乱反射_表紙

乱反射 6.

 私と姉が会話を交わしたのは、家に帰りついて私の部屋に入った後だった。帰り道、私は姉に話しかけることが出来なかった。まだ気分が落ち着いていない気がしたからだ。私はベッドの上に体育座りをする。先に言葉を口にしたのは、姉だった。
「顔、見れたよ」
「そう、それなら良かった」
「ありがとう、美月。やっぱり、あんたは優しいね」
「そんな事ないわ。私なんか、全然」
 私は自分の選択が正しかったのか、分からない。これで良かったのだろうか。ただの自己満足だったのではないだろうか。そんな事を、ずっと帰り道で考えていた。二人の心の傷を広げた気がしたから。
 そんな事を考えていると、姉はおもむろに話し始めた。
「私が厚労省に入った時、私の教育係をしてくれた先輩が毅さんだったの。仕事が出来て、優しくて、私にとって憧れの先輩だった。去年毅さんから告白された時は、本当に嬉しかった。これが人並みの幸せなのかなって思ったの」
 姉は一つ一つ思い出すように、無機質な壁を見つめながら話した。
「お姉ちゃんに、そんな人がいるなんて思わなかったな……。だってお姉ちゃん、そんな素振り見せないんだもん」
「別に隠していたつもりじゃなかったんだけどね。最近、美月とも話す機会が減ってたからかな」
 確かにそうだ。私はどこかで姉を意図的に避けていた。姉を見て劣等感を感じるのが嫌で、姉が仕事から帰ってくる時間が遅いことを良いことに距離を取っていた。姉と一緒にいると、何もかもが姉に劣っている私が惨めに感じてしまい嫌になる。現に今もその感情は変わらない。自分自身が嫌いだ。
「美月にもいつか大切な人が現れるよ」
「そうかな……。考えられないよ」
 姉は瀬戸さんのことを思い出しているのだろうか、とても穏やかな顔をしていた。ああ、こんな顔も出来るのか。私は姉を知ったような気がしていたけど、意外と知らなかった。

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