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短編小説などをまとめています。
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記事一覧

短編小説 いにしえの盃 2,227文字

短編小説 いにしえの盃 2,227文字

 

「まあ、わかってたけどね俺が肩叩かれるって」

「うーんノーコメント! ひでぇもんだな!とりあえずおつかれ 乾杯」

50代後半のサラリーマン男性二人組が繁華街ガード下で酒を酌み交わしていた。

金曜の夜、花金の時間帯で昔ながらの大衆居酒屋店は通常通り賑わい、ビールジョッキーと黒いエプロンとハチマキをつけた店員が交互に行ったり来たりしていた。

男性は、もう一人の男性同僚とビールや揚げ物、枝

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【NOTE 創作大賞2024 オールカテゴリ部門】 メヌエット2015 5,588文字

【NOTE 創作大賞2024 オールカテゴリ部門】 メヌエット2015 5,588文字

メヌエット2015

いつも笑顔の彼は無傷に見えた。少なくともわたしには。

この歳にしていままで何か壮絶な内容の過去を背負っているようにも見えなくて。
それがわたしにとって何だか彼がひどく"浅く"見えた。

しかしながらやはりこのような世の中で生きてきて無傷なわけがなかった。

彼もまた一つの"諦め”を背負っていたもののひとりだったのだった。

公園の数メートルかはあろう電子蛍光灯が電池切れを起

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短編小説 荒野を駆ける 1,789文字 ご協力…しょう様

短編小説 荒野を駆ける 1,789文字 ご協力…しょう様

荒野を駆ける

 大男のハイキックが拓人の左腕に入ると

プチプチと靭帯が切れる音がした。

相手の顔面にパンチを入れようとちょうど伸ばし切っていた左肘。
パンチは相手が真下に潜り抜けて大きく空振りした形になった。
そこに奴が避けた真横から直角に蹴りを入れられたのでもろにダメージを喰らった形になる。
一拍置いて猛烈な痛みが襲ってきたので自分は靭帯損傷、そして骨折したのだと拓人は理解した。
ひどく嘔

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【note創作大賞2024オールカテゴリ部門】 眠らない男 短編小説 5653文字

【note創作大賞2024オールカテゴリ部門】 眠らない男 短編小説 5653文字

 ぐうぐう 轟々といびきをたてて眠る男の口は大きく開いて、小ぶりな優子の握り拳ぐらいなら入りそうだった。

男は白目をむいて瞼をぴくぴくとさせ、コメディアンのような古典的なポーズをとってベッドの上に転がって胸板を上下させている。
ホテル備え付けの浴衣がはだけて汗の浮いた胸板がはだけているのが見えた。
時折、ガッと窒息しそうに喉で呼吸をとめるのだが眠りから覚める気配はない。

未明まで激しく抱き合っ

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【note創作大賞2024 オールカテゴリ部門】ラストメイク 短編小説7,182文字

【note創作大賞2024 オールカテゴリ部門】ラストメイク 短編小説7,182文字

同僚の三原 利彦が亡くなったと同じ部署の同僚である山沢から電話で知らせを受けて俺は自宅のデスクの上でメモを取る仕草をした。

仲間の突然の死。

昨日社内でみかけないとは思ってた。
心音が高鳴り、血液が冷めていくのが肌でわかる。
それでもどこか昨日帰るときに総務課が騒がしかったのはこのせいか、と。さめたそんな自分がいることが心底嫌になった。
山沢に知らせてくれた礼をいいスマートフォンを切ると少しだ

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短編小説 サンドイッチ 1753文字

短編小説 サンドイッチ 1753文字

恭一はきゅうりとハムとバターの挟まれたバゲットを一口齧ると空を仰いだ。
河の見える10階建てのマンションの自室のベランダで朝ごはんを食べているところだった。
バゲットはアルミホイルに包まれ、コンクリ製の床には缶コーヒーが置かれてある。
厚手の黒いベンチコートを羽織って三月の朝日と微風を浴びながら無心になる至福のひとときだ。

いつもと変わらない日々。
それでいい。
それがいい。

きっと。

筋雲

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desty5 BL R15長編小説 3487文字

desty5 BL R15長編小説 3487文字

desty5長襦袢

甘楽呉服の新社長、甘楽将鬼を路田旅館に迎える日がやってきた。

部屋の修繕工事を終えた業者に佑磨は頭を下げて見送る。
路田旅館 一階と二階の半露天風呂の大浴場にまだ修理が終わっていない箇所があったため、
そこを修理業者に依頼していたのだ。

