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desty5 BL R15長編小説 3487文字

desty5長襦袢




甘楽呉服の新社長、甘楽将鬼を路田旅館に迎える日がやってきた。



部屋の修繕工事を終えた業者に佑磨は頭を下げて見送る。
路田旅館 一階と二階の半露天風呂の大浴場にまだ修理が終わっていない箇所があったため、
そこを修理業者に依頼していたのだ。

一階と二階の半露天風呂は一つの長方体の形をしたユニットのような作りのようになっており、本館からは細い渡り廊下を渡って入口まで進むように作ってある。
一階と二階の露天風呂はそれぞれ中の階段で行き来することができる。



修理業者以外にも、今日は準備のためにある人物の到着を路田旅館のキャスト五名は待っていた。

「ね。燿一さんに依頼したSPのひと達ってもうすぐ到着するはずだよな」

ジャンボコームを持った夏樹が佑磨に尋ねた。
夏樹の長い髪は昨晩染め直されたばかりでお手入れバッチリだ。

「ああ。今日は代表して二名の方が見えるそうだ。
基本はこの旅館のSPはその二名が担当してくれるそうだよ 燿やんいわく」

「今度改まって燿一さんにお礼をしなきゃね うちでプレオープン期間中に接待するのはどう」

「この間相場より多めに依頼料を払ったのと、
接待は将鬼さんにするみたいのだとまずい。
やつは男はいけるクチではないからな」

普通に客として宴会に招くのはいいんじゃないの、と佑磨は夏樹に返す。

夏樹は納得したようで旅館の廊下に立ったまま片肘で頬杖をつくポーズをとった。
左手に大きな櫛を握ったままである。


「なんだぁ。燿一さんはこちら側の人間ではないのかぁ」

ざぁんねんと夏樹はオーバーアクションをしてみせると他の四人は気まずそうに黙った。
五人は路田旅館の自販機の近いロビーで警備を担当してくれるという二名の男性を待った。

しばらくすると約束の時間通りに旅館の門の方のインターホンが鳴った。

佑磨は旅館の玄関から来訪者にこちらへ入るように指示を出した。
他の四人もロビーのソファーからそれぞれ立ち上がり、玄関へ集まる。


「失礼します ギャラリー"みぞれ"から紹介された警護のものです」


そういって旅館の玄関の引き戸を開けて入ってきたのは二人とも185を越える長身の男性だった。
筋肉質で引き締まっており、まだぱっと見若い年ごろだ。
二人とも非常に張り詰めた雰囲気をしており、いかにも俊敏に動きそうであった。
燿一の話だと、ふたりともプライベートでは格闘技をやっているのだとか。
なんでも地元の警備会社に勤めていて、転職しようか悩んでいるところに、この話が燿一から舞い込んで来たそう。

「どうぞ中へお入りください」



まだ若い警護役の二人を五人は旅館の二階の事務室へ通す。
いささか窮屈さを感じる事務室の中で、佑磨は旅館のことを夏樹と一緒になって二人に説明した。


二人はどうやら燿一から娼夫旅館という趣旨を聞いていたようで、さしておどろいた様子はなかった。
佑磨は旅館のフォーマットファイルを開きながら淡々と夏樹と説明していたが。
燿一は内心路田旅館の新サービスに対してどん引きしなかったろうかとつい余計なことを考えた。

佑磨はそんなことを考えたりしながらも、二人に当館は御覧の通り高級旅館であることや
身体を売ったりすることがあるため、厳重な警備を二人に依頼した。


少しだけ背丈の高い男の方、髪型は金髪のベリーショートの男ー岸 達海ーが一連の話を聞き、うなずいた。

「旅館の全体の構造を理解しておく必要がありますね あとで案内をお願いします
それと入館者全員を荷物とボディチェックする必要があります
それとその………サービス自体………最中の時も何かあってからでは遅いので念のため立ち会わせてください
多いんですよこのごろ高級風俗店などでも乱痴気騒ぎが………。」

「あとは旅館の外の警備などは"みぞれ"から交代で俺たち以外のSPも交代で警護に着きます
基本こちらの五名の方に対して身辺警護として僕達二人がつくことになります」

少しだけ背の低いドレッドヘアーの男ー三下 謙也ーがそれに続いて答えた。
二人ともまだ若いのにとてもハキハキとしゃべるが内容が内容だけに佑磨は少しだけ苦笑いをした。


