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孤独の文学散歩ー樋口一葉記念館と池波正太郎記念文庫ー
人は誰しも、「ひそやかなる楽しみ」を秘め持っているのではないだろうか。
例えば、昭和喫茶でメロンソーダの飲み比べとか、鮎釣りとか、軍服フェチとか、ガチャとかフィギュア集めとか。。。
あまりにマイナーすぎて人には言いづらいけれど、この楽しみがあるから、毎日充実している。。。というような。
わたしにとって、「ひそやかなる楽しみ」の一つは、近代以降の文学に浸ることである。
うん。。。。マイナーやね。。。。😇😇
だからね、あまりリアルで人に言いたくないんです。
大事なものはそっと心の宝箱にしまっておきたい。
といっても、語れるほど読んではいないのだけれど、
好きな小説や随筆のフレーズを何度も読み返して布団の中で身悶える。
ゆかりの地にぶらりと散策する。
作家が作っていた料理を作る。。。。
などなど、文学や作家の面影を追うことがひっそりと好きだ。
しかしここ15年、仕事やら子育てやらでそのような身悶える機会がめっきりなくなってしまった。
ゆゆしきことだが、ゆとりがなかったのである。
このGW中三日間、幸運にも一人になれる機会を得た。
体力を上げるために、文学散歩に出よう、と思った。
わたしは今北千住に住んでいる。
東京の北東の端っこに位置する千住は、かつては宿場町でやっちゃばと呼ばれる青物市場で有名だったが、遊郭では格下扱いになるほど「田舎の土地」でもあった。
東国との分岐点であり、近所の千住大橋前には、松尾芭蕉の碑が建てられている。
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千住大橋を渡り、日光街道を西に向かうと。。。
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荒川区に入り、1000年以上の歴史を持つ素盞嗚神社がある。
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そのまま、まっすぐどんどん歩いてゆくと三ノ輪に出る。
街によって雰囲気が変わるのは面白い。
秘められた歴史が垣間見れたり、北千住にはない、もう少し「街」っぽい雑多な空気感。
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三ノ輪駅近くには遊女の投げ込み寺として有名な浄閑寺がある。
浄閑寺については、こちらの記事に詳しくかいています。
よろしければどうぞ☺️
大通りから住宅地に入りしばらく歩いていくと。。。
大空の大海に鯉のぼりが泳いでいた。
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鯉のぼりのそばにある公園には、たけくらべ記念碑が。
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一葉記念館に到着。
想像以上に現代的な建築。
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大人は入場料300円。
中は閑散としていて、10人もいない。
文学散歩で好きなところである。
マイナーゆえに、例えGWといえども本当に興味のある人しか入らないのだ。
なので、悠々とゆっくり中を楽しむことが出来る。
樋口一葉の「たけくらべ」は、吉原遊廓にほど近い竜泉寺町を舞台に繰り広げられる、少女美登利と僧侶の息子、信如との淡い恋心を描いた物語。
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一葉は竜泉寺町で駄菓子と荒物屋をひらき、そこでみた廓社会に従事し、その生活圏を支えていた人たちや子供をみて、「たけくらべ」の構想を得た。
一葉の店の前は次々と客を乗せて遊廓へ走る人力車がかけてゆく。
道の広さは二間。
当時の一葉は店の前を走る人力の数を数えていた。
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企画展では、一葉の作った和歌が展示されていた。
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撮影禁止部屋だったので紹介できないのが残念だが、書がとても美しい。
早くから歌の才能を見出され、歌合せでも一等をとっていた。
一葉が作ったちょうど今の時期にぴったりの歌で
「昔のように、菖蒲を軒先におく風習は今や廃れてしまったわねえ。花を飾るだけになってしまったわ」
という歌があり、もう明治中期には菖蒲を軒先におく習慣は薄れていることがわかった。
他にも恋にまつわる歌が展示されており、半井桃水への想いを綴ったものかもしれないなあ。。。とも思った。
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しかし、明治29年4月から発熱や体調不良が出始め、7月に臥床。
家族が一葉が結核だと知ったのはその後だった。
すでに手遅れで、鴎外の紹介により当時の第一人者だった医師らによる診察を受けるも絶望的な状態だった。