一階と二階の半露天風呂は一つの長方体の形をしたユニットのような作りのようになっており、本館からは細い渡り廊下を渡って入口まで進むように作

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【note創作大賞2024 オールカテゴリ部門】 短編小説 プレーンリンス 2,942文字

【note創作大賞2024 オールカテゴリ部門】 短編小説 プレーンリンス 2,942文字

ープレーンリンスー

お湯で丁寧に頭皮を洗うだけで頭皮汚れの七割は取れます。
予洗が大切なのです。
そのあと二回に分けてシャンプー剤を用いて毛先から泡立てて本洗してゆきます
泡立ては二分くらいは必要でしょうか
ゆすぎは洗いよりも時間をかけて慎重にしましょう。後頭部をカッピングしながらお客様に痒いところはないか尋ねながら慎重に行います。

侘田は何度も洗った。講習で同僚や先輩を用いて相モデルで練習し

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【短編小説】 愛と勇気と自閉症のテーマ 3871文字

【短編小説】 愛と勇気と自閉症のテーマ 3871文字

じーへいじょうーだーけれどもー いーきていくー
らーんららららー
いってきまーす
たたたた

瑠璃はゲルネイルのエッジにカラーコンタクトを一枚上向きに乗せた。
長さだし部分1cmはあろうネイルなので手加減を誤ったら眼球に突き刺さるだろう。
まあこちとら何年もギャルを伊達にやっていないのでそんな凡ミスはしないが。
自らの黒目部分にアッシュグレーのそれが溶け込んでゆくと、瑠璃は確信した。
「今日は最高

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【長編小説】desty4 BL R-15 8478文字

【長編小説】desty4 BL R-15 8478文字

※注意事項※
ここから先はなんでも許せる方向けです。
リバ、輪姦、近親相姦などその他の描写がでてきます。
苦手な方はご退出をお願いします。

〜人形、身八つ口II〜

夏樹は初夏の朝四時、旅館の客室で使用しているものと同じ二つくっつけた敷布団から上半身を起こした。

辺りは漆の格子で嵌めてある障子から東の光が差し、ほのかに白い。

藤色した縁取りの畳には脱ぎっぱなしの浴衣が踊るように飛んでいる。

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desty3 長編小説 BL R15 9511文字 

desty3 長編小説 BL R15 9511文字 

ー desty 人形、身八つ口ー

『父さん、もうすぐで回診の時間だよ』

佑磨はシワの深いネルシャツをベット柵に巻き付けるようにして、
父、佑吾の閉じた瞼に話しかけた。

電動ベッドのリモコンを探して、リクライニング機能ボタンを押す。

ナースステーションのモニターと連動した心電図が一際高い電子音を立てて目覚めを知らせる。

自由に触ることもままならない顔をぐしゃぐしゃに動かした後、
佑吾は佑磨

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desty2 長編小説 R15 BL 9431文字

desty2 長編小説 R15 BL 9431文字

destyー薄紅のきみIIー

海辺に近いと沖に向かうカモメが朝を知らせてくれる。

路田旅館の五階にある特等室、胡蝶蘭の窓はブラインドと厚手のカーテンを締め切ったままだ。

それでも何処からか初夏の朝日が隙間から入り込んで絨毯にボーダー柄を作る。

夏樹の肌とシーツは真昼の日差しを浴びるミルクで出来た真珠の様に俺の肌を一晩中溶かしこんでいた。

事後は口付けあっていつの間にか深く眠っていた様で、

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desty 長編小説 R15 BL 5290文字

desty 長編小説 R15 BL 5290文字

desty
ー薄紅のきみー

あらすじ

関東の温泉街のはずれにかつて九代に渡り栄えた老舗の温泉旅館があった。
しかし十代目当主に当たる若い男が先代を亡くし旅館を廃業させてしまった。
それから偶然の出会いを重ね見知らぬ男たち同士が集まり
起死回生を図り旅館を一流の男婦旅館として復活させるまでのストーリーをえがく。

登場人物紹介

路田佑磨 
路田旅館十代目当主。260年続いた旅館を自分の代で閉業

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短編小説 一歩一歩 1261文字

短編小説 一歩一歩 1261文字

ー自分で歩めなくなったらお前の所へ行く覚悟はできているからなー

そう慈夫は今朝も呪文のように自分に念押しして目覚める。
仏花の水を取り替え、仏壇に線香をあげる。数年前亡くなった妻のものだ。
それらが終わると、慈夫は身支度を始めた。

午前中、慈夫が到着したのは人通りの多い市道だった。
遠くに車通りの激しい通りもある。
慈夫の手元にあるのは安全性の基準を満たしたことを証明する緑のマーク。
それがつ

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