人生それ自体が詩 ~ 「イル・ポスティーノ(Il Postino)」 (イタリア映画)
「詩」のチカラ
「詩」がとても大きな力を持つことがあります。
自分がしたためた文章を手紙に載せて送るという行為は、言葉よりはるかに多くの事を伝えられることがあります。
なぜならば、その文章には「自分自身の想い」が詰まっているから。
さらに、その中に「メタファー」「隠喩」を持ち込むことで、その詩は突然、個性的な強さを持ち輝き始めます。
その手紙の差出人と受取人の間にいるのが、「郵便配達員」(この映画のタイトル:イル・ポスティーノ(英語でザ・ポストマン))。
この映画は、差出人の想いが込められた手紙を受け渡す仲介者、郵便配達員(ポストマン)が主人公の映画です。
ストーリー
物語は、南米チリからノーベル賞詩人パブロ・ネルーダがイタリア南部に亡命してくるところから始まります。
この詩人に憧れたイタリア人の主人公は、漁師から職を転じ郵便配達員となります。
詩人ネルーダへ手紙を届ける専属の郵便配達員です。
ここから、日々、彼との語らいが始まりました。繰り返される何気ない会話の中から、郵便配達員は「詩」とは何かを学んでいきます。
言葉ではうまく伝えられない思い。
それを、いつか出会う誰かに届ける日のために。彼は思いを手紙にしたため始めました。そして、彼の「詩」の能力は飛躍的に成長していきます。
こんなやり取りが映画の中で紡がれていきます。
Q、「詩人になるにはどうしたらいいんだい?」
A、「周りの風景をしっかりと見ながら、あの入り江に向かって、歩いてみなさい」
この会話でネルーダは、隠喩という技巧を伝えたわけです。
そのまま何も考えずに、詩人の真似をしたのでは何も生まれない。詩人ネルーダは同じ状況の中で即興で詩を作り披露し、彼を動かしていきます。
いつのまにか、ネルーダと彼の間に疑似的な師弟関係が生まれ、
いつのまにか、彼は詩人としての人生を歩んでいくことになります。
それは、目的を持たず人生をさまよっていた彼が、自分自身の意思で人生を紡ぎ始める過程でもありました。
やがて
やがて、ネルーダはやがて故郷へと去っていきます。
詩人となった郵便配達員は、故郷へと去った師匠へと「詩」を贈ることを思いつきます。
その「詩」は、文字によるものではありませんでした。
それは、シチリアに流れる自然の音を集めたものでした。
彼が育った場所であり、師であるネルーダと過ごした場所であり、最愛の人との日常を過ごした街でもある、シチリアの自然の音。
海の波の音、風にそよぐ木の音、教会の鐘の音、そして息子の心臓の鼓動の音。
彼は、それらを録音していきます。
結果的に、これが彼の人生最後となる「詩」になります。
この「詩」は、彼を取り巻く日常そのものでした。
この最後の「詩」は、どのように詩人に届いたのか。
その結末や師弟関係の美しいやりとりについては映画本編をご覧ください。
とても美しい映画です。