『時をかける少女』雑感
『時かけ』は、気になる作品だ。
今回取り上げるのは、1983年の角川映画(実写)。
薄気味悪いシーンが結構あって、ダークファンタジーのような雰囲気である。
タイムリープがテーマだが、物理学・工学的な話より、植物学・薬学的な話題が盛り込まれているのが特色。
匂いがモチーフになっているのも、SFとしては珍しいかもしれない。
そして、ラベンダーの匂いと醤油の匂いが対比されていて、三角関係を象徴している。
だが実は、四角関係という可能性がある。
神谷さんは、どうやら堀川くん(吾朗ちゃん)が気になるらしい。
あと興味深いのは、手の傷のエピソードについての記憶が間違っていたと気づいても、和子が深町を選んだところだ。
真の記憶が甦って堀川のほうに気持ちが向くというパターンが定石かと思われるが、そうはならない。
むしろ深町の存在が記憶から消された後も、その痕跡が和子の人生に影響している。
イデア論的な世界観と言えよう。
それはまた、作中にヒッチコックの『めまい』へのオマージュが見られるように、ピグマリオン的な呪縛でもある。
しかし、主人公の女性が大学に残り(おそらく大学院進学)、化粧っ気も生気もなくして薬学研究(深町の専門分野)の日々を送るというのは、なんだか不思議な終わり方だ。
結局、未来人との過去に縛られた「時の亡者」になってしまったのだ。
エンディングでは、和子が歌いながら全編の各シーンを楽しげに旅する(NGシーンらしきカットも)。
エンドロールが左右に行き来するのも面白い。
このエンディングが、ある種の救いになっている。
最後は和子の笑顔で締めくくられ、原田知世の愛らしさが観客の記憶に焼きつけられるというわけだ。
写真は、ロケ地の尾道市。