著…遠藤周作『海と毒薬』
もうすぐ死ぬことが決まっている命なら、死なせても良いのか?
人間とは何なのか?
といった様々な問いを一気に投げかけてくる小説。
テーマがテーマだけに、グロテスクで残酷な描写が多いですが、深く考えさせられます。
この小説の題材となったのは、戦争末期の日本で実際に行われた、アメリカ人捕虜に対する生体解剖事件。
この作品において、生体解剖を行った登場人物たちは、自分たちの行為は戦争医学や外科医療の向上の為になると思い込もうとしているのですが…、心の奥底では自分の心の麻痺や矛盾に気づいているという心理も描かれています。
本来であれば人の命を救う立場にある医師たち・看護婦たち(この時代は「看護師」ではないのでこの表記を使います)がなぜこんなことをするに至ったか?
人間として足を踏み入れてはならない禁忌の領域ではなかったのか?
また、解剖後の彼らはどうなったのか?
といったことを描く切り口が、まるでよく研いだ刃物のように鋭いので、読んでいると心がヒリヒリしてきます。
わたしはこの小説を読みながら、人体実験は勿論のこと、死刑制度や尊厳死の是非についても、自分自身に問いかけてみたのですが、全く結論が出ませんでした。
もし自分ならこの解剖に参加したか?
また、もしもいつか自分が誰かを殺す側に立った時、踏みとどまれるか?
といったことも考えさせられます。
ちっとも答えは出てきませんが…。
もしかしたら、答えを出してはいけない問いなのかもしれませんね…。
〈こういう方におすすめ〉
命とは? 人間とは? という問いについてじっくり考えたい方。
〈読書所要時間の目安〉
5時間くらい。
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