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【長編小説】desty4 BL R-15 8478文字

※注意事項※
ここから先はなんでも許せる方向けです。
リバ、輪姦、近親相姦などその他の描写がでてきます。
苦手な方はご退出をお願いします。







〜人形、身八つ口II〜

夏樹は初夏の朝四時、旅館の客室で使用しているものと同じ二つくっつけた敷布団から上半身を起こした。

辺りは漆の格子で嵌めてある障子から東の光が差し、ほのかに白い。

藤色した縁取りの畳には脱ぎっぱなしの浴衣が踊るように飛んでいる。

二着。網目模様の帯も絡まるように畳に、また掛け布団にも飛んでいる。

この浴衣は旅館の客人の為の浴衣である。決して情欲を貪り合う経営者二人のプライベートなガウンではない。

昨晩、佑磨の兄の佑斗の突然の帰郷があった。
対応に追われたが和解し、新しい旅館で共に働くと言う事で話が落ち着いた。

佑斗の部屋を別の階に作り、少し話をして佑磨と佑斗は大浴場へ寄ってからいつもの寝室へと向かった。

コンポーザーの地崎夏樹は半裸の身体を掛け布団から覗かせると、先程まで抱き合っていた佑磨の頬に手を添えた。

佑磨は右半身を下にしてうずくまるようにシーツと夏樹の元で眠っていた。
夏がすぐそこまで来ていることを忘れる淑やかな肌。

ー恋人の寝顔は安心感と安らぎを与えてくれる。
だけど、佑磨さんは何かが違うのかもしれない…それだけじゃないんだー

そう夏樹は外国のお菓子を啄む少女のように微笑むと、部屋のエアコンのリモコンのスイッチを15度設定にし、
佑磨の掛け布団をテーブルクロスのように華麗に剥ぎ取った。

「あぎゃあぁああぁあぁぁ亜っ寒いっ」

「おはよ、ゆーま」

「おっお、お前、畜生って呼ぶわ。おはよう、畜生」

「そんなおっきい声出したらお兄さんに聞こえちゃうよ」

佑磨は二階にいるはずの兄、佑斗の事を思い出して咳払いをした。

そして極寒の設定温度に一糸纏わぬ姿でうずくまるという極限状態の中夏樹に不満をあらわにした。

「温度設定元に戻せよ。
今何時だと思ってる。布団返せ」

夏樹は長い髪をかきあげながらあくびをし、寝そべっている掛け布団をめくった。
そして漸く返事をした。

「じゃあ、ゆーまがこっちくればいいじゃん」

佑磨は目を見開いてしばらく動かなくなった後、
裸の夏樹が温めた真綿の布団にゆっくりと入りそのまま二人は抱き合った。




「え、えぇー?適正試験?しかも実技って」


路田旅館の二階事務室には佑磨、夏樹、佑斗だけではなく
夏樹の知り合いのバンド[Nuecht]の元ローディー佐高 勇と、
佑磨の友人である耀一の経営するギャラリー"みぞれ"の常連客である甘原 匠が来ていた。

この見慣れない二人は、夏樹が旅館の従業員としてスカウトしたばかりだ。

もちろん、この新旅館がどういったサービスを始めるか二人は全く知らないままここにいる。

どうやら、旧旅館の従業員として働く気満々だったらしい二人は寝耳に水と言った形になる様だ。

勇は黒の無地のTシャツに、同じく黒のバンダナのフラップが付いたパンツ姿で事務所の応接間のソファーに真っ直ぐに座っている。

匠は全身生成り色のコーディネートで、麻のバギーパンツを履いている。
ソファーの上で足を組んでリラックスしている様子。

「近くで採れた木苺とアロエとレモングラスのお茶です。木苺のジャムもお好みでどうぞ」

先程驚きの声を上げた兄の路田 佑斗がゲスト二人にお茶を出す。
昨晩久しぶりに自宅の温泉に入ってきちんとした布団で寝られたせいか、
肌ツヤが戻りつつあると佑磨は思った。

