80-90年代を駆け抜けていったバンドシリーズ「U2」
彼の地の音
ケルト音楽やアイルランドの音というとすぐに思い出せるような音があると思います。
ジャガイモ飢饉や圧政などの影響で、この地の民族は米国などに移住を開始します。当時は航空網が無いですから、すべて航海、、海路での移住だったわけです。。
有名なところでは、タイタニックも行先はアメリカで、移民がたくさん乗船していたと思われますし、船上で奏でられた音楽はまさにアイリッシュでした。
また、ディズニーランドのビッグサンダーマウンテンや、西部劇やこの時代が舞台の映画に流れれる音楽(バックトゥザフューチャーpart3とか、ヤングガンとか)も、アイリッシュ・ケルト音楽ですね。
こんな感じで民族の移動とともに音楽(文化)もまた移動していき、根付いていくんですね。
これがロックンロールになる流れも以前まとめております。
ケルト音楽の取り入れ方
アイルランド出身のバンドU2。実は彼らの音楽の根底には、音というよりも魂としてのトラッドが流れているような気がします。実は、ずばりケルト音楽、、を取り入れているわけではないのですよね。一部にはありますが。。ほんの一部。
Tomorrow
たとえば、ハードロック界隈では有名なアイルランドのバンドThin Lizzyやゲイリー・ムーアは、早い段階で、祖国の音楽と魂のルーツへの回帰を果たしています。(Thin Lizzyは初期のころからですね)。
この2つのアーチストについては、後日きちんとまとめようと思いますが、彼らはケルト音楽の伝統をハードロックに取り入れていくことで、逆に音楽の方向性を広げていきました。たぶん、ファンも多く獲得したと思います。個人的には、彼らのアイリッシュ路線の方が好きです。
では、U2は、どういう音楽的変遷をたどったのか、、それを見てみます。
祖国の魂
当時、あっという間にすたれたパンクを尻目に、ニューウェーブが大流行(A-haみたいな)。キーボードを大胆に取り入れた、ややもすれば近未来の音に聞こえなくもないような、そんな音が広がっていました。
英国から沸き起こったこのムーブメントは、米国に流入し、米国のソウルミュージックからのダンスミュージックと融合するなどして、米国でもブームに。これが第2次ブリティッシュインベイジョンとなります(第1次はビートルズ)
デビュー当時のU2も音楽的にはこの影響をかなり受けています。
I Will Follow
Gloria
特筆すべきは、楽曲のテーマですね。
祖国の事、やや政治的な分野にも足を突っ込んだ楽曲が多いのが初期の特徴でしょうか。
血の日曜日事件を扱ったSunday Bloody Sundayなど。。
こんな風に、楽曲に祖国の政治的状況を盛り込み、自分たちの姿勢を明らかにすることで、祖国への想いを純化させていっていました。
この祖国への想いが、米国への、、つまりは、ロックンロールのルーツへの想いへと変換されていくのですが、これは、バンドエイドなど全世界的なフェスの影響だったのかもしれません。
全世界へのロックの、音楽の影響力を目の当たりにして、そもそものロックのルーツに関心が向いたのかもしれないですね。
では、そのルーツ回帰について、、、
魂の叫び~ルーツ回帰
ロックンロールのルーツ回帰は、エリック・クラプトンのレイラや、ストーンズら英国のミュージシャンには顕著に見られます。ポール・マッカートニーも40年代~60年代のオールディーズのアルバムを何枚か発表しています。
ロックンロールは「ブラックミュージック」「ケルトミュージック」の融合ですので、英国人、ロックのもう一方のルーツの当事者が、もう一方のルーツを辿っていく旅にでているわけです。
アイルランド(グレートブリテンも含む地域)出身のU2にとっても、80年代後半という時期は、ロックのルーツへの回帰の時期でした。
人生において、振り返りの時期は必要なのですね。とくに、がむしゃらに突き進む傾向がある場合、ちょっと立ち止まってみたり、本来の自分のやりたかったこと、まさに自分の存在のルーツを辿ってみることで、さらに大きな一歩を踏み出せることもあると思います。
彼らにとっても、そういう時期だったのでしょう。
「Unforgettable Fire(焔)」というアルバムでキング牧師の事を歌詞に取り入れた(楽曲「MLk」)ことを発端にして、
ロックンロールのもう一つのルーツである、「ブラックミュージック」および「ブルーズ」「ゴスペル」への接近を図ります。
その発露が「ヨシュアトゥリー」というアルバムです。過去、ここからの楽曲をいくつか紹介しておりますが、アメリカでの宗教観などが反映されています。
THE JOSHUA TREE
そして、その活動の中から「Rattle and Hum(魂の叫び)」というライブ&ミニアルバムが発表されます。
Rattle & Hum
