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伊勢物語 第一段 初冠
昔、男が初冠(元服)して、奈良の都、春日の里に所領がある関係で狩りに出かけた。
その里にとても優美な姉妹が住んでいた。
この男は垣根越しに覗き見てしまった。意外にも(その姉妹が現代風で)昔の都に不似合いな様子でいたので、気持ちが惑ってしまった。
男は着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて贈る。その男は信夫摺りの狩衣をなあ、着ていたということだ。
春日野の若紫の摺衣 しのぶの乱れ限り知られず
(春日野の若紫で摺った摺り衣の信夫摺りの乱れ模様はこれ以上ないくらいです
……春日野の若いお二人を見て、私は忍んでも心の乱れがこれ以上ないくらいです)
となあ、大人ぶって言い贈ったのだそうだ。(信夫摺りの)関連で趣き深いこととも思ったのだろうか。
(この歌は)
みちのくのしのぶ捩ぢ摺りたれゆゑに 乱れ染めにし我ならなくに
(陸奥の信夫捩ぢ摺りではないが誰のために私は乱れ始めたのか私のせいではないのになぁ)
という(源融の)歌の本歌取りである。
昔の人はこのようにすばやい風雅な事をしたのだった。
初冠(ういこうぶり)とは、
男の子が、子どもの髪型から大人の髪型に変えて冠をかぶり、一人前になる元服の儀式。やんごとなき貴族が一人前になる時には、「副臥(そいぶし)」といって結婚が付いてくる。源氏物語の主人公、光源氏は数え年十二歳で元服し、その夜、大臣の娘と結婚している。
生徒達に「十二歳で結婚するのってどうかしら?」と尋ねると、女の子は大体ポカンとして想像できない様子。男の子は、しかし、皆一様に複雑な顔をする。うらやましいの半分、疲れそうなの半分っていうところ?
さて、伊勢物語の主人公は何歳とは書いていないが、どこか初々しい感じがする。
しかもここは婚家ではなく、所領に狩りに行ったときだから、とても気楽な気持ち。青春の自由な恋愛だ。
すてきな姉妹を見つけて、一目ぼれしましたとその場で恋の歌を精一杯背伸びしてカッコよく贈る、
とてもかわいいお話。
なお、この話には季節が明確には書かれていない。歌に若紫とあるから紫草の生える春とされてきたのだろう。花は白い。
春日野の若紫という字面だけで春を連想してしまう。柔らかな曲線を描く奈良の山々。萌え始めた草。
奈良の京の東にある春日野。東は春の方角で方角の色は青。
青春・朱夏・白秋・玄冬、方角の色と方角の表す季節を組み合わせて、人生の時期を表す。
ちなみに、光源氏が元服した季節は?と思ったが描かれていない。
青春時代の春。すべてのものは輝き、希望と期待に満ちている。