デスクには既に三人分のお茶も用意してあった。

最初に表情を輝かせたのは匠だった。

「ただ赤い色だったのがジャムを溶かすと色が変化してゆく綺麗なお茶…いい香りするし、とても美味しいです。
地元にあるものだけでこれだけのものを作れるなんて」

佑斗は白くてふっくらした頬っぺたを赤く染めてお辞儀した。
オフホワイトのエプロンをし、アイボリーのトレーを持っている。

勇はイチゴのジャムを溶かし、ジャムだけを食べて考えた様に佑斗に語りかけた。

「カタチは違えど、
俺も皆さんもモノを作る人だから似るのかもしれないですね」

佑磨は花を散らして少女漫画のヒロインと化した兄を無視して本題に入った。

「夏樹、今日みんなに集まってもらったのは他でもない路田旅館新サービスに対する"適正試験"とやらの為なんだろ?
それが何なのかをみんなに説明してくれ」

イチゴのジャムを最初に味わっていた夏樹が勢いよく頷いた。

「"適正試験"は言い出しっぺの俺も受けます。
合格者しかこの旅館の従業員になれません。
皆さん“desty”の一因として納得して認め合った上でお仕事しましょう。
肝心の旅館の新サービスは何かというと…。」

夏樹はイチゴのジャムが残った唇を佑磨のそれに移し替えた。

そうしてしばらく唾液の交換をし、音を立ててお互いの口腔が同じ甘さになるまで待った。

お互い見つめ合い、唾液の細い糸が伝う余韻に身体が痺れを感じながら夏樹は説明を続けた。

他の三人は顔から表情を完全に消して動きを止め、見守っている。

「俺は、佑磨さんに初めて出会った夜 この宿の一番高い部屋の値段の額の価値を
佑磨さんに、そしてこの宿に感じました。
佑磨さんや俺、皆さんで 素敵なお客さまだけを最高のおもてなしをするために。
今から男性を 抱くことができるか 抱かれることが出来るか あるいは両方出来るのか
テストさせて頂きます
皆様には旅館の重要な 役員として必要なことをして頂きます」

「おっ、お前…!」

憤りと恥じらいで真っ赤になった佑磨を遮るように勇が口を挟む。

「それって今からこの五人で乱行まがいの事をするって事ですか」

夏樹は肘を組み、斜め上を見ながら答えた。

「これから先、お客様からご要望があれば複数でのおもてなしも考えられます
今のうちにそれが出来るか出来ないかを見極める意味でも今からそれらを行いましょうということです」

勇は逆三角の輪郭に乗った顔のパーツを歪めて俯いた。

佑斗は少しだけふっくらした手を挙げて質問した。

「ぼくと佑磨が関係するとさ、近親相姦にならないって思うんだけど」

夏樹はターコイズグリーンの瞳で微笑んだ。

「お兄様。いい質問です。
本来なら 佑磨さんと佑斗さんはご兄弟なのでご法度でしょう。
しかし、一定以上の需要が見込まれることは確かなのです。
例えば、佑磨さんと佑斗さんをまとめてご指名されるお客様も予想されます。
俺たちはもう既に一線を踏み越えた旅館を作ろうとしているのです。
お兄様の魅力と佑磨さんの魅力が組み合わされば鬼に金棒です」

佑斗は自信満々に捲し立てられると、夏樹の方を真っすぐ眺めている匠の方を見た。
そして頬を赤らめ、うなづいた。

木苺のジャムが入ったお茶の香りを嗅ぎながら湯気を見つめ、匠は束になった睫毛を揺らしながら質問した。

「この実技の技能によってギャランティや待遇は変わるのですか」

夏樹はプラムブラックの唇を左端だけ釣り上げた。

「とてもナイスな質問ですね 匠くん。
この"適性試験"の狙いはそこにもあります。
全ては皆さん次第なのです。
旅館の為でもあります。頑張った分だけ良いことが有ります。
一緒に頑張りましょう」

そう女神のような微笑みを心から夏樹は浮かべると、マットブラックの透かし編みニットをだらしなく肩を使って脱ぎはじめた。

勇はそれを見て凍りつきながらも、夏樹を見守っていた。

佑斗は火照る肌を抑えながら上目遣いで夏樹の肌を見つめる。

匠は逡巡するように夏樹の肌とテーブルの上のお茶を見比べていた。
束になっている睫毛が紺色の瞳を仕舞い込んだ奥二重を刺している。

佑磨は、ため息をつきながらとりあえず着ていたブロックチェックのリネンシャツのボタンを外していった。
淫らなことはしてはいけない、と理性は止めてはいたが。
夏樹に表面以外で抵抗すると、ロクなことがないと既に学習済みなのだ。

「………って、なんで兄さん??」

「良いでしょ。さっきの夏樹くんのお話し、聞いてなかったの」

「だからって、いきなりこっち来なくても…んっ」

「見られてると緊張するね」

路田旅館二階の事務所の机には自家製のジャムやブレンドされたハーブティーが並べられた。

窓と平行に置かれたアンティークソファには半裸になった佑磨と佑斗が囁きながら慰めあって甘い時間が流れているのが分かる。

机を挟んで椅子に座る匠は、ティーカップに注がれた液体と佑磨を交互に見比べている様子だ。

勇は落ち着きがなく手のゆびやフラップに包まれたパンツの足を匠の横で動かして、時々抱き合っている二人の方向を見た。
彫りの深い横顔が、緊張のために強張っているのが見て取れた。




