ESAT-Jでのテスティング上の致命的誤りとその改善案 Part-1
東京都では、2022年11月27日(日)に中学校英語スピーキングテストが実施されました。このテストは、2023年度都立高校入学者選抜の合否判定に活用される予定です*1。しかし、公開された問題には、言語テストとしては致命的な誤りが多数見つかりました。誤りを指摘するとともに、私なりの改善案も提案します。こちらは前半の内容です。後半(Part-2)とともにご一読頂けたら幸いです。
中学校学習指導要領"外"からの出題
ESAT-Jは、中学校の学習範囲からの出題*1とアナウンスされていました。しかし、実施された問題には、中学校では習わない文法表現の英文を音読させる問題がありました。習っていない範囲を出題するのはルール違反です。テストの原則は、指導したものを評価することだからです。
中学校で習わない表現を音読させる問題
こちらは音読問題です。言語テストにおいて音読を求める背景には、発音の正確さだけでなく、区切り等の読み方から英文を正しく理解しているかどうか、を測りたいという意図があります。たとえ単語一つ一つは正しく発音できていても、区切りがおかしかったりたどたどしかったりする場合には、評価が低くなるのはこのためです。問題冒頭に含まれているmay have seenが問題の箇所です。
『may have seen 』は助動詞mayと完了形have seen が同時に使われる複雑な表現です。中学校では教科書で出会うことはなく、高校でも必ずしも習うとは限らない表現です。テストの冒頭で未知の表現に出くわして、多くの中学生は困惑し平常心を失ってしまったことでしょう。心理的な悪影響も考えられます。出題として不適切と言わざるを得ません。
音読問題の改善案
may have seenを日常よく使う別の表現に言い換えるのはどうでしょうか。また、この問題の意図は、see の/síː/とshouldやshopの/ʃˈ/の発音を区別できるかどうか、だったように思われます。馴染みのある表現を使うために、以下のような英文に修正します(太字が筆者加筆修正)。
現実ではあり得ない状況設定
言語テストでの問題には、できるだけオーセンティック(現実に即した、実践的な)な状況設定が求められます。現実で起こらないことを英語で表現するのはそもそも難しいです。また、非現実的な場面の発話では、その人の能力を測ることは難しいです(空想や冗談を表現する力は測れるかもしれませんが)。
鳥が花を運んできた状況は現実的と言えるのか?
こちらは4つの絵、それぞれについて時系列順に英語で出来事を説明する問題です。①では電車に乗り込んでいます。②では、鳥が電車内に入ってきてしまっています。教室内に鳥やハチが入ってくるなど、ここまでは現実でよく起こる状況です。しかし、ここで問題なのは、③と④のコマです。
③では、花を咥えている鳥が自分の麦わら帽子の上に腰を下ろしています。④では、鳥が麦わら帽子に添えるように花を残してくれています。これは、アニメやゲームのワンシーンのようです。電車内で鳥がこんなことをする状況が現実に起こると思う人はいないでしょう。
4コマイラスト問題の改善案
③以降のコマを修正してはどうでしょう。鳥が入ってきて人々は驚きパニックが起こる。最終的には電車が停まる、という状況はどうでしょうか。
2016年9月にそのような事が実際に京浜東北線で起きているそうです。表現的にも、③はThere was a panic in the train. や、People in the train were surprised. など複数の表現が可能です。④はThe train stopped because of the bird. などと身近な表現を使って表すことができそうです。
ビデオレターで質問?
もう一つの問題では、ビデオレターが届くという状況設定です。ビデオレターは親しい人へお祝いや感謝のメッセージなどを伝える手段として使われるものです。しかし、ここでは、なぜかビデオレターで学校の昼食についての質問をする、という不可思議な状況になってしまっています。ICTが気軽に活用できる現代で、このような回りくどい状況があるのでしょうか?普通はテキストメッセージやビデオ通話でやり取りするでしょう。
不自然な状況では、常識的な考えが通用しなくなり、どんな英語表現を使ったらよいかの判断が非常に難しくなります。
意見を述べる問題の改善案
私が作問者なら、ビデオレターという設定をなくします。代わりに、オンラインビデオ通話で友人とお互いの学校生活について話をしているという状況設定に修正します。
まとめ
ESAT-Jで見つかった、言語テストとして不適切な出題を紹介しました。出題範囲の逸脱は、あり得ないミスです。また、『使える英語力の育成』と銘打っておきながら*1、オーセンティックではない状況設定には疑問を持たざるを得ません。
他にも、英語教育に携わる方やテスティングを学んでいる方は決してしないであろう初歩的な誤りが目立ちます。後半(Part-2)でさらに解説します。後半もお読みいただけたら幸いです。
引用文献
*1 中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)ポータルサイト
https://www.tokyo-portal-edu.metro.tokyo.lg.jp/speaking-test.html
*2 中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J) 令和4年度 問題
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/esat-j/r4_script.pdf