高杉隼人
noteで投稿する初小説。殺されて幽霊となった姉と彼女に対して劣等感を抱く妹が事件の真相に迫るヒューマンミステリー。
村重小鳥と恩田紗奈。一見仲の良い親友に見える二人にはある秘密がある。それは同性の恋人であるということ。女性同士の同性愛を描く恋愛小説。
どこか諦めがちな大学生杉本航は、大学図書館で進藤美空という女子学生と出会う。図書館でだけ会うことが出来る美空に航は恋愛感情を抱くのだが、彼女には悲しい過去があった。2013年執筆の小説。
男子高校生・綾瀬圭吾の父柊介は人気脚本家。しかし、その脚本を書いているのは息子の圭吾だった。人間的に駄目な父親とゴーストライターになってしまった息子のコメディー。
大学3年生の時に書いた小説。記憶喪失の女性、高宮若葉が自分の失った記憶に迫るミステリー。
夜の十時前くらいに私は風呂からあがった。そして、冷蔵庫からペットボトルのサイダーを取り出す。二人分のコップを用意して、一つを紗奈に渡す。私は二人分のコップにサイダーを注いでいく。コップの中で炭酸がきらきらと弾けて綺麗だ。無色透明な液体の中で、炭酸はしゅわしゅわと踊るように弾ける。 風呂上がりのサイダーは、中学生の頃からの私の日課だ。サイダーを飲まないと風呂あがりな気がしないくらい、いつも飲んでいる。この私の日課に、同居を始めた紗奈も参加した。今では、二人が風呂からあがって
みなさんお久しぶりです。高杉です。 今年初めてnoteを更新します。 この度、小説のタイトルを変更することにしましたので、お知らせ致します。 「彼女たちの憂鬱」というタイトルで書いていた小説を「リュミエール」というタイトルに変更させて頂きます。僕自身、以前のタイトルがあまりしっくりきていなかったので変えることにしました。 今後ともよろしくお願い致します。
姉が殺された場所は、人通りの少ない路地だ。近くには工事の計画がある広い空き地があるだけで、ランドマークになるような建物は無い。あるとすれば、小さな家が数件建っているだけだ。殺人を犯すには条件の良い場所だ。 姉は電柱の側でうつぶせになって、大量の血を流して倒れていたらしい。第一発見者は早朝にジョギングをしていた老夫婦だったとのことだ。 私たちが現場を訪れると、電柱には花が手向けられていた。その量は以前来た時よりも増えていた。ほとんどは、見ず知らずの赤の他人なのかもしれない
私と紗奈は同じ大学の一年生。学部は文学部心理学科。受けている講義もよく被る。いつも一緒にいるから、傍から見ると親友のように見える。誰も私たちが付き合っているだなんて、微塵も思わないはずだ。 私たちは相性が良い。見た目の系統とか性格とかは全然違うけど、相性は抜群に良いと確信している。まるで磁石のS極とN極が引かれあってくっつくように。パズルのピースが綺麗にはまるように。私たちの関係はそれくらいぴったりなものだ。 私たちには共通の友達が二人いる。貴島彩華(きじまあやか)と高
僕が人気脚本家・綾瀬柊介の息子ということはクラスの中でもちょっとした話題になることがある。だから、僕が親父の事を聞かれることも少なくない。主に女子から。 「綾瀬君って、あの綾瀬柊介の息子なんでしょ? お父さんにサインって書いてもらえないかな?」 クラスのミーハーな女子は聞いてくる。 「さあ、どうだろう? 親父も忙しいからね」 そう笑って受け流しているけど、内心穏やかではない。コメンテーターとしての仕事は親父の仕事だから良しとしよう。だが、脚本を書いているのは僕だ。僕が書
好きって何だろう。私はいつもそれを考えている。それが分かったら、世界は変わるだろうか。おそらく変わらないのかもしれない。でも私は知りたい。好きという意味を。 講義を終えて、私はアパートに帰る。今日はアルバイトも休みだし、特に予定も無いので真っ直ぐに部屋へと向かう。五階建てアパートの四階にある一室、それが私の住んでいる部屋だ。家の鍵は開いている。これはいつものことだ。だって、ここに住んでいるのは私一人じゃないから。 「おかえり」 キッチンで私に声をかけたのは、同居人の紗
休日になり、私と姉は犯行現場に向かうことにした。私は事件以来、現場には一度行っていた。その時は血痕が生々しく残っていて、近くには花が供えられていた。姉曰く、あの時は思い出せないくらいトラウマとして残っているらしく、何も思い出さなかった。一定の時間を置いた今なら思い出すかもしれない、そんな姉の提案もあり再び行くことにした。 犯行現場は駅とは反対方向の場所にある。私は普段通ることが無い道だ。私たちは姉の帰宅経路を辿って、家から歩いていく。少し歩いた場所にあるコンビニ前の信号で