そして路田旅館の二階事務室で五人が籠ったまま数時間がたった。

結果から言うと、適正試験は全員合格だった。

夏樹の判断基準を以てしてのものなので祐磨にはその良し悪しはよくわからなかったが………。

旅館の従業員が正式に決定した。






元Nuecht(ヴィジュアル系バンド)のローディーだった佐高 勇 さたかいさむ は適正試験に合格した。
ギャラリー みぞれの常連客 甘原 匠に抱かれていたがその後匠を抱き返し、匠とともに路田 佑斗と交わった。
適正試験が始まる前試験に対してかなりの抵抗はあったようだったが、匠と絡み合うとスイッチが入ったようでそのあとは淡々と試験をこなしていった印象だった。
両方とも出来るのは意外だったが、攻めてゆく時も受け身の時もとにかく淡々としているところが夏樹はすこし気掛かりだった。


燿一のギャラリー"みぞれ"の常連客である甘原 匠 あまはらたくみ は適正試験に合格した。
佐高 勇を抱いた後、勇に抱かれた。そのあと佐高 勇と共に路田佑斗と交互に共寝するところを他のみんなに見せた。
夏樹がいたく感心したのは匠は普段大人しく博識な印象を受けるのに対し。
こういうときには潔く攻めこなしていくところだった。
佑斗が用意したハーブティーに添えてあるジャムを使って口付けを交わしたりと。
工夫や刺激を凝らしているのも夏樹には印象的な光景だった。




路田旅館に舞い戻ってきた路田旅館九代目の長男、路田佑斗 みちだゆうとは適正試験に合格した。佐高勇と甘原巧に抱かれた後、弟の路田佑磨に抱かれた。
夏樹が見ていて気になった点は、佑斗は男性を抱くというよりは専ら抱かれるように、男性に対して寄りかかるように振舞っていたことだった。




東京で作曲家、演奏者を生業としている地崎 夏樹 ちざきなつき は適正試験に合格した。
まず佑磨を皆の前で抱き、そしてみんなの前で祐磨に犯された。
そのあとはほかの自由に三人と絡み合い、抱いたり抱かれたりをし、型にはまらずに性のひと時を振舞った。



路田旅館十代目当主にあたり現在新しいペンションを開業するはずだった路田旅館九代目の次男、路田佑磨 みちだゆうま は適正試験に合格した。
まずは地崎夏樹と触れ合い、そして夏樹を犯し、それから兄である路田佑斗を抱いた。
適正試験の言い出しっぺの夏樹が驚いたのはいきなり犯されたことだろう。夏樹はまんざらでもなかったが。




こうして路田旅館の新サービス「desty」の新従業員五名が決定した。
五人は二階の露天風呂の温泉で身体を清めたあと、再び二階の従業員事務室へと集まった。
新サービスのルールを決めようと夏樹が提案したのだ。

ホワイトボードには夏樹の字で走り書きされた文字があった。


『一流の温泉旅館の女中である自覚をもつ』



「女中っ?!」


ホワイトボードを書き終えた夏樹に向かって勇が叫んだ。だいぶぎょっとした様子だ。
温泉からあがりたてなのでフラップつきのパンツを穿いた足に靴下は履いていない。

「そおゆう気持ちでいてくださいっ 以上っ」


「はぁ………」


夏樹にそういわれると勇はなんだか釈然としない様子だった。
しかし、納得したようだった。
佑磨が事務室の奥から取り出してきたファイルを皆に見せたのだ。
そこには「desty」の細かい取り決めがあらかじめ書いてあったのだ。


そこにはキャストは女役から基本的にスタートすること、
顧客はこの旅館でのサービスをSNSなどで口外してはならないこと、
一見さんのお客様は面接後に食事と宴会のみ受けられること、
基本的に料金は 宿泊料+特室料+指名料+チップ で決定すること

