「ここからは、俺が聞き込みで集めた噂だ」 その後のシチリアについて、クワンダが話す。 「エリックの死を聞かされたゼンタは後を追い海に身投げ、娘を失ったルチアノは精神を病んで引退、レオネが今のボスらしい」 島の連中は皆、油断ならない。 「隙を見せれば、寝込みを襲われるぞ」
「孤児の俺は、ある人に拾われシチリアへ渡った。レモン農家の手伝いさ」 「噂では、固い結束と血の掟で知られる互助組織があると聞いた」 島へ渡る際、警護の必要性からクワンダも下調べをしたらしい。 「ボスの娘、ゼンタは外から来た俺を珍しがり、すぐに仲良くなったよ」
そして、夜が開けた。 レオネは遺体で発見された。災いの種に呑まれた者の末路。 手下の何名かは、館から逃げていた。 「ボス!」 「しばらくは、現役復帰せねばならんな」 ルチアノは元気を取り戻し、一家にこう語った。 「夢から覚める間際、私は抱き合うエリックとゼンタを見たよ」
「ああ、エリック!」 うつろな瞳。悪夢にうなされるうわ言。 「ゼンタ! 俺だ、エリックだ!!」 同時刻、ダッチマン号からエリックも夢渡りでゼンタの夢に入ったが。 愛しい人には、届かぬ声。 「まるで、悪夢の牢獄ね」 解呪の専門家ベナンダンティのマリカが見ても、病状は深刻。
その夜、シチリアはオーロラに包まれた。 夢見の宝珠が、島にいる者全員にゼンタの見る夢を共有させた。 彼女は泣いていた。 意識は闇に閉ざされ、愛する人の温もりを求め、歌声は呪いと化す。 「この感じは…」 アッシュは、ピラミッドで悪夢の呪いを受けた時を思い出していた。
「死んだはずのゼンタしゃんが人魚って、ど〜ゆ〜ことでちか?」 「その件は、ボクが話すよ」 シャルロッテの疑問に、海賊少女マリスが答える。 「人魚たちの多くは、事情があって陸を捨てた元人間でね」 ゼンタは先輩の人魚から術を教わり、姿を変えて恋人を探し続けてる…?
ジブラルタ海峡に響く、呪いの歌声。聞いてしまった者は精神を乱され操船を誤り、座礁か沈没に至る。交易船は足止めされ、物流は停滞。 「やっぱり、ゼンタの声だ」 「エリックが故郷に残したって恋人の?」 海賊少女マリスが問う。呪われた幽霊船ダッチマン号の乗員だけは、難を逃れていた。