パンケーキを食べ終わった後、樹梨はトイレに行くと言って席を外した。 「樹梨ちゃんって、私の事件を知ってるの?」 姉は樹梨が席を外したのを見計らったかのように、私に聞いた。 「知ってるよ」 私は答えた。姉が殺された翌日、私は樹梨にメールで伝えている。忌引きで三日休むから、と。その時は樹梨から電話がかかってきて、心配してくれた。一緒に受けている講義はノートを取っておくから任せてと言ってくれた。 「話題に出さないようにしてるんだ。あえて事件から遠ざけて、美月に辛い思いをさせな
春休みに入って数日が経ったある日、僕は春樹を連れて美空さんに会いに行った。テスト期間中はずっと試験勉強に明け暮れていたので、久しぶりに彼女と会う機会が楽しみで仕方なかった。春樹を連れて行く理由は、メールで美空さんが僕の友達を見てみたいと送ってきたからだ。 「初めまして。栗原春樹です」 春樹が堅苦しく挨拶をすると、美空さんは「進藤美空です。よろしくね」といつもの笑顔を作った。 「少し堅苦しい感じに見えるだけど、意外と良い奴だから」 僕がそう紹介すると、彼女は「想像通りだか
水曜日の五限の講義は地方自治法の講義だった。私は樹梨と一緒にこの講義を受けている。隣に座っている樹梨は終始眠そうだった。私は樹梨に構わず講義を受けていた。 講義が終わると、講義室は緊張感から解放された。講義中、終始眠そうにしていた樹梨は大きく背伸びをする。 「終わったあ。もう眠かったよう、美月」 樹梨は安堵したような声で言い、抱き着いてくる。 「知ってた。ずっと眠そうにしてたもん」 「ねえ、今から空いてる?」 樹梨は突然食い入るような目つきで聞いてくる。 「空いてるけ
僕はずっと美空さんのことが気になっている。引っ叩かれた理由も、悲しい目をしている理由も、彼女は何も教えてくれない。聞いても、いつもはぐらかされる。一体、美空さんは僕に何を隠しているのだろうか。 金曜日の夜は、また文也さんに飲みに誘われたので、春樹と一緒にいつもの小ぢんまりとした居酒屋に入った。文也さん曰く、「飲まなきゃ、やってられない」らしい。 僕は図書館でアルバイトをしている文也さんなら、美空さんのことを何か知っているかもしれないと思い、彼から聞き出そうと考えた。しか
金曜日の四限の講義が終わり、私は久しぶりに法学研究会の部室に顔を出すことにした。姉の事件以来、何となく行きづらくなり、部室からは足が遠ざかっていた。この前、樹梨にはサークルはほとんど活動していないなんて言ったけど、あれは嘘だ。ただ私が、行きづらくなっていたから行かない口実を作って自分を正当化しただけ。私はずるい人間だ。本当にそう思う。 とりわけサークルの人達と仲が良かった訳では無い。もしかしたら色々詮索されるかもしれないという懸念から、行けなくなっていた。 部室はサーク
「圭吾。鈴ちゃんが来たわよ」 玄関から母さんの声が聞こえる。朝の身支度を終えて、僕は部屋を出る。脚本でストーリーの持って行き方に苦労して、深夜まで脚本を書いていた。それから宿題を済ませたので、睡眠時間は三時間ほど。本当に眠い。 「おはよう」 玄関では江藤鈴奈(えとうすずな)が待っていた。鈴奈が朝に家に来るのは、日課になっている。僕は母さんが見送るのを背に、待っていた鈴奈と一緒に家を出る。 鈴奈は僕の家の隣に住んでいる幼馴染。同い年で、高校も同じ、クラスまで一緒だ。家族ぐ
俺は夏姫(なつき)のことを心の中で『暴君ちゃん』と呼んでいる。夏姫は優秀で完璧な漫画家だ。絵が雑誌で一番上手でストーリーも最高に面白い。美人でとにかく愛想が良い。編集部の評価は最高だ。俺はその最高の評価を得ている美人漫画家の担当編集者になったと聞き、天にも昇るような気持ちで彼女の職場に言ったものだった。しかし、その淡くてふわふわした期待は、ハンマーでガラスを叩き割るように簡単に崩れた。「これからあんたは、私の下僕としてみっちりと働いてもらうわよ」 アシスタントは夏姫に絶対
僕は三日ぶりに大学図書館に足を踏み入れる。図書館で美空さんの顔を見ることが、僕のささやかな楽しみになっていた。 彼女の影響からか、僕も今まで敬遠していた欧米文学を書店で手に取るようになった。まずは、彼女が好きなシェイクスピアやトルストイあたりから読み始めようと思う。 僕がいつものように階段を使って地下二階の書庫に下りると、そこには美空さんのほかに、茶色気味でショートカットの女の子がいるのが見えた。すると彼女は、右手で美空さんの左頬を思いっきり引っ叩いた。はち切れるような音
事件から一週間が経ったある日、二人の刑事が家を訪れた。彼らは姉の事件の担当刑事で、事件以来一度会っていた。滝川というくたびれたスーツを着ている初老の刑事と大野という背の高い若手刑事だ。彼らは事件で今分かっていることを話に訪れた。 リビングで私たち家族は集まり、テーブルに腰かけて刑事の話を聞く。事件については滝川が説明している。要約すると、姉を刺したナイフは鋭利なナイフで、深くまで刺さっていたという。深夜に人気のない場所での犯行だったため、目撃者はいないということだ。事件現