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随筆(2023/6/1):「知識や技能は優秀なのに教育には失敗する」問題と、そこに潜む罠

0.ヘッダの本を紹介する記事ではない

単にテーマが似ているだけですが、題名だけでもう、なるほどなあ、と思いますよ。要はこういう問題でもあるのだから。

(ヘッダに問題があると言われたら対応します)

1.「知識や技能は優秀なのに教育には失敗する」問題

ある種の人たちにとっては、かなりイヤな話をします。

あなたがもし何らかのジャンルで、確かな熟練と、それに基づく自信を得ているとしましょう。

さて、職場の都合や、自営業であってももし事業承継をしたいのなら、引継や教導ということはまず欠かせません。

で、

「知識や技能は優秀なのに教育には失敗する」

という話は、かなりよくあります。

もちろんこれは困る。一体何がアカンのだろうか。

2.身も蓋もないことを言うと、教育学の教科書を読むのが良い(が、今回はそれはしません)

身も蓋もないことを言うと、

「なんか教育学の定評のある教科書を買い、これを読めるようにするための副読本を漁り、あらかじめゴリゴリ読んでおく」

というのが手堅いやり方なのでしょう。

ちなみに私はできていません。数学本を読むのに忙しいんだよな。

でもこれでは、人に教えるということは、博打と何ら変わらなくなる。

ダメなんだよな。勝手に生徒の人生数年分をチップとして賭けて、ブタみたいなカードデッキに全部貼って、負けに巻き込むようでは。そんな無責任なことはできない。

だから、やはりいつかは教育学の教科書を、一通りつらつらと読まねばなりません。

3.未知または苦手な分野への挑戦、やっていきましょう

それとは別に、個人的な経験則で、見えている話があります。

あるジャンルに熟練する際に、

「ある程度ブレずにやれる」

と思える時が来ます。

そういう自己効力感と自信が得られた時に、もし余力と興味と、

「やってみようかな」

という気の迷いがあるなら、やって見て欲しいことがあります。

何か。

「未知の分野への挑戦」

ということです。

実はこれが後々大いに効いてきます。

4.未知の分野の開拓はもちろん芸の肥やしになる

理由の一つは、芸の肥やしということです。

後でこれが自分の今の仕事の知識や技能に活きてくるかもしれない。

そういうのを狙って、隣接分野をやってみると、実際にしばしば大きなプラスの化学反応があるものです。

隣接しているとは言い難い分野をやることもあります(私なんかしょっちゅうだ)。でもこれも、業態の異なる、より儲かるか安定してるか楽な仕事への転職に寄与することがたくさんあります。俺もプログラマのスキルが公僕で役に立つとは思っても見なかったのですが、効率が極端に上がり、仕事は楽になりましたね。このスキルがなかったら大変だったでしょう。

5.それとは別に、壁に直面してメゲて、それをどうにかする経験、大事ですよ

また別の理由もあります。こちらの方がむしろ大事かもしれません。

未知の(または、より進んで、苦手な)分野に挑戦すると、ふつう壁に直面してメゲることになります。

大事なのは、このメゲる気持ちを体験すること、そしてこのメゲる気持ちを、どうにか克服したりやり過ごしたりすることです。

***

まあ、もちろん嫌ですよ。何でアウェイの地で自ら好き好んで辱められねばならんのか。そのくらいは思います。

じゃあ、ナンデ?

6.熟練したらふつうは初心、特にメゲる気持ちは忘れるものである

熟練したらふつうは初心は忘れるものです。覚えていられる人は、「初心忘るるべからず」という、日常生活に鑑みてかなり強めの誓約を抱きながらやっているだけです。ふつうの人はそんな誓約を己に課してなんかいないでしょう。

そして、その初心の広義の一部には、正にこの

「メゲる気持ちや、克服する術や、やり過ごす心構え」

が含まれています。

7.メゲる気持ちは脱落の大きな要因であるし、それへのセンスを持たない教育の素人に指導されたら、脱落、待ったなしであろう

もちろん、メゲる気持ちは、初心者が脱落する、かなり大きな引き金です。ここは分かりやすいところでしょう。

そして、

「メゲた? なぜ? できて当然では? できるための手段を教える? メゲるだの、できないだの、そういう話自体、何ら理解できないが? (堂々と)」

という態度を示す教師は、当然ながら脱落を後押ししてしまいます。

***

そもそもまず、

「できない人をできるようにできない」

教師が、教師として求められている最大のニーズ、

「できない人をできるようにすること」

に鑑みて、まるで適性がないことは言うを俟たないでしょう。

「そんなリソースはないから、手のかかる生徒は見捨てるのが当然の実務である」?

