

昔、男がいた。女で手に入れることができなかった人を、数年にわたって求婚しつづけていたが、何とか盗み出して、とても暗い時に(逃げて)きたのだった。

芥川という川を連れて行ったところ、草の上に降りた露を、
ーーあれはなに?
となあ、男に尋ねたのだった。

行く先は遠く、夜も更けてしまったので、鬼がいる所とも知らずに、雷までもひどく鳴り、雨もすごく降っていたので、荒れた蔵に女を奥に押し入れて、男は弓・

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伊勢物語 第七段 伊勢・尾張

伊勢物語 第七段 伊勢・尾張

むかし 男がいた。

都に居づらくなって、東国へ行ったが、伊勢の国と尾張の国の間の海辺を行く時に、浪がとても白く立つのを見て

いとどしく すぎゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな

(さらに一層過ぎてきた方が恋しいのに、うらやましくも 帰る浪であることだ)

となあ、詠んだそうだ。

もうずいぶん前のことになるが、秋に研究会で名古屋に行った。

一人で行動するのはいつもなのに、

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伊勢物語 第五段

伊勢物語 第五段

昔、男がいた。(京都の)東の五条あたりに、とてもこっそり(女のところへ通って)行った。

(そこは)秘密であるところだったので、門からも入れないで、子供らが踏み開けた築地(土塀)の崩れから通ったのだった。

 人がたくさんいるわけではないが、(男が通う)回数が重なったので、家の主人が聞きつけて、その通い路に毎夜、(警備の)人を置いて、守らせたので、(男は)行くが、逢えなくて、帰ったのだった。さて(

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伊勢物語 第四段 梅の花盛りに

伊勢物語 第四段 梅の花盛りに

 昔、東の五条に大后宮がいらっしゃった その西の対に住む人がいた。

その人を、本気ではないが、気持ちの深い人が行き訪ねたが、

(その人は)正月(旧暦一月)十日位の頃によそへ隠れてしまった。

 (その人の)いる所は聞いたが、人が行き通う所でもなかったので、よけいにつらいと思いながら、いたのだった。

 次の年の正月に、梅の花盛りに、去年を恋しく思って、(西の対に)行って、立って見、座って見、見

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伊勢物語 第三段 ひじき藻

伊勢物語 第三段 ひじき藻

昔、男がいた。思いをかけていた女の所に、ひじき藻というものを贈ると言って

思ひあらば葎(むぐら)のやどにねもしなん 
 ひしきものには袖をしつつも

  (もし思う気持ちがあれば雑草の生えた家の庭に寝もしよう。ひじきではないが引いて敷く物には袖をしながらでも)

 二条の后が、まだ帝にもお仕えなさらないで、普通の人でいらっしゃった時のことである。

万葉集なら「やど」は「屋の外」すなわち「庭」な

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伊勢物語 第二段 春の雨

伊勢物語 第二段 春の雨

昔、男がいた。

奈良の都は離れて、この都(平安京)は、まだ一般の人の家が決まっていないときに、西の京に女がいた。

その女は、世間の人よりは優れていた。その人は、容貌よりも心が優れていたのだった。

一人ではなかったらしい。

それを例の誠実な男が、ちょっと語り合って、帰ってきて、どう思ったのであろうか

時は旧暦三月一日、雨がしょぼしょぼ降るときに贈った歌

おきもせず寝もせで夜を明かしては 

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伊勢物語 第一段 初冠

伊勢物語 第一段 初冠

昔、男が初冠(元服)して、奈良の都、春日の里に所領がある関係で狩りに出かけた。

その里にとても優美な姉妹が住んでいた。
この男は垣根越しに覗き見てしまった。意外にも(その姉妹が現代風で)昔の都に不似合いな様子でいたので、気持ちが惑ってしまった。

男は着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて贈る。その男は信夫摺りの狩衣をなあ、着ていたということだ。

 春日野の若紫の摺衣 しのぶの乱れ限り知られず

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