などなど、びっしり書き込んであり勇だけでなく匠も驚いていた。

ここまで来ればもう高級旅館の女中として仕えることにみなやぶさかではないようだった。

「もちろん他にアイディアや必要なことがあればどんどん追加していこうよ どう」

佑磨がそう言うと、佑斗が笑顔で さんせー と言い和やかな空気が流れた。
勇と匠も異論はないようだった。



そうこうしている間に旅館の門からインターホンが鳴った。
佑磨が応対する。皆のいる二階の事務所に戻ってくると、大きな郵便パックを抱えている。

「"みぞれ"から全員分の名刺が届いたよ」


「早!!」


「確かに燿一さん仕事早すぎだろ」


皆が口々にギャラリー"みぞれ"のオーナーの手柄を称える。
それらを次々聞きながら佑磨は包装を解いていく。
名刺は通常サイズで、白地に顔写真はなくフォントだけの至ってシンプルなものだった。


「さっそく配りに行こうじゃないかっ!!」



夏樹が名刺を人差し指と中指で挟んで全身でポーズをとっている。
佑磨がなんだかとても嫌な予感がしてこう答えた。



「配るって………どこへ??どこへ名刺を配るつもりなの夏樹」



「昨日お会いした茅場旅館の当主のお方に決まってるじゃないか 
それにお願い事もあるし ちょうどいい機会だよ」



夏樹に言われるまま五人で名刺と手土産を持って二つの大きなロータリーを超えて茅場旅館へと向かった。


佑磨が茅場旅館へやってきたのは、父 路田佑吾の香典返し以来だったようで、随分と久しぶりに感じられた。



16階建ての建物は、今日も暑い中観光客や地元客を迎え入れて大盛況だった。
ロータリーは大型の観光バスから流れ出る観光客ーリゾート服を着たりキャリーケースを持っているーでごったがえしており、
祐磨はやはりうちとは大違いだなといまだに自虐的に呟きそうになった。


五人は茅場旅館入口の二重の自動ドアを通過する。
三階まで突き抜けているおおきな吹き抜けの一階のロビー。


佑磨は宴会のできる食堂のその向こうを見た。
茅場総士が一階の茶室から出てきた。
そう思えばこちらの様子をじっと見ている。
単衣のうえに行燈袴を穿き、袴の左腰に袱紗を付けている。

おそらくお茶席が終わったところなのだろう、茶室からたくさんの和服を纏った客人達が出てきたのを佑磨が確認すると佑磨は手を振った。

「よお総士」

すると総士は顔を伏せてそそくさとマッサージラウンジスペースのある場所を抜け、
三機あるうちのひとつのエレベーターに乗ってしまった。
マッサージラウンジスペースには二つに分かれていた。
本格タイ式マッサージ師が腕を振るうスペースと、最新のマッサージチェアーとのスペースだ。
どちらも南国調の大きな観葉植物があり、賑わっていた。


「きっときまずい思いをしてるだけだからゆるしてやっておくれ」


五人がぎょっとして振り返るとそこには九代目茅場旅館当主茅場総司が総士と似たような装いで立っていた。
きっとお茶席に当主として参加していたのだ。
懐に懐紙が入っている。


「九代目 お邪魔してます その………こいつ、夏樹がどうしても
来たいっていうもんだから」


佑磨が気まずそうに一歩みんなより前に立ってこの旅館の当主に頭を下げる。
総司が却って恐縮し夏樹君が?と返す。


「そうです きゅうだいめ こんにちは!これを渡しに来ました」


夏樹が一歩佑磨よりさらに前に立つとピアスやネックレスが互いにぶつかり合う音が吹き抜けに響いた。
観光や日帰りの旅をしている客の歓声にすぐかき消されていったが。

夏樹から名刺と手土産を受け取ると総司は丁寧に礼を言い、懐からカードケースを取り出し自社の名刺を五人へ配った。
格式ある名刺に五人は感銘を受けていると夏樹は重要な要件を思い出した。

「きゅうだいめ 今日は俺たちは旅館の新しいサービスのスポンサーを探しに来ました」

「夏樹っ、お前………」


佑磨は夏樹の目上の方に対する唐突すぎるお願い事に慌てたが、
総司は単衣の袖で口元を覆いながら笑っている。


「あははは、話がわかりやすくていいね」

そして、髪をオールバックに整えてある総司は改めて路田旅館からやってきた五人の若者を眺めた。

「それで、新サービスというのは?」


「そ、それは………」


佑磨が言いよどむと夏樹が路田旅館事務室から持ち出してきたファイルを開き説明しだした。


その間、勇は目を背け、佑斗はぼおっと遠くを向き、匠は二人の後ろ姿を見つめる視線を厳しくさせた。
佑磨はなんだか 内容が内容だけに
とても気まずいのと手持無沙汰だったが、夏樹が交渉しているのを待つしかなかった。