一部楽曲は、ブルース発祥の地メンフィスのサン・スタジオ(エルヴィスが伝説的な録音を行った場所)でレコーディングされています!まさにルーツ。
ここで興味深いのは、「Van Diemen's Land」という楽曲の存在です。これは豪州タスマニアの旧名で、元は英国(グレートブリテン)の植民地。英国が行きついたアメリカと、もう一方の南洋の諸国にも思いをはせているんですね。
そして米国へのルーツ回帰を果たした彼らが次に向かった先は、、、、欧州発の70年代ニューウェーブが進化していった先にあった音の世界でした。
デジタル・モダンな音への実験的展開
Achtung Baby
彼らは装飾をできるだけそぎ落とした米国ルーツの音楽から一転、デジタルテクノロジーをふんだんに活用した音の装飾に彩られたアルバムを発表しました。
このアルバム「アクトンベイビー」はいきなり、効果音を使ったくぐもった声のボーカルから始まるなど実験色が強く。。。
一部拒否反応もあったようですね。。。
Zoo Station
Even Better Than Real Thing
などなど、、、80年代から見た近未来は当時のニューウェーブの音に顕著でしたが、その進化形であるデジタルでモダンな装飾過多の音は90年代から見た新たな近未来を想起させます。
想えば、90年代にはこういった音の使い方や、画像の切り貼りなどがカルチャーとして広がっていましたね。。映画だと「Seven」や「ストレンジデイズ」などにこの雰囲気がありましたし、「羊たちの沈黙」などもそういえるかもしれません。
✳︎ストレンジデイズのジュリエット・ルイス。なんという90年代の音!
ただ、一方で「One 」「Ultra Violet」などの様な、彼ら本来の持ち味である渋い楽曲も収められていて、旧来のファンも大いに楽しめるアルバムではなかったでしょうか。
さらに深化
この後、彼らはこの近未来、現代のニューウェーブ(デジタルミュージック)路線を突き詰め、なんと、現代テクノロジー×70年代ディスコという音のアルバムを発表。
Discotheque
この頃は、着ている服も近未来、音もステージも近未来と、、かなり前衛的な活動をしていたので、さすがに、個人的にもちょっと聞くのをやめていた時期でもあります。(後から聞いてみると、独特のメロディラインは変わらないので、良い作品とは思いますが。。。。)
Zooropa
Baby Face この曲は見過ごされがちなZooropaアルバムの中のキャッチーな名曲。昔懐かしい感じ。
そして、なんとなく遠い方向に行ってしまったな。。。。と思っていた頃、、、、2000年を迎えようかというときに、なんと彼らは原点回帰をするんですね。
80年代の10年間への原点回帰
これは、80年代の10年間への原点回帰です。祖国への想い、米国ルーツを包括してバンドの生のサウンドを重視した、本来(勝手にこちらが思っているイメージですが)の彼らの姿を取り戻したように思えます。
All That You Can't Leave Behind
タイトルは、捨て去ることができないものたち、、という意味合いで、まさに原点回帰。
いわゆる振り子の法則というのがあり、流行り廃りは一方に振り切れたらまた元の場所にもどり、それが繰り返えされるというもの。
ファッションに顕著ですし、広く、アートやカルチャーにも当てはまります。2000年代のロックバンドからはブラックサバスや、レッドツェッペリン臭が漂っていたように。
U2も、かなり前衛、アバンギャルドに振り切れましたから、回帰のタイミングだったんでしょう。
Walk on
Stuck in a Moment
そして伝説へ
これ以降は、原点を踏襲しながらも、多角的な解釈をした作品が続いています。
City of Building Light
Invisible
もはや、存在が伝説、楽曲の雰囲気がU2スタンダードになっています。
今のボンジョヴィもそうですね。曲の良し悪しよりも、もはや、ボンジョヴィの音が確立されてます。
こんな風に、音が確立されると、意外に抽象度が上がって、どこから切りとっても、広い意味でのロックとしか言いようのない音になるのが面白いですね。
U2がこの高みに登ることができたのは90年代の実験的展開があったためかも知れません。
Moment of Surrender
という事で、最後に彼らを象徴するこの曲を。
Running to Stand Still
直訳で、立ち止まるために走る。
安息の地を求めてあくせくと動いてきた、今はその地にようやくたどり着いた。。
ヨシュアトゥリー収録のこの曲。まさに人生哲学にも通じていますね。
では次回は、また違うアーチストを取り上げます。ご期待ください!
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