勇はマジかよ、と匠の方を見たが匠は落ち着いて答えた。

「当然さ。やってる最中に寝首をかかれたら元も子もないからね」


「それは………そうなのか………」


行為を見られることに抵抗があるけれど俺が平和ボケしているだけなんだな、
とむりやり自身にいい聞かせている勇に対して皆でなだめる様に笑い、二人の契約書にサインをする。
それからSPの二人に対して旅館の中を五人で巡回して案内した。


そうこうしているいちにロビーの古時計が14時を指す。

「将鬼さんがいらっしゃるのって何時だっけ」

「19時!」

「げえ いっぱいやることある 間に合うかな」

夏樹が感嘆すると佑磨はフォーマットファイルと時計と手元のメモ帳を交互に見て指示を出した。

「兄さん悪いけど玄関やロビーのあたり片付けておいてくれその後シャワーとメイク入れる状態だから
俺は客室と大浴場をお迎えできるかもう一回チェックする
匠は撮影スペースの調整を
勇は買い出し終わってるから調理に入ってくれ
夏樹は引き続き演奏のチェックな」


指示を聞いて全員が「飲んだ」と返事をした。


これはこの旅館の用語で「承知した」
という意味でつかわれる。
夏樹いわくこのような従業員の用語はこれから旅館のフォーマットファイルにたくさん増えるそうだ。


勇はローディ時代までは実は調理師をやっていた。
しばらく旅館専属のシェフが見つかるまでは、勇に調理を担当してもらうことになった。
勇は数日前からコース料理の準備をしていたようで、包丁も研いでいたようだった。
一階の宴会場から出入り出来る離れの調理場へ向かい、懐石料理の続きを始めた。


そして甘楽将鬼は約束の時間に路田旅館の駐車場に黒塗りのセダンで現れた。
運転手とSPを連れて来ていたようで、四人で路田旅館の門のインターホンを押す。


旅館の近くの通行人二人組がそれを見て噂した。


「甘楽呉服の社長さんだわ。
なんでも東京の六本木の方にあるタワーマンションをこの間買い取ったって噂があるわよ
商品の着物は海外からの買い付けも多いとか
まだ若いのに相当儲かってるのね」



インターホンを聞いた佑磨が対応し、門の外まで迎えに来た。



佑磨は女性が着るような黄緑色の薄物の着物を襦袢の上に着て紺色の兵児帯を締めていた。

そして今日は眼鏡をかけていなくうっすらと化粧をしていた。
セイムレングスの黒髪もジェルでセットしたため艶が目立つ。


「新サービスdestyへお越しいただき誠にありがとうございます」


「この間の路田旅館の十代目の子だよね?瞬誰だか分らなかったよ
とてもきれいだ」

「将鬼さんが贈ってくださった着物、どれも素敵で迷いました さあどうぞ」

旅館の門の中へ案内された将鬼は今日は黒地の浴衣を着ている。
帯が赤と金の混じったストライプ模様になっており、華やかさを添えていた。
今日は夜だけれどフレームが華奢な金色をしたサングラスをかけていてそれを撫でるようにそっとはずした。


旅館のエントランスに入るとSP役二人の入念な荷物検査とボディチェックが行われた。
しかし無論何事もなくそれらは通過した。
旅館の玄関先にもギャラリー"みぞれ"から派遣されたSPが交代で見張り役で付いている。

ロビーへ進むと夏樹と勇以外の二人がソファーに机と椅子を出して待っていた。
まずはシステム説明からこの新サービスは始まる。
佑斗はベージュのストライプの浴衣に藍色の角帯、佑磨と同じくコンタクトをしており
匠は紺色の無地の薄物にベージュの兵児帯をして将鬼を迎えていた。

旅館の帳簿に将鬼の名前を万年筆で書いてもらい、佑磨が新サービスについて説明を開始する。

説明は15分程かけて行われたが、要約すると
この旅館は基本的に男性のみ利用可能であること、
この宿のことを口コミ以外で口外してはならないこと(SNSなどで拡散した場合罰則あり)、
料金は部屋の宿泊料、特室料、指名料、イベント費、チップ、
その他で決まること

などが説明用のパンフレットに記載されてあった。

書類の同意事項にチェックとサインをした将鬼は「タイムスケジュール」という書類が目に留まった。

「ご署名ありがとうございます これで新サービスを受ける下準備は出来ました
次にサービスの流れ、タイムスケジュールのご案内です」

チェックアウトの時間から逆算されたタイムスケジュール表を渡された将鬼は顔がほころんだ。
翌日15時のチェックアウトまでに項目がぎっしりと書いてあったからだ。
間もなく19:30分からは宴会場にて宴会が始まるところだ。





つづく

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