同年11月23日に永眠。
展示品はそこまで多くなく、ゆったりとみて満足する。
残念だったのは、記念館の公式ホームページにある、一葉の住んでいた竜泉寺付近の立体模型が展示されていなかったことだ。
この模型を撮影したかったので、しょんぼり。
資料になりそうなポストカードを4枚購入。
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思ったより早く出たので、足を伸ばして三ノ輪から地下鉄に乗ってお隣りの入谷へ。
ずっと行きたかった池波正太郎記念文庫に向かう。
生誕100年ということで、さまざまな催しがされており、館内は池波ファンであろう人たちが興味深そうに展示を眺めていた。
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残念ながら、池波正太郎記念文庫は館内全て撮影不可なので紹介できないのが口惜しいのだけれど。。。。
控えめにいって、
池波ファン、時代劇、時代小説好きは行ってください。
満足すると思います。(真顔)
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けして広くはないのですが、池波正太郎先生の作品世界、執筆道具、趣味、書斎までギュッと詰まっていてすっごく良かったです‼️
生原稿が展示されていて、気持ちのいい筆致だなあ、と思ったり。
特に江戸期の絵地図を収集しているコーナーは興味深かった。
相当高額で仕事のお給料と変わらない額もあったらしい。
けれど、絵地図を何度も開き見ることで、頭の中で江戸を何度も歩き、鬼平や小兵衛が辿った道を練っていたのだとすると。。。
当時の街の風貌を網羅する絵地図というものは、時代小説には欠かせぬくらい重要な資料だったと思う。
そういう意味でも、浅草生まれの生粋の江戸っ子だった池波先生は、失われた江戸の町を「ここはあそこ。。。ここはこの道。。。」と、地方出身者よりも身近に感じとることができたかもしれない。
あと、書斎の蔵書資料がすごいとか、絵筆いいの使ってんな〜、紙はやっぱりアルシュ使ってんだな〜とか、とにかくワクワクする空間だった。
一つ残念なことは、孤独なる散歩ゆえに、このパネルで遊べなかったこと。。。⬇️
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パネルで楽しそうに撮影する外国人観光客たちの後ろで、ポツン。。。とうらめしく眺めるわたし。
孤独な文学散歩のマイナス点は。。。こういうパネル撮影ができないことだね。。。
職員さんに
「すみませえーん❤️小兵衛に顔入れたいんで、撮影お願いしまあ〜す❤️」
とか恥ずかしくて言えんしな。。。😇
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池波正太郎グッズは、全部欲しいくらいどれもよかった。
迷いに迷って図録1500円とマスキングテープ300円、ブックカバー5枚入り300円を購入。
(マステがあるんや、という事実にビックリしたのだけど)
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わたしのファースト池波正太郎作品は中学の時に買った「ル・パスタン」。
正太郎少年の思い出や、食、映画、フランス旅行、日常、仕事への想いを綴った随筆が好きで大学生の時にウキウキしながら読んだ。
近代好きにとっては、正太郎少年の浅草や銀座の思い出は、まるでキラキラ揺れるビー玉の中のように、味わいたいと思っても味わえない、切なさと愛おしさが込み上げてくる。
そのなんともいえない懐かしさと甘酸っぱさに、一体何度泣いたことだろう。
わたしの制作日記の簡易な書き方は、池波正太郎先生の随筆に多分に影響されている。
街の香りをかぎ、映画を楽しみ、美味しい季節のものを料理する。。。というなんでもない日常を楽しむ粋を学んだし、歴史にはけして出てこない市井の人々の味わいある豊かさを教えてくれた。
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時代小説はあまり読まないので、「剣客商売」しか集めていなかったけれど、とても面白かったし、グイグイ惹きつけられて読める。
助平爺さん小兵衛の柳のような身のこなしの中に、ギラっと光る殺気にゾクゾクしたし、なにより物語に出てくる「おんな」の肉体描写が肉感的、感触的に感じられるのがよかった。
わたしの姉に至っては池波正太郎ファンで、鬼平が好きすぎて愛犬の名前を「平蔵」にしているくらいである。
適度な疲労と共に、北千住まで日比谷線でもどる。
帰り道に、貴婦人のドレスのようなフワフワしたバラを見つけた。
桃蜜のような甘い上品な香りを漂わせている。
このバラが最後の熟期に入っているのがわかった。
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孤独な文学散歩は、自分ひとりだけが満足するもの。
まどう生活の中で、「これが好きだったんだ。。。」とときめき、チューニングするもの。
過去からの贈り物のおかげで、また明日から頑張れる。