背徳めんたいパスタの巻【うまい棒殲滅大作戦2】
自宅が駄菓子に襲撃された。
しかし助けてくれる仲間はいない。
ひとりで戦うしかない。
困った自分はまず孫子を召喚し、敵の布陣を把握したのだった。
さあ、今日からは戦闘開始だ!
胸ぐらを掴んではいけない
ガチンコの喧嘩といえばやはりこれだろうと脳内に思い流れるBGM。
だが、最初のワンフレーズを聞いた瞬間、曲は停止した。
ん?ちょっとおかしくないか?
胸ぐらを掴んだら強烈なパンチは打てないだろ。
物理的に考えて。
胸ぐらを掴むほどの至近距離では、攻撃力はビンタ程度に下がる。
「強烈なパンチ」と形容するほどの破壊力を求めるならば、腕を思いっきり振りきるために肩と腰を使って遠心力を加えるか、少し引いた間合いから踏み込みパンチに勢いを与える必要がある。
唯一の超至近距離から繰り出すことのできる破壊力の高い攻撃はアッパーカットのみだが、これは胸ぐらを掴みながら打てる技ではない。
疑問は雑念に変わり、思考回路はショート寸前である。
戦の前だというのに何をしているのだ自分は。雑念を振り切り、新たなBGMを探そうと思いつつ、握りしめたメモを見返す。
ギルドで情報収集
1人で討伐クエストに向かう前に、まずは街で一番大きなお料理ギルドで情報収集をする。当然、ここにはうまい棒討伐クエストに関する情報も満載だ。
数々の情報が並ぶ中、これならば自分でもできるだろうと思えるものを見つける。ふむふむ。これは多くの人が同じ討伐クエストをクリアしているようで、比較的クエスト難易度も低そうだ。
よし、これに決めた。
討伐対象は「うまい棒めんたい味2本」。
推奨攻撃アイテムは、スパゲッティとマヨネーズ、もみのり少々。
やり方は至って簡単だ。茹で上がったパスタに粉砕したうまい棒めんたい味2本とマヨネーズをかけてあえる。最後にのりを散らすだけ。
こんなの楽勝クエストだろう。
そう思って気楽な気持ちで戦いに挑んだ自分は、このすぐあとに胸ぐらを掴まれて軽いビンタを食らうとは思いもしなかった。
背徳めんたいパスタ
戦場に立ち、材料を見て手が止まる。
うまい棒2本にマヨネーズは塩分過多感がヤバいと警告音が脳内に鳴り響く。しょっぱかったらどうしよう。取り返しがつかない。その不安が自分を日和らせた。
まずは1本だけにしてみようかな…
後にこの判断が悲劇を生むとは思いもしなかった。
まずスパゲッティを茹でている間に、うまい棒めんたい味を粉砕する。
普段ならデリシャスステックを入手した後は、いかにスティックにダメージを与えず、本体を折ることなく自宅に持ち帰るかを重要ミッションとしてかばんの中に入れる際に細心の注意を図るのに、今回はその真逆である。
右手でうまい棒を持ち、恐る恐る力を加え、えいっと渾身の力で握る。ザクッと心地よい感触とともに罪悪感のようなものが胸の奥からふつふつと湧き上がる。
ザクッザクッザクッ。
最初は躊躇していた粉砕も二撃目、三撃目になると慣れて少しづつ平気になってくる。大きな口をあけて笑っているうまえもんの顔がひしゃげていく。それでも構わない。中途半端なサイズの破片が残らぬよう、一心不乱に握りつぶす。よく小説で見かける殺人犯の手が血で染まる感覚というのはこういうことを言うのだろうか。
準備はできた。
勇気を振り絞り、茹で上がったパスタにうまい棒の粉を振りかける。
パッと見た感じは、からすみパスタのようにも見える。とても美味しそうだ。
しかしここからが本番だ。罪悪感ですでに汚れてしまった自分に追い打ちをかけるように背徳感という黒いドロドロしたものが心を侵食する。
震える右手を左手で抑え、両手でギュッとそれを握りしめる。
ジャンクフード指数なるものがあれば、このマヨの一撃の数値は相当なものだろう。きっとほとんどのものをジャンク化させることができる。
軽く混ぜあわせて、パスタを1本とって味見をする。
あれ?ほぼ味がしない?
そう、ここでうまい棒を1本にしてしまったあの判断が間違いだったと気づく。
全然めんたい味ではない。
急がねばならない。
パスタが冷める前に。
パスタがくっついてしまう前に。
急いで追加のうまい棒1本を粉砕し、投下しなくてはならない。
さながら友を想い走り続けたメロスの気分だ。
時間内にセリヌンティウスのもとにたどり着いてもどうなるか結果はわかっている。だがしかし私は急ぎ走り続けなければならない。
急ぎ追加のデリシャスフレークをふりかけて混ぜる。あまりの余裕のなさに写真を撮影することすらできなかった。
そうして、背徳めんたいパスタは錬成された。
皿の中で急いで混ぜたので見た目がちょっとアレな感じなのはご容赦いただきたい。さぁ、実食だ。
めんたいパスタのターン
初級クエストの敵は、明太パスタというよりは、たらこパスタのような淡い色をしているが材料は明確であり味の想像は容易につく。
さあ、食してみようではないか。
油分少なめではあるが、パスタをフォークで巻き取り口に運ぶ。
しかし口に入れた瞬間のあの衝撃は、今も忘れることはできない。
う、嘘だろ。
明太子の味なんて微塵もない。
とうもろこしの味がする・・・
ナナメ上すぎる想定外の味に震えは止まらない。
めんたい味だったり、しょっぱかったり、おいしくないくらいは覚悟していた。
だがまさかとうもろこし味になるとは思いもしなかった。
しかしクエスト続行のために、もぐもぐと食べ進めながらこの不思議な事態を考える。そうして、はっと気付いた。
そうか!
主成分、とうもろこしだ!!
まさか粉砕したあとに先祖返りするとは。
結論
そうわかった時には、自分の手はうまい棒でベタベタに染まっていた。
ーめんたい味2本 討伐完了!ー
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