学校のことは知らん世界だから知らんけど、職場での人材育成や事業承継でそれは通らんでしょう。

新人を雇うのは、どんな職場でも事業者でも、たいていそこそこ気合の要る選択でしょう。給料を払うという話だけでも、身銭を切る、という話です。できれば新人にはうまく働いてもらいたいし、あちこちヘマをやりそうな気配があったら、そこはその都度軌道修正させていく、という話はある程度避けられないでしょう。

「切り離したら楽」

という根性で切り離すこと自体、

「新人を雇う」

ということの重みが、頭から飛んでいるとしか思えない。

人材派遣会社で優秀な人材を雇って、相場からしたらはした金でこき使うというのでない限り(死ぬほどある。俺もそこの出身者だから分かる。あれは良くないですよ)、教育は当然のコストであり手間です。

***

それと、

「生徒がメゲることは教育上多々あることで、脱落のリスクがある以上、解決すべき問題である」

という問題意識がない教師に、メゲている生徒が果たして長時間つきあってられるのか、という話もあります。

言いたくないが、

「あっ! この先生、教育についてはズブの素人なんだ! きっとなんかトラブルがある度に、問題意識がないから、デタラメな教育しかしない手合いだぞ! このまま石の上に三年もいたら、三年間、プラス、故障からのリハビリで数年間棒に振るぞ! 人生の貴重な時間なのに! 逃げよう!」

と思われても、まーしょうがないんじゃないかな。

***

それに、たとえその分野で熟練していたとしても、教育ということに熟練している訳でない人が、教育の分野に別段詳しくないくせに偉そうな教師面をしていたら、まあ

「教育分野には詳しくないくせに、なんだか偉そうな教師面してんなあ」

と思われるの、かなり当たり前ですね。

そういう人、他のジャンルへの知識も畏敬もない。無知とナメた姿勢がある。そういう風に見られる。

もっと悪い時には、

「こいつは自分の得意分野に蛸壺のように籠って、他のジャンルや、別して教育ということが、面倒くさくておっかないから、きちんと勉強したくないんだ。そのくせいっちょかみはしたい。何だコイツ。カスのザコじゃん」

くらいには思われてしまうでしょうね。

そんなやつの教えを、他人様が時間をかけてまともに聞いてくれると思うか? ということなんですよね。

もちろん、知らないジャンルに知ったかぶりをしていっちょかみしないのは、物事をやる時のかなり重要な安全策です。知らないまま挑戦しなければならないことも多々ありますが、そういう時に知ったかぶりして、良いことはふつう何もありません。(知らないことでナメてくるやつらはいるでしょうし、知ったかぶりがハッタリとして一瞬だけ有効であることはあるでしょうが、そもそもそいつらはハッタリが効かなくなったら十倍ナメてくるので、そもそもそんなことは最初からすべきではありません)

特に、今回は、教育について知らなかろうが何だろうが、教導や引継のために、教育をしなければならない訳です。

じゃあ、他の分野に詳しくないくせに偉そうにしている教師の間抜けな面に、どうしてもなりがちです。

***

別に

「自分は教師だが、何も知らない」

という話をする必要はありません。

自分が生徒に知識や技能を教えることには変わりないからです。

そうではなく、単に、

「知識や技能以外のところで、自分が教育に失敗することはありうる」

ということを意識しておくべきだ、ということです。

そうすれば、問題発生時にあたかも

「我関せず。ナンノブマイビジネス」

と言わんばかりの、当然傍目からはクソ無責任な、キレられる元となる面をすることは、だいぶなくなるでしょう。

「問題が発生しており、困ったことではあるので、真剣に解決する意図がある」

という態度の方が、上よりはるかにまともな態度ですし、少なくとも生徒からもそう思ってもらいやすくなります。

***

後続に引継または後輩に教育を行う立場で、

「自分や目の前の相手のメゲる気持ちが分からない」

と、いかに業務が優秀でも、相手は潰れ、職場には害があり、人事からの自分への査定は下がる。

事業承継が目的なら、事業は潰れる。

そういうの論外なんだよな。

8.逆に、メゲる気持ちも、それをどうにかする術や心構えも持っている人は、そこでのドツボは避けられる

で、逆に、メゲる気持ちも、それをどうにかする術や心構えも持っている人は、そこでのドツボは避けられる訳です。

「あー、このまま壁に直撃すると血まみれのトマトみたいなあれになるよな。俺もなったなった。それで良かったことなど何もないんだよな。教育は万事ソフトランディングだ」

くらいの気構えはできるようになります。

***

「自分も壁に直面してメゲることがある」

「メゲると脱落のリスクが大きいから避けたい」

「そもそもメゲる時のパターンや予兆というものがあり、それが察知できたら、ドツボに入る前に何とかする」

「が、メゲるモードになってしまうことはしばしばあり、ある程度避けられない」

「そういう時には、土日完全に寝潰れるなり、回復最優先でゴリゴリに緊張した体をプロにもみほぐしてもらうなり、サウナと水風呂で自律神経を人為的に制御するなり、憂さが晴れるどころか暗雲が何もかも吹き飛ぶくらい美味しいごちそうを食べるなりしましょう」

という感覚が自分の中にあるかどうかというのは、メゲる可能性のある生徒への対処として、予防率と回復率において、圧倒的な違いがある。

そういうことを忘れないためにも、未知のジャンル、是非やっていきましょう。


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