五分ほど経ち、総司がこういった。


「それだったら甘楽呉服さんがいいかもなぁ まだいるかな」


総司は袖口からスマートフォンを取り出すと通話ボタンを押した。
どうやらこんなサービスでもスポンサーの当てがあるらしい。

ー甘楽呉服というと最近社長が変わったと聞いたような………ー

佑磨は少し逡巡するが、総司の方へ意識を戻した。

総司はスマートフォンに向かって一、二分ほど通話すると交渉成立したらしく
片手でマルのマークを作って笑ってみせる。

「駐車場へ行ったけど戻ってくるって 僕達は宴会場で待とう」


吹き抜けになっているつくりを生かしたロビーにある宴会場。
今の時間帯はビュッフェをやっているようだった。
といっても昼の三時頃なので旅館はチェックインしようとする客は多いものの宴会場は比較的空いていた。



佑磨達は総司のおごりでシャンパンを飲みながら甘楽呉服の代表の到着を待った。
総司の話によると、なんでもまだとても若い社長らしい。
やがて、エントランスの方から目立つ三人の人影が見えた。
甘楽呉服の代表とSPのようだった。
エントランスからビュッフェのある宴会場まで観光客の間をぬって三人で歩いてくる。


中央にいる代表らしき人物はわりと小柄で、赤い単衣を纏っている。
顔も着物に負けないくらい華やかな顔立ちをしており、髪はハイレイヤーの短髪だ。


目が切れ長で迫力がある。
帯は角帯を腰の位置で巻いているが珍しい黒字にバラ柄だ。
しかしコスプレっぽさも嫌味もなく、高級感溢れるコーディネートに収まっている。

佑磨は、このひとが噂の新社長か~なんだか花しょってるなぁという感想をもった。


「皆さん紹介するね こちら甘楽呉服八代目 甘楽将鬼さん
地元じゃ有名な呉服屋さんかな
そしてこちら路田旅館の皆さん 路田旅館はご存じの通りだけれど
なんでも新サービスを始めるそうだよ」


総司が互いを紹介してくれたので再び名刺交換の流れになった。

あとは若い物同士で煮るなり焼くなり好きにやってくださいよ、
と総司は言い残し宴会場を去っていった。
会計は俺がご馳走するから、とも。
五人は礼を言って見送り、去っていく後ろ姿に頭を下げた。

そして席に戻ると若き経営者と再び対峙した。
鍛え上げられたSP二人は席の後ろで仁王立ちをしており、
独特の威圧感を絶えず放っていた。

将鬼は席に戻ってくる五人を見てシャンパンをあおり、本題にふれた。


「新サービスはきみたちから春を買うところってきいたけど」


あまりにあっけらかんと将鬼がいうので
佑磨と勇は同じシャンパンをふきだしそうになった。

その反応を見て将鬼がクスクスと笑う。

「美しい青年ばかりだし ぜひ契約したいね 
スポンサーとして衣装提供もしたいとおもっているよ」


路田旅館の五人のメンバーの間に安堵の笑みが広がる。
夏樹が右手だけ長いネイルで将鬼にお酌しながらこういった。

「わー着付け苦しそうだけど着物楽しみ!がんばるぞ」


「はは、慣れればどうってことないよ 
俺なんか毎日のように着てるしね
茅場さんちの総士くんに着物ショーのモデルやってもらったこともあったなぁ うちは礼装から浴衣のようなものまで幅広く扱っているからね」


佑磨は地元の広報誌トップに掲載されていた幼馴染を思い出す。
ランウェイの上を五つ紋付羽織袴姿で歩く姿はひいき目なしに凛としていて格好良かった。
きっと会場にいた女性客も黙ってはいなかったろう。


将鬼は契約書類にサインをすると、和服のサンプルであるパンフレットを全員分に配り、少し五人と歓談すると

路田旅館での新サービスを受けられる最短の日付を聞いてきた。
五人は慌てたがひそひそ声で祐磨の手帳を皆で確認し、
「やばい プレオープン!プレオープン!」
などと小突きあいながら将鬼にいくつかの日付と時間を提案した。


「わかった では〇〇日の△時に路田旅館で」
そういうと将鬼は残りのシャンパンを飲み干し、SPに合図した。
会計表を手に取りブラックカードで支払いを済ませ今度こそ駐車場へ向かっていった。


途中将鬼が茅場旅館のロビーで誰かを探している様子であるのが佑磨には気になったが………。






五人は将鬼を見送ると、初めての顧客を旅館に迎えるに当たって準備や対応に追われることとなった。




つづく

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