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高杉隼人
2017年12月9日 01:01
姉が殺された場所は、人通りの少ない路地だ。近くには工事の計画がある広い空き地があるだけで、ランドマークになるような建物は無い。あるとすれば、小さな家が数件建っているだけだ。殺人を犯すには条件の良い場所だ。 姉は電柱の側でうつぶせになって、大量の血を流して倒れていたらしい。第一発見者は早朝にジョギングをしていた老夫婦だったとのことだ。 私たちが現場を訪れると、電柱には花が手向けられていた。その
2017年11月23日 01:10
休日になり、私と姉は犯行現場に向かうことにした。私は事件以来、現場には一度行っていた。その時は血痕が生々しく残っていて、近くには花が供えられていた。姉曰く、あの時は思い出せないくらいトラウマとして残っているらしく、何も思い出さなかった。一定の時間を置いた今なら思い出すかもしれない、そんな姉の提案もあり再び行くことにした。 犯行現場は駅とは反対方向の場所にある。私は普段通ることが無い道だ。私たち
2017年11月7日 23:35
パンケーキを食べ終わった後、樹梨はトイレに行くと言って席を外した。「樹梨ちゃんって、私の事件を知ってるの?」 姉は樹梨が席を外したのを見計らったかのように、私に聞いた。「知ってるよ」 私は答えた。姉が殺された翌日、私は樹梨にメールで伝えている。忌引きで三日休むから、と。その時は樹梨から電話がかかってきて、心配してくれた。一緒に受けている講義はノートを取っておくから任せてと言ってくれた。
2017年11月2日 23:18
水曜日の五限の講義は地方自治法の講義だった。私は樹梨と一緒にこの講義を受けている。隣に座っている樹梨は終始眠そうだった。私は樹梨に構わず講義を受けていた。 講義が終わると、講義室は緊張感から解放された。講義中、終始眠そうにしていた樹梨は大きく背伸びをする。「終わったあ。もう眠かったよう、美月」 樹梨は安堵したような声で言い、抱き着いてくる。「知ってた。ずっと眠そうにしてたもん」「ねえ、
2017年10月31日 22:59
金曜日の四限の講義が終わり、私は久しぶりに法学研究会の部室に顔を出すことにした。姉の事件以来、何となく行きづらくなり、部室からは足が遠ざかっていた。この前、樹梨にはサークルはほとんど活動していないなんて言ったけど、あれは嘘だ。ただ私が、行きづらくなっていたから行かない口実を作って自分を正当化しただけ。私はずるい人間だ。本当にそう思う。 とりわけサークルの人達と仲が良かった訳では無い。もしかした
2017年10月28日 23:44
事件から一週間が経ったある日、二人の刑事が家を訪れた。彼らは姉の事件の担当刑事で、事件以来一度会っていた。滝川というくたびれたスーツを着ている初老の刑事と大野という背の高い若手刑事だ。彼らは事件で今分かっていることを話に訪れた。 リビングで私たち家族は集まり、テーブルに腰かけて刑事の話を聞く。事件については滝川が説明している。要約すると、姉を刺したナイフは鋭利なナイフで、深くまで刺さっていたと
2017年10月24日 22:55
私と姉が会話を交わしたのは、家に帰りついて私の部屋に入った後だった。帰り道、私は姉に話しかけることが出来なかった。まだ気分が落ち着いていない気がしたからだ。私はベッドの上に体育座りをする。先に言葉を口にしたのは、姉だった。「顔、見れたよ」「そう、それなら良かった」「ありがとう、美月。やっぱり、あんたは優しいね」「そんな事ないわ。私なんか、全然」 私は自分の選択が正しかったのか、分からな
2017年10月23日 23:23
日曜日の昼下がり、私たちの家のインターホンが鳴った。玄関から偶然近い場所に私はいたので、ドアを開ける。ドアを開けると、精悍な顔つきの男性が立っていた。おそらく年齢は三十代前後、スーツ姿で銀縁の眼鏡をかけて、爽やかな見た目を決定づけるほどの切りそろえた短髪だ。「こちらは、真野香月さんのご自宅でよろしいですか?」「はい。そうですけど」「私は瀬戸と申します。香月さんとは、厚生労働省で一緒に働いて
2017年10月18日 23:09
ランチを食べ終わった後、樹梨は三限があるからと言って講義室へ向かった。私は次の時間は空いていたので、食堂から出た後で別れた。「美月にあんな明るいタイプの友達出来たの初めてなんじゃない?」 姉は私の隣で言った。樹梨には勿論姉の姿など見えていなかったはずなので、二人で昼食を取っているつもりだっただろう。それに、他の学生にも姉の存在は見えていない。私だけ、あの場でも姉の存在を感じていた。「そうだ
2017年10月16日 23:31
二限目の講義を終えて、私たちは学生食堂へ向かう。食堂の入り口前では、友達の山谷樹梨(やまやじゅり)と待ち合わせていた。ショートカットで快活な彼女と私はどうも釣り合わない、私は常々そう思っている。でも、その空気感や距離感が私たちを結び付けているのだとも思う。「遅いよ、もう十五分も待ったじゃない」 樹梨は口を尖らせて言った。「ごめん、講義が長引いちゃって」 私は前に手を合わせて謝った。「ま
2016年2月25日 23:53
テーブルに家族四人が座っている。でも、姉の姿を見ることが出来るのは私だけのようだ。母が私と父の分の朝食を持ってくる。姉は自分の席にご飯や味噌汁を置かれないことに、ひどくもどかしさを感じているようだった。「確かに幽霊はお腹が空くことは無いんだけど、ここまで見ちゃったら我慢するのも辛いわね」 姉は私たちを恨めしそうに見ている。そして、私が姉の大好物だった玉子焼きに手を伸ばすと、姉は突き刺すよ
2016年2月19日 23:50
姉の告別式が終わった後、私は両親と一緒に家へ帰り、そのまま自分の部屋に入った。そして喪服を脱ぐことなく、ベッドにばたんと倒れこんだ。どっと疲労が溜まった。それだけ私は、姉に対して激しい劣等感を抱いていたということだ。「美月(みつき)」 どこからか私を呼ぶ声が微かに聞こえた。この部屋には私しかいないはず。不審に感じながら、私は辺りをぐるりと見回す。でも、誰もいない。私は疲